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: 1.6 引継ぎ時間帯は事故が起こる : 1. はじめに : 1.4 自分の身を守るためのチャーティング   目次


1.5 医療ミスは人間関係の破綻から生じる

たとえ1年目の研修医が犯す医療事故でも、本人の実力が不足していたために生じたミスは、多分ほとんどありません。

冷や汗をかいた前胸部痛の患者を、バイタルもとらずにボルタレン1.3坐薬一つで帰宅させたら犯罪でしょう。 しかし、普通は上級医と相談していませんか?

救急外来のベテランナースであれ、当直している他科の上級医であれ、日常の人間関係が健全であれば、 それだけでミスは減ります。たとえ自分が地雷を踏んでしまっても、上級生やナース、薬剤師のレベルでフォローが入り、 助かった例は過去にも多いのです。

一方、当直しているあなたが同僚ナースに暴言を吐いて1.4いたり、薬局に怒鳴り込んだりした日の当直は、 こうした安全装置が全く働かないと思うべきです。

1.5.0.1 機長の死亡した飛行機は墜落した

危機管理の学問がもっとも進んでいるのは、おそらく航空業界でしょう。 フライトシミュレーターを用いた実験で、離陸後しばらくして、機長に死んでもらったらどうなるか、という実験があります。

前もって、機長役の人には気難しい人を演じてもらい、副操縦士が何を言ってもにらみつけるだけ、という状況にしておきます。 離陸後30分ほどして、機長が突然の心臓発作で死んでしまった、という状況を作ると、副操縦士の大半は、 墜落するまで操縦管を操作できなかったといいます。人間関係に変な緊張が入ると、 せっかくの事故防止のシステムも、まともに働きません。

1.5.0.2 悪いことは必ず続く

例えば朝、研修医が遅刻し、上司にこっぴどく怒られたとします。

彼にとって、その日の業務は、非常なプレッシャーが付きまとうでしょう。

ショックから、処方薬の記載ミスを生じるかもしれないし、 いつもだったら上司のアドバイスを受けるであろう、受け持ち患者の37.8℃の発熱を、怒られたその日は、 相談できないかもしれません。

結果、深夜に患者が敗血症性ショックになったら、発熱を放置した、あなたの責任です。 新聞には、

"発熱を放置し、敗血症を予見出来なかった研修医は、 医師としての資質にいささか欠けるところがあったといわざるを得ない"
などというコメントが載せられるかもしれません。

1.5.0.3 本当の原因は絶対報道されない

この場合の、ミスの本当の原因は、研修医が遅刻したことで、今まで正常に機能していた、 上司と部下とのコミュニケーションが破壊されたことです1.5

しかし、報道される内容は、 "無知な研修医、また患者を死なせる" でしょう。

1.5.0.4 運の悪い日は本当にある

犠牲になりたくなければ、怒られた日にこそ、いつもよりも医療ミスの起こりやすい日と考え、 回診の回数を増やし、上司との連絡を密にするべきです。一方で、侵襲的な手技などは、延ばせるものは日を変えたり、 あるいは他の人間に手を代わってもらうほうがいいかもしれません。

同様に、病棟で新人ナースが泣かされた日、他の研修医が患者と大ゲンカをした日、 上司が婦長とケンカをした日などは、医療事故のハイリスク日です。どんな形であれ、仕事場の人間関係が うまく機能しなくなった日は、気をつけるべきでしょう。

1.5.0.5 飲み会のある日は急変が多い

同様に、病棟の飲み会のある日、自分の個人的な約束事などがあり、早く帰りたい日に限って、患者は急変します。

こんな日に呼ばれても、酔った状態で患者の家族に面談しなくてはならず、印象は最悪です。

こうした事故もまた、自分のスケジュールが無用なプレッシャーになり、事故の原因になっています。

例えば、午後4時に 患者が37度の発熱をしたり、嘔吐があったりした場合、そこから採血、胸の写真を見て判断すると、5時の電車に間に合わない かもしれません。 こうしたときに、精査すべき状態を、解熱剤で様子を見たりしてしまい、治療方針に何らかの隙が生じる可能性が高いです。

飲み会のある日は、午後の患者の異常は、全面的に当直予定者にお願いするとか、4時の時点で予定をキャンセルするかして、 自分に不要なプレッシャーをかける事態を全力で回避すべきです。


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admin 平成16年11月12日