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: 4.3 非侵襲的換気の原理 : 4. 急性呼吸不全と非侵襲的陽圧換気 : 4.1 歴史的経過   目次


4.2 急性呼吸不全の理論的背景

4.2.0.1 気管内挿管には問題が多い

急性呼吸不全に非侵襲的換気を用いるもっとも大きな理由は、気管内挿管による合併症を避けるためである。 気管内挿管による合併症は、大きく3つある。

挿管をするときには、胃内容物の逆流、歯の欠損、喉頭の損傷などが起こりうる。特になれていない人間が行なうと、なおさらである。更に気管内挿管を行なうことで、致命的な不整脈や血圧の低下が起こりうる。 更に挿管に手間取ると、胃内容物の逆流、痙攣、心停止を引き起こす。

挿管チューブの位置が悪ければ、圧損傷や気胸、胸郭の損傷、皮下気腫などを生じうる。

4.2.0.2 気管内挿管自体が防御力を落とす

また挿管という行為は患者の本来持っていた自然の防御機構を壊す。このため細菌の常在化を招き、炎症を生じ、 気管の線毛運動を妨げる。これら全ての要因が肺炎や副鼻腔炎の増悪因子となり、これらはしばしば致命的となる。

誤嚥性肺炎は、多くは常在菌や胃内容物の吸引により生じるとされ、約21%の人工呼吸器患者に生じる。 また経鼻挿管を行なった場合の副鼻腔炎の合併は、5〜25%とされている。

4.2.0.3 気管内挿管中は上気道の機能が無くなる

恐らくは、気管内挿管患者の最も大きな問題は、上気道の機能が全く使えなくなることであろう。 これには会話や摂食も含まれる。患者は会話などのコミュニケーションができないために苛つき、 しばしばセデーションが必要となる。またこのことは同時に、ウイーニングをはかるときにも問題となってくる。

更に、気管内吸引はそれ自体が気管を刺激し、気道内分泌物を増やし、更なる吸引を要求する。

抜管した後も気道の狭窄、喉の痛み、痰の増加などはしばしば経験されることである。更に、 挿管するということは集中治療室の在室日数を長引かせ、ウイーニングも必要なためにコストの増大をまねく。

4.2.0.4 マスク換気は挿管に伴う問題点が少ない

これらの一方で、非侵襲的人工換気は会話や食事ができ、また気道分泌物を自分で出すことができる。

更に呼吸器は簡便4.1であり、気管内挿管に比べてコストも安くなる。 また集中治療室が最も安全であるとはいえ、 マスクによる換気は十分な看護があれば、一般病棟で行なうことも可能である。

集中治療室のベッドを空けておくことができれば、何かの事態での対応も早くすることができる。 こうした理由から、非侵襲的人工換気は広く用いられるようになり、また気管内挿管に比べて新たに良い点も見つかりつつある。


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admin 平成16年11月12日