肺からの酸素の取り込みは、大きく
これらの過程のいずれが障害されると、低酸素血症が生じる。さらに、何らかの原因で、体の酸素需要が増え、 それに心肺が応えられない場合も、低酸素血症になる。
ひとつの肺の中に、痰が詰まったりして換気が悪い肺があると、健康な肺の足を引っ張る形で、酸素化が悪くなる。
これらの人は、比較的軽症であれば、酸素投与に十分反応する。しかし重篤になると酸素のみではPaO2の上昇は望めず、 排痰訓練や、人工換気の適応となる。
肺は、多くの肺胞から成り立っており、換気の良い肺胞に、より多くの血流が流れるよう、自己調節を行っている。
肺炎や痰づまりなどで肺の局所の換気が悪くなった場合、低酸素反応性にその肺胞への血流は低下し、 もっと換気の良い肺胞に、多くの血流を流すように調整される。
しかしこの機序は完全に作動するわけではない。病的な状態の肺では、換気の悪い肺からの酸素化の不充分な血液が、 肺静脈系に流れてしまう。
この機序は、一般的な肺炎、肺気腫の増悪の患者で気道が詰まった場合や、吐物の誤嚥、気管支喘息の患者で見られる。
こうした患者では、軽症であれば酸素投与に十分反応するが、重症度が上がるにつれて酸素化されていない血液の混合量が増え、酸素投与に反応しなくなる。
換気と血流との不均一性は、正常肺でも存在している。肺尖部に比べて、肺底部での血ガスは悪い。
図3.4では、重力の関係で、肺底部の血流は過剰に良くなる一方、酸素の濃度は肺尖部のほうが高い。 このため、本来なら空気中の酸素濃度101mmHgは、動脈中酸素濃度に等しくなれるはずであるのが、 実際には97mmHgと少なくなってしまっている。
逆にこのことを利用して、体位変換によっても血液ガスを改善することができる(後述)。 具体的には、健側の肺を下にした体位や、うつ伏せ姿勢による酸素化の改善があげられる。
結核等で片肺の無い人は大勢いるが、こうした人たちは日常生活動作程度は普通に営むことができ、 安静時の血ガスはほとんど正常である。
一方、肺炎などの場合には、これらの人よりもはるかに軽い病変であっても血液中の酸素濃度が減少し、 人工呼吸器管理になってしまうことは珍しくない。
片方の肺全てが肺炎により障害を受けたとしても、もしもこの肺を通過する血液がなくなった場合は、 吸入酸素濃度を2倍に増加するだけで、正常なPaO2を保つことができる。 しかし、換気の悪い肺であっても、そこを通過する血液を0にすることはできないため、 結果として動脈血に酸素化されない血液が流れ込んでしまう。これがシャント効果である。
図3.6では、2つある肺胞のうち、片方の換気が悪い状態を表している。
2種類の酸素濃度の血液を混ぜた場合、血液の酸素濃度はPaO2の平均にはならない。むしろSpO2の平均になるため、 静脈血の混合(シャント)は、予想以上に酸素化に悪い影響を与える。
肺炎の重症例の患者ではシャント率が高く、このため酸素療法に反応しにくい。
一方、片肺を手術で取ってしまった人などでは、 換気面積は半分しかないものの、シャント率は小さいため、酸素を少量吸うだけで酸素濃度を保てる。
仮にシャント率が30% 程度ある肺炎患者の場合、PaO2を60mmHgにすることは非常に難しい。 が、同時にこの値を50mmHgに保つのは比較的容易であることも、グラフ3.7からわかると思う。
こうした患者では、高濃度の酸素を流す以外の治療法、例えば痰のドレナージをはかったり、あるいは深い鎮静をかけて、 末梢組織の酸素需要を減らすようなことを考えなくてはならない。
生理学の教科書では換気血流不均衡とシャントは、分けて記載される。 両方とも、起こっているのは動脈血への酸素化されていない血液の混合であり、あえて区別をつけなくても理解はできる。
COPDの末期的な患者で、問題となるのは肺高血圧症である。例えばこうした患者に対して、 プロスタグランジン製剤を用いると、どういうことがおきるであろうか。 COPDの肺高血圧は、慢性的な低酸素血症に対する反応であるため、血管拡張剤の内服は、肺血圧を下げうる。
一方、血管拡張剤の内服は、同時に換気の悪い肺胞血管をも拡張してしまう。このため、肺血圧は下がる一方、 血液ガスデータは悪くなるかもしれない。同じ血管拡張剤であっても、一酸化窒素のように吸入できるものになると、 話は違ってくる 。 ガスであれば、換気の悪い肺胞には薬も入りにくいため、必要な血管のみ、広げることが可能である。
結果、肺胞から毛細血管中の血液までの距離が遠くなってしまい、酸素化されないままの血液が動脈中に混合してしまい、 著明な低酸素血症を生じる。これを肺肝症候群といい、肝移植の絶対適応である。
肺胞中に入った酸素は、通常は速やかに肺毛細血管に分布する。間質性肺炎や、肺線維症、 あるいは肺水腫などで肺胞の壁が厚くなった場合、この肺胞血管への酸素の受け渡しが障害される。
正常人では、運動すると心拍出量が増大してSPO2はむしろ上がる。
間質性肺炎の患者では、運動等で心拍出量が増大し、肺胞を血液が通過する時間が早くなると、それに反比例してSpO2が低下する。
間質性肺炎の患者が、安静時に正常酸素濃度であったものが、寝返り一つでSpO2が60台に下がることがあるのはこのためである。
高齢者が尿路感染症などで来院すると、胸部単純写真上は何もないにもかかわらず、SpO2が89ぐらいに低下して、慌てることがある。
肺の機能が正常であっても、大気を吸っている限りは、時間あたりに血液を酸素化できる量は限られてくる。 このため、酸素を受け取る肺動脈血自体の酸素濃度が低い場合、肺が正常でも動脈血は低酸素になる。
発熱などで全身の酸素需要が亢進した場合や、心不全などで心拍出量が低下し、 時間あたりの酸素供給量が低下した場合が典型的であり、特に高齢者の発熱でよく遭遇する。
肺機能の正常なこうした病態に対しては、 酸素療法が非常に効果的である。
原疾患の治療により酸素化が、改善することは最終目標ではあるが、こうした疾患に対する酸素投与は即効性があるだけでなく、(FiO2で40%程度までなら)体に対する副作用もほとんど無い。