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: 6.5 液体換気 : 6. 人工呼吸による全身管理 : 6.3 肺に愛護的な呼吸管理   目次


6.4 呼吸器のモード

6.4.0.1 極力自発呼吸を生かすようにする

筋弛緩薬を使った人工呼吸(調節呼吸ともいう)は、自発呼吸に比べて欠点が多い。

例えば、同じ一回換気量であれば、気道内圧は上がってしまい、また肺が重力の影響をもろに受けるようになるために、 肺の膨らみ方が不均一になる。

図 6.14: 人工換気(右)に比べて、自発呼吸を行っている肺は均一に拡がる。
\includegraphics[width=.9\linewidth]{jihatsu.eps}

このため、患者の自発呼吸がまったくない場合、または非常に酸素化が悪く、 後に述べるような特殊な呼吸モードを用いたいような場合以外は、 自発呼吸を極力止めないで呼吸を調節するのが原則である。

6.4.0.2 患者の快適さと、呼吸の確実さの妥協の結果、いくつものモードが生まれた

出現当初は、ポリオの救命の手段として世界中に普及したした従量式の呼吸器ではあったが、すぐにいくつもの問題点が生じた。

もっとも問題となったのが、意識のある患者が呼吸器に容易に同調できず、気道内圧があがってしまう点である。 このために人工呼吸器を用いる際には、筋弛緩剤が必須の時代があった。

技術の進歩とともに、患者の自発呼吸を感知するトリガーや、呼吸器の流速を制御する技術が開発され、 その結果プレッシャーサポートが生まれた。

しかし、自発呼吸に近いモードが開発されるほど、

というジレンマを生じてしまった。このため、古臭いが確実な、従来の従量式の換気様式と、理論上優れているが 不安定な、プレッシャーサポート以後の換気様式の両立を図るために考えられたのが、SIMVをはじめとする各種の呼吸モードである。

6.4.1 SIMV〜まだまだ主流のモード

患者の自発呼吸を止めないために、まず考えられたのはIMVである。これは、一定時間ごとの従量式呼吸の合間に、 自由に呼吸が出来るように工夫されたもので、1970年代にかなり広まった。 これを改良したのがSIMVであるが、このモードにすると、患者は自分の呼吸と機械による強制呼吸とを交互に呼吸するようになる。

SIMVは自発呼吸の弱い患者であってもバックアップ呼吸のように働き、またウイーニングにもそのまま応用が効き、 さらにプレッシャーサポートとの併用も可能であるなど、応用範囲が広いので広く用いられている。

しかし、強制呼吸中は自分のペースの呼吸ができず、自発呼吸に同期はしていてもやはり患者は苦しく、 気道内圧のコントロールも難しい。

6.4.1.1 機械換気と、自発呼吸は根本的に違う

従量式でも、従圧式であっても、呼吸器の作り出せる空気の流量はどちらも一定である。 これに対して、生理的な自発呼吸は、吸気のはじめに大量6.11の流量が入り、 吸気のおわりは流量が少なくなるという、流量漸減型の呼吸を行っている。

このため従量式の呼吸器に同期して、患者が自分の呼吸を行うと、吸気のはじめは流量が足らないために苦しくなり、 一方、吸気のおわりに不必要に空気が肺に入ってくるために、 バッギングが生じる6.12

これでは自発呼吸を出しても、患者の呼吸仕事量を減らすことは難しい。結果として呼吸器に同調しないということで、 鎮静を深くかけたり、筋弛緩を行ったりすることになってしまう。

6.4.2 プレッシャーサポート呼吸の出現

吸気流量を一定のまま自発呼吸を行うことには、そもそも無理がある。 生理的な呼吸は、気道内圧は大気圧でほぼ一定であり、吸気流速を変えることで換気量を稼いでいる。 このため、陽圧呼吸を行う際にも、気道内圧を変化させることなく、吸気流速を制御できれば、 最も生理的な呼吸に近い呼吸が実現可能となる。

こうしたことから、吸気流量を調節することで呼吸を制御することは長年の夢であったが、技術的な理由から非常に難しく、 近年になるまで実用化されなかった。

しかし1980年になり、ジーメンスがサーボ900C6.13にはじめてプレッシャーサポートを取り付けて発売して以来、 現在では出回っている呼吸器のほとんどすべてにこのモードがつくまでになっている。

6.4.3 MMV〜SIMVの改良版

PSVの登場から20年が経ち、呼吸管理の主役はようやくこちらに移った感がある。

しかし自発呼吸の不安定な患者にバックアップの目的でSIMVを入れてしまうと、 どうしても一定時間ごとに機械による強制換気が入ってしまう。

例えば、1分間に10回にSIMVを設定すると、たとえ自発呼吸が10回以上あったとしても、 患者は1分間に最低10回は苦しい思いをし、不快感が強くなってしまう。

6.4.3.1 患者が元気になるほど、機械が余計な仕事をしなくなる

この欠点を無くし、PSVのメリットを最大に生かすようにしたのがMMVである。 これは、呼吸器が患者の分時換気量を常にモニターしており、 設定以上の分時換気量が維持されている限りは、バックアップ換気を入れない。

機械が余計にでしゃばらない分、患者は楽に息ができる。

ベア1000とエビタに、このモードがついているが、考え方自体は非常に古くからあり、電子制御を一切使わない、 純機械式のMMVの報告が、1970年代にすでにある。

6.4.4 PCV〜ARDSなど、特殊な症例で試みられる

6.4.4.1 PSVだと酸素化がよくならない症例がある

PSVの登場により、急性期呼吸不全の患者であっても、自発呼吸を中心に呼吸管理が出来、 肺に対してより愛護的な処置をとれるようになった。

しかし、PSVの欠点として、吸気流速があまりにも早いために、呼吸数が早すぎる患者や、 痰の量の多い患者などでは吸入した空気が気管から肺胞に拡散していく時間がなく、 口と気管内を往復するだけになる現象が生じる。

このときには呼吸数が30回近くになっても一向に血液ガスが良くならないことで分かるが、 こうした際に鎮静を深くする以外に行えるものとして、PCVがある。

6.4.4.2 吸気のみ患者をトリガーし、呼気は時間を設定する

これは、PSVのような呼吸様式を維持しつつ、一回吸気すると設定した時間(普通 1.0から2.0秒程度) は吸気圧を維持してから呼気に転じる。この間、患者は息を吐けないために深呼吸を強制されている形になる。

このモードは、主にARDSに移行しそうな重症患者、または他のモードで換気が改善しない場合などに試みられるが、 最初からPCV、あるいはPC-SIMVを用い、従来の従量式換気を用いない施設も出てきている。

具体的には、吸入酸素濃度 60〜100%、換気回数 10〜12回/分、PCV 圧 15〜18cmH2O、(PSVは 10cmH2O程度)PEEP 5cmH2O、 吸気時間 1.5秒程度から開始、患者の状態が改善するにつれて換気回数、PCV圧を下げていき、ウィーニング期に入ったらPSVに 移行していく。

このモードの利点としては、患者肺の平均気道内圧を高めに、ピークの気道内圧を低めにコントロールできるため、 肺に愛護的な状態を保ちつつ、肺胞が開いている時間を長くすることができることである。 一方、欠点としては分時換気量が保証されないこと、まだ大きなトライアルが行われておらず、 その効果6.14についてはまだ確立していないことなどであろうか。

6.4.4.3 漸減型の吸気フローパターン

個人的には、PCVの換気様式はメリットが多いと考えているが、当院の病棟の呼吸器ではできない…。

また、従来型のSIMVであっても、漸減型の吸気フローパターン6.15を用いることで、 PCVのメリットのほとんどを再現できるという報告も多い。

普通の呼吸器では、吸気フローパターンは方形波、漸減波、正弦波6.16の3つから選択できるが、 どんな患者であっても漸減波が第一選択になる、と覚えておけばよい。

6.4.5 患者トリガーの改良

人工呼吸管理の基本は患者の呼吸仕事量の軽減に尽きるが、 こうした点で、呼吸のモードとともに重要になってくるのが、患者の呼吸トリガーの問題である。

6.4.5.1 最初のプレッシャーサポートは、あまり快適にならなかった

SIMVが主流であった時代には、患者の自発呼吸の管理は回路内圧の低下(圧トリガー)で行っているものがほとんどであった。

これでは呼吸補助をいくらかけても、患者は呼吸する瞬間は何の補助もしてもらえず、 質の悪いトリガーを持った呼吸器6.17では、 かえって患者の呼吸負担が増えてしまい、自発呼吸をベースにした呼吸管理が難しくなる。

6.4.5.2 フロートリガーが出来てから、呼吸は非常に楽になった

この点を改善するために、当初用いられたのが回路内定常流であり、 さらにそれを患者トリガーに応用したのがフローバイモード6.18である。

呼吸器を選択する際、特に患者自発呼吸を優先する場合には高性能な(必ずしも高価という意味ではない)ものを選択したい。 この際に見るべきものは。患者のトリガーモード、そして呼吸器内の気道抵抗の問題である。

呼吸器のトリガーの性能は応答時間であらわされ、最近までは100msを切る物はなかったが、 現在では20msクラスのものも登場している。

気道内にセンサーを置いたトリガーシステムでは、どんなに鋭敏なセンサーを置いたとしても、 たとえば挿管チューブが詰まっていた場合などは換気不能となる。

ここまで極端ではないにしても、たとえば喘息急性期などでは気道が狭窄しており、患者は気道内の空気すら、 十分に動かすことはできない。この問題を打ち破るため、食道内圧を利用して胸腔内圧をモニターし、 これで換気トリガーをかける呼吸器や、胸囲の変化で換気をスタートさせる呼吸器などが研究されている。

6.4.6 IRV

PSVやPCV6.19などとは逆の方向で、 非生理的な換気様式で患者の酸素化の改善を探る研究も続いている。

大きく深い呼吸をすると、閉塞した肺胞にも酸素が入りやすくなるが、これを極端にしたのがIRVである。 人間は吸気:呼気の時間比は大体1:3前後であるが、IRVではこれを逆転させる。

結果、きわめてゆっくりとした吸気と、早い呼気のパターンになるが、この換気パターンは、 筋弛緩剤投与を行わないと苦しくて続けられない。

このモードは、ARDSや肺炎など、気道の不均一な閉塞が問題になっている症例で効果があるとされ、 肺水腫などの、肺が均一に侵される疾患では効果は薄いといわれている。

効果がある症例では酸素化が非常に良くなるらしいが、 一方呼吸器から離脱してくる過程でまた悪くなってしまう症例も多いという。

また、もともと酸素化をよくするために考えられたモードにもかかわらず、なぜかCO2の排出がよくなる、という報告も多い。

6.4.7 気道内ガス送気法

現代的な呼吸管理を行うほど、血液中のCO2はどんどんたまっていく。いくら生命に対する影響は無いといわれても、 何とかしたいのが人情である。他のモードに影響を与えず、CO2の除去にのみ効果を発揮するのが、気道内ガス送気法である。

図 6.15: 気道内ガス送気法。やっていることは単純で、挿管チューブのさらにおくまで細いチューブを挿入し、 そこから1〜6l/分の酸素、あるいは空気を送り込むだけ。

\includegraphics[width=.5\linewidth]{tgi.eps}

この方法を従来の人工換気に併用することで、血液中のCO2の貯留は減少し、分時換気量を減少させることが出来たという。


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admin 平成16年11月12日