陰圧式の人工換気は、このため上気道の閉塞を招く危険性をもっている。
近年開発された、患者の呼吸に合わせた陰圧式呼吸器ではこうした問題はなくなると思われたが、効果はなかった。
胸腔内の陰圧を持続的に行なう(PEEPと同じ考え)、最近発売された陰圧式の呼吸器では、 肺気種の患者に慢性期に使用することでガス交換の改善を得られたが、まだ急性期の呼吸不全に用いられた報告はない。
挿管を行なう人工呼吸と、マスクによる人工呼吸との最も大きな違いは、マスクによる人工呼吸は空気漏れを許容するために、 開放回路になっていることである。このマスクによる人工呼吸がうまく行くか否かは患者が許容できるかどうかにかかっているが、 近年の研究では、声門の機能が保たれているかどうかが鍵になっているらしい。
急性呼吸不全の非侵襲的人工換気の良い効果は、呼吸筋の仕事量を減らし、呼吸筋疲労を抑えることだとされている。 急性呼吸不全では、呼吸筋は体の酸素需要の増加に直面している。このため呼吸筋はいつもより多くの血液を要求するが、 これが心臓から送られてこないと呼吸筋は疲労する。このため十分な呼吸が行なえなくなり、呼吸筋への酸素供給はますます減る。
このために低酸素血症、高二酸化炭素血症、呼吸性アシドーシスが成立する。人工換気はこの悪循環を断切ることで、 呼吸筋に休息を与え、結果として患者を救命する。
この仮説は、肺気腫の急性増悪などにマスク人工換気を行なうことで呼吸数、横隔膜仕事量が減ることで裏づけられている。 COPD急性増悪の患者の場合には更に、PEEPを付加することで患者の内因性PEEPをキャンセルすることができ、 ますます呼吸負荷を減らすことができる。
気管内挿管と、マスクによる人工換気を直接比較した研究はない4.2。 更に、気管内に直接空気を送り込めないこと、マスクからの空気漏れの問題などもあり、 この手技を行なうには注意深い患者の選択が必要となる。