高濃度酸素投与の問題点はあるものの、酸素化の改善を達成するのに最もよく用いられるのが酸素の投与である。 とくに、体の酸素需要が亢進していることによる低酸素血症では、非常に有効な治療法である。
酸素の投与方式には、大きく分けて低流量方式と高流量方式の2種類がある。
低流量システムは、鼻カヌラや酸素マスク、リザーバーマスクなどの一般に病棟で使われるほとんどの道具であり、 10l までの低流量の酸素を流すことで酸素化を行う。
低流量システムは低濃度酸素と誤解されている部分があるが、 このシステムは、患者の呼吸量が少ないときには、予想以上の高濃度の酸素が患者に入ってしまい、 一方で呼吸数が増し、本当に酸素がほしいときには、呼吸量に反比例して供給酸素濃度が落ちてしまう。
また、通常の酸素マスクを5l/分以下の流量で用いていたりすると、マスクの中に蓄積した呼気が再呼吸され、CO2が貯留する。 5l/分以上の流量であれば、通常は呼気のほとんどは、マスクから洗い出される。
この低流量システムは正確性、信頼性はないが歴史があり、簡便で、患者の快適性が高いという理由から、 長く用いられてきた。理論的にはすべての面で高流量システムに劣っているが、 ほとんどの場合にこれで間に合っているのも、確かである。
このシステムを用いる場合、使うマスクにより酸素の流量を変える必要だけ、注意してほしい。 酸素の流量が少ないとCO2の貯留を招き、また多すぎてもFiO2を上げることはできない。
高流量システムの代表が、ベンチュリーマスクとインスピロンである。
これらは酸素濃度が一定の空気を、患者の分時換気量の4倍程度の流量で流すことで、一定濃度の酸素濃度を供給する。
高流量システムには、以下の3つの利点がある。
病棟には、たいていベンチュリーマスクがあるはず。
血液ガスは、患者の体位によっても大きく変化する。
換気と血流との不均等を改善することで、酸素化は改善する。患者体位の変換は、重力を利用して、 血流の分布を改善することができる。
具体的な例としては、肺炎、肺がんの患者は、悪いほうのの肺を上側にして寝たほうが、酸素化がよくなる。 換気の良い、健側の肺への血流量が増すからである。
また、人間はもともと仰向けに寝る習慣を持っているため、背中側の肺は空気が入りにくく、胸側の肺は柔らかく、 空気が入りやすい性質を持っている。
胸側の含気のいい肺に血流が増え、背中側の含気の悪い肺の血流が減少するため、 酸素化が劇的によくなる3.4ことがある。
この方法は、気管内挿管を行っている患者ではやりにくい、仰向けに戻すと、また酸素化が悪くなるなど欠点もあるが、 簡便に施行できるため、いろいろな工夫が発表されている。
換気の悪い肺に空気を送る手段としては、排痰がある。これも、中枢気道の痰をとる咳の補助やサクション、 末梢気道の痰を出させる呼吸リハビリなど、いくつかの方法がある。
これらの方法は更に、患者本人に行なってもらう方法と介助者が行なうものとに分けられ、 患者が自分で行なうものとしては強力な咳、ハフィング3.5、 能動呼吸3.6などがある。介助者に行なってもらう方法の中で代表的なものは、 いわゆる肺理学療法3.7である。
PEEPマスクを用いた方法、IPPV3.8をマウスピースで行ってもらう方法も、同じ原理を利用している。
呼吸不全の患者を扱う際、PaO2以外にも必ず気にかけてほしいものがHbである。
酸素を運ぶのは赤血球の役目であり、貧血のある患者では、どんなに酸素化をよくしても、 組織に十分な酸素を供給することができない。
特に、慢性呼吸不全の患者は消耗していることが多く、貧血(Hb8程度)は決して珍しいことではない。
実際に、肺気腫の急性増悪期の患者に輸血を試みることで、呼吸数と呼吸困難感の減少を見たという報告がある。 最近では、心不全患者にもエリスロポエチンを用いることでHbを上げ、運動能力や予後の改善を見た、 という報告も出ている3.9。
一方で輸血は、やりすぎると肺水腫を招き、また予期せぬ副作用をもたらすこともあるため、注意が必要ではある。
Hbを増すと、血液粘調度が増し、心筋仕事量が増える。最も効率がいいのは、Htで30前後(Hbで12前後)といわれている。
これは、大きな呼吸をすることで、同じ換気量あたりの死腔3.10を減らすことができ、結果として呼吸仕事が減ること、そして、 ゆっくりと呼吸することで、特に肺炎をはじめとする呼吸不全の人では、含気の悪い病側の肺にも空気が入っていくためである。
痰や気道の狭窄などで空気の通過が悪くなっている肺胞であっても、空気がゆっくりと通過する分には普通に換気ができる。
しかし、狭窄した部分の空気の通過速度が速くなると、流速に応じて抵抗が増え、 呼吸数が早くなるほど換気が悪くなってしまう。
苦しがっている人に、これをやってもらうようにいっても、無理がある。
このため、頻呼吸を生じている人には軽く鎮静をかけることで、分時換気量は減っても有効な換気面積が増え、 結果として酸素化がよくなる。
具体的にはCOPD増悪期などに低酸素が問題となった際、セルシン静注等で鎮静をかけた上でBiPAPなどを用いてみると、 FiO2を増やさなくてもうまく酸素濃度が上昇することがある。
ただし、失敗するとそのまま挿管になってしまうため、厳重な注意が必要。
組織の酸素化は、動脈血の酸素濃度だけで決まるものではない。
たとえば甲状腺機能亢進症の急性増悪期、発熱した患者などでは、血液中の酸素濃度は正常であるにもかかわらず、 酸素不足による代謝性アシドーシスを生じることがある。 これは、過剰な甲状腺ホルモンの働きで、組織の代謝が加速していることによる。
こうした症例では普通、酸素投与に対する反応は良好であるが、酸素化の改善が得られないような人では、 鎮静をかけることで組織の酸素需要を減らし、ガス化を良くすることができる。
人工呼吸管理下の人でも同じで、十分な鎮静をかけることで、肺に対して愛護的な治療を行うことができる。 極端な例が筋弛緩剤の使用であろうが、ここまでくるとそのデメリットも馬鹿にならないと思う。
特に心不全患者の発熱に対して、抗生剤のみで解熱剤を出さずにいた場合、水を入れたわけでもないのに肺水腫を生じてしまい、 慌てることがある。
40℃前後までの発熱は、ウイルスや肺炎球菌などのある種の細菌の繁殖を抑える効果があり、 結果として感染症の治癒を促進するといわれている。
一方で、体温が1度上昇すると、組織の代謝率は10%近く上昇する。
特に心不全を合併した患者や、もともと肺機能が低下している高齢者が具合が悪くなり、発熱を生じた場合には問題は大きくなる。
こうした患者では、発熱により組織の酸素需要が高まると、心拍出量を上げざるを得ない。 しかし問題となっているのが心不全である以上、こうした患者は発熱に対する予備能力が、 普通の人に比べてかなり少なくなっている可能性がある。
アルカローシスを改善し、酸素化を良くする意味でダイアモックスを用いたり、 クロールの補充によりアルカローシスの改善を図ったりする。