人工呼吸管理下に置かれた患者の場合、現在では一番注意しなくてはいけないのがPaO2、 次に注意するのが最高気道内圧を40(できれば30cmH2O)cmH2O 以下に保つことであり、 PaCO2を正常域に保つことについては、重要視されなくなってきた。
二酸化炭素が体に貯留してくることは異常な状態であり、この原因になった病気を治す必要がある。 では、たまってしまった二酸化炭素それ自体は、本当に人体にとって有害なのだろうか。
喘息の患者の例を考えてみる。
こうした状態になると、気管内挿管による人工呼吸管理が必要になるが、 従来はこうした患者は従量式呼吸による血液ガスの正常化が優先され、 1980年代半ばまでは人工呼吸管理下になった喘息患者の死亡率は5から38% であった。そして、 その原因のほとんどが圧損傷(baro trauma)6.10であったという。
1990年になり、こうした点に対する反省点から、喘息の呼吸管理にpermissive hypercapnia (高二酸化炭素血症を容認する)という考えが導入され、死亡率の改善が報告されるようになった。
この方法は、動脈血酸素分圧が正常に保たれていれば、PaCO2がいくら上昇しようと目をつぶり、 一回換気量を抑えて気道内圧を低く保つことで、肺を保護することを優先する考え方である。
PaCO2は、80mmHg台までは容認、pHについては議論があるが、これも7.2以下になっても補正不要とされている。
この方法により、喘息の生命予後自体は大きな変化を生じなかったものの、呼吸器の使用が原因となった死亡率が0になった。
この考え方を受け、またPEEP圧の設定の流行が、年々高くなっていったことにも影響され、 従量式呼吸の一回換気量の設定は、1980年代と比べると半分程度にまで縮小しつつある。
ここにきてようやく、自発呼吸をしっかり残すことができ、また気道内圧を上げないというPSVの先進性が理解され始め、 1990年代に入ってからは呼吸管理の中心はPSVとなった。
ピーク気道内圧を上げてでも、血液ガスデータを正常化させようとすると、緊張性気胸をはじめとする 致命的な合併症を生じやすい。
一方で、PEEP圧については、"肺にやさしい"という理由から、年々高くされつつある。一見矛盾しているように感じるが、 これは理にかなっている。
正常な肺は、全ての肺に均一に圧力がかかる。
こうした状態であれば、肺はかなりな圧力に耐えることができる。例えば、市販のゴム風船を膨らませるための圧力は、 通常300mmH2O程度である。これが、水枕を膨らませる人間ポンプの芸などでは、もっと高くなる。
喘息患者の、挿管中の気道内圧など、これに比べれば問題にならないぐらい低い。では、なぜ気胸が生じるのだろうか。
両方とも、健康な肺胞と、分泌物が詰まって虚脱した肺胞が混在している。この状態に、陽圧換気を行うと、 健康な人のようには肺は広がらない。
図6.13のように、圧力が正常な肺に集中してしまう結果、それほど高い圧力がかからなくても、肺は破壊される。
こうした状態の肺に、高いPEEP圧をかけることで、図6.13の状態を、強制的に図6.12に持っていってしまえば、 平均気道内圧が 上昇しても、正常な肺にかかるストレスは減少するかもしれない。
現在は、こうした考えをする人が徐々に増え、
という呼吸管理が、徐々に浸透しつつある。