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: 1.3 気管内挿管に対する反省の時代 : 1. 人工呼吸器の歴史的な使われ方 : 1.1 陰圧式呼吸器の時代   目次


1.2 気管切開と陽圧式呼吸器の時代

トレンデンベルグは、1869年1.5に、はじめて麻酔に気管切開チューブを用いた報告をしている。

その後、麻酔に気管内挿管を用いた報告が続き、1893年には間欠的陽圧換気を実行するための手動式の袋1.6が作られた。

気管切開と機械式の人工呼吸器は、第一次世界大戦中に広く使われるようになった。

鉄の肺を利用している人でも、気道分泌物をとるために、気管切開はしばしば行なわれたにもかかわらず、なぜか現在のような 人工呼吸器が作られることは無かった。

1.2.0.1 ポリオの大流行をきっかけに陽圧式呼吸器が生まれた

しかし、1952年のデンマークでのポリオの大流行の際、従来のような人工呼吸器の数が足りなくなった際、現在のアンビューバッグ のような道具による手動1.7呼吸(図1.6)が行われた。

図 1.6: 気管切開を受けた子供と、バッグを押す医師。
\includegraphics[width=.4\linewidth]{poliovent.eps}

同時期に、現在の人工呼吸器の原型(図1.7)が作られた。これは、一定時間ごとに、吸気と呼気を繰り返すように 設計されており、うまく働いた最初の呼吸器のひとつになったという。

図 1.7: 黎明期の陽圧式人工呼吸器のひとつ。外枠は木製。
\includegraphics[width=.4\linewidth]{resp.eps}

1.2.0.2 鉄の肺と気管切開の比較で、気管切開の優位性が証明された

鉄の肺は十分な呼吸の補助を提供できたが、患者は全く動くことができず、 気道内分泌物を気管内挿管の助け無しに除去することは難しかった。

この頃はもちろん、BiPAPは普及しておらず、また機械により分泌物の排出を促す方法も、1954年までは一般的でなかった。

また、デンマークでのポリオの流行時には、球麻痺の合併した人の死亡率は94%だったのに対し、 球麻痺1.8の合併していない人の死亡率は28%であった。

これらの事実から、特に球麻痺の合併した人にはより多く気管切開が行なわれるようになってきた。

気管切開と、体外式人工呼吸器のどちらがより好ましいのかという議論は長く続けられた。そして1955年に、 国際学会で呼吸不全に嚥下困難、意識低下を合併している患者には気管切開を行なうべきであるとのコメントが出された。

1.2.0.3 呼吸ケアの効果もこの頃発表された

同じ頃、個人個人のケアを徹底することで、死亡率が劇的に下がるという印象的な事実が発表された。

ポリオの死亡率は1948年当時の15%から1952年には2%に下がっていたが、この数字は頻繁に気管切開を行なっている病院と、 陰圧式人工呼吸器を用いている病院とでは大きな差はなかったのである。

これらのことは、過去の高い死亡率は陰圧式の人工呼吸器が劣っていたわけではなく、球麻痺の存在と、 それによる分泌物の誤嚥によるものだと言うことを意味する。より良い看護と、気道分泌物を除去する技術の進歩が死亡率をさげた。

1.2.0.4 陰圧式の呼吸器の良さを見直す動き

1958年に、フォーブスはこう記している。

気管切開は、ある種の患者ではより確実な気道を提供してくれるが、 その一方で気道分泌物が末梢気道から吸引可能な部位まで移動してくるのを助けることはできない。 気管支鏡でも届かないような末梢気道の痰をとるために、なんらかの機械的な補助が必要である。

フォーブスは過去の6つの研究を比較し、

ことなどを発表している。

1.2.0.5 陰圧式人工呼吸器は表舞台から消えた

これらの事実にもかかわらず、患者の動きが極めて制限されること、気管切開の手技が容易になり、 管理がしやすくなったこと、更に陰圧式呼吸器に耐えられなかったり、球麻痺がある患者でも使えることなどから、 1960年代に入ると長期人工呼吸管理の標準は、気管切開と陽圧式換気装置になっていった。

更に、気管切開を用いることで、酸素濃度の管理や一回換気量の管理も正確にできる呼吸器も登場した。

気管切開に加え、気管内挿管の技術が普及するにつれて、用手的に咳をさせる方法も教えられなくなり、 タンク式人工呼吸器を使える者も減っていった。

マスクを用いた、非侵襲的陽圧換気装置は、患者によっては気管切開よりも好ましく、更に陰圧式呼吸器よりも優秀であるが、 これの登場は1969年である。更にこれが24時間を通して使えることが証明されたのは、1980年に入ってからだった。


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admin 平成16年11月12日