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: 1.2 気管切開と陽圧式呼吸器の時代 : 1. 人工呼吸器の歴史的な使われ方 : 1. 人工呼吸器の歴史的な使われ方   目次


1.1 陰圧式呼吸器の時代

1.1.0.1 最初の人工換気は1500年代に始まった

機械的な人工換気を最初に始めたのは、恐らくはパラケルスス1.1が1530年に、 死にかけた人の肺にふいごで空気を送り込んだのが始まり1.2である。

この、ふいごを用いて患者の口から空気を送りこむ方法は、一応効果がある蘇生術として、 ヨーロッパでは19世紀まで行なわれた1.3

1.1.0.2 タンク式の呼吸器の開発

気管内挿管が開発されたのがもう少しあとだったためか、世界で最初に開発された人工呼吸器は、 現在のものとは全く異なる。

これはタンク式呼吸器、あるいは陰圧式呼吸器などと呼ばれ、患者の周囲を陰圧にすることで、患者の肺に空気を送り込む。

タンク式人工呼吸器が最初に記載されたのは、スコットランドのJhon Dalzielらが1838年に発表したもの(図1.1)である。 陰圧の作成は2つのふいごを用い、手動で行なわれた。

1.1.0.3 効果が証明できるまではかなりかかった

この装置は少なくとも一人の溺水患者で用いられたことが確認されており、 患者は座った状態で呼吸器内に入り、口や鼻から空気が入っていくのがはっきり確認できたとされている。 しかしながらこの患者は亡くなってしまったという。

図 1.1: 最初の呼吸器は手動だった。左の空気入れのようなレバーを人が上下させると、箱の中の圧力が変化する。
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更に、これとほとんど同じ機械が1864年にアメリカで特許が出されており、 その適応は麻痺の患者、リウマチ、喘息、気管支炎などであった。

ほかのタンク式呼吸器としては、Wollezらの最初の実用的な鉄の肺である"spirophore"がある。 彼らはこれを溺水の患者の救命に用いたと主張したが、公式な記録は残されていない。

救命的な効果を発揮した初めてのものは、Egonらの小児用の小さな木の箱で、 これは医師の息により陰圧を発生するものであった。彼らはこれにより、50例の成功例を発表している。

機械式の人工呼吸器の試作品は1908年に発表され、また患者自身で呼吸を補助できるような装置も工夫された。

1.1.0.4 鉄の肺の登場

最初の鉄の肺が広く世の中に知られたのは、1928年のボストンでのことである。 この機械は最初の電気式で動く呼吸器であり、ハーバード大学病院や、 ロックフェラー基金により中国の北京大学病院に贈られたりした。 この機械は当初、阿片中毒の患者の呼吸抑制の治療に使われた。

図 1.2: 代表的な鉄の肺の写真
\includegraphics[width=.7\linewidth]{tank2.eps}

図 1.3: 鉄の肺の内部写真。隣の夫人は、これを38年間使用した後に気管切開を受けた。

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そして1936年になり、有名なシカゴの銀行家の家族が北京でポリオにかかり、 鉄の肺で救命されたことをきっかけに、ポリオの流行に備えて鉄の肺が大量生産されることとなった。

図は1950年ごろのICUの写真であるが、今とは全く異なり、棺桶が大量に並んでいるように見える。

図 1.4: 1950年代のICUの風景。鉄の肺が並んでいる。

\includegraphics[width=.5\linewidth]{ironlungs.eps}

この形の呼吸器は、1950年代のポリオの世界的な流行を境に、だんだんと廃れていった。

1.1.0.5 胸郭式呼吸器

鉄の肺は体全体を覆うため、オムツ交換ひとつ満足にできない。体全体を覆うのではなく、胸郭周囲を陰圧にするだけでも、 理論上は呼吸ができる。

最初の胸郭式呼吸器 1.4が開発されたのは、 1876年のことである。 これは、手術後の無気肺をマスクを用いたCPAPを用いて治療している際に、呼吸を補助するために考えられた。

さらに1904年に、後に大量生産されるものと同じような胸郭式呼吸器が作られた。 1949年には持ち運びのできる胸郭式の人工呼吸器が作られ、患者が日中座っていても、 夜間寝ていても呼吸を補助するように作られていた。

着用できるような陰圧式人工呼吸器が最初に作られたのは、1955年のことである。

図 1.5: 胸郭式呼吸器のひとつ。これに、コンプレッサーを接続する。
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けっこう便利だったが、十分な換気量がとれず、やはりほとんど使われなくなった。


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admin 平成16年11月12日