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: 5.3 非侵襲的陽圧換気の手順 : 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果 : 5.1 非侵襲的換気による呼吸補助に対する理論的な根拠   目次


5.2 手術後呼吸不全の患者に対する非侵襲的換気

以下の項目では、手術後の患者の呼吸不全に対するCPAPマスク、鼻マスクによる陽圧換気、 陰圧式呼吸器の効果についての研究をそれぞれ述べる。

5.2.1 CPAPマスク

初期のCPAPマスクは、肺水腫に対して用いられた。この文献では、 「肺水腫により上昇した肺血圧に打ち勝って、CPAP圧により酸素が血中に入っていく。」と述べられている。

1976年になり、グリーンバウムらが、急性呼吸不全の治療手段としてのCPAPマスクを再評価した。 そしてこの文献の中に、手術後呼吸不全に対するCPAPマスクの有用性が指摘されている。

5.2.1.1 物理的メカニズム

CPAPを付加することにより、患者には様々な物理的作用が生じる。その良い点と悪い点を以下に述べる。

<良い点>

<悪い点>

5.2.1.2 有利な点

5.2.1.2.1 中小〜微少な気道を拡げる効果

これは、手術後の患者にとっては大切な点である。 微少気道と肺胞を拡げることで換気が不均一になることを減らし、 このことは換気と血流の不均等を是正するために血中酸素濃度が増す。

この効果については、全ての患者について有効であると思われる。更にCPAPは胸腔内圧の上昇により、 上部の気道も更に拡げるため、呼吸抵抗も減少する。

5.2.1.2.2 CPAPは心不全のある患者の心機能を改善する

他に利益のある可能性としては、CPAPは心不全のある患者の心機能を改善するという点がある。 これについては、まだ詳しいメカニズムは分かっておらず、また効果がなかったという文献が存在するが、 心機能のおちている心臓の手術後の患者では利益をもたらすであろう。この理由については、 CPAPは心臓のアフターロードを減らし、更に心不全によりもたらされた呼吸不全の悪化を改善するためと説明されている。

他にも、手術後合併症には特に関係のない作用としては、特に肺気腫などで問題となる内因性PEEPを打ち消し、 呼吸の負担をとる作用などがある。

5.2.1.3 不利な点

5.2.1.3.1 マスクの圧迫感

最も大きな問題は、患者が息を吐きにくい感じがする点である。 このことが挿管されている人で問題とならず、マスクCPAPで問題となってくるのは、マスクの圧迫感のためである。

このためによる呼吸パターンの悪化、患者の不穏などがしばしばCPAPマスクの使用を難しくする。 この不快感は、CPAP圧を下げることである程度改善できる。しかし、圧を下げることで、 特に気道抵抗の高い人などではその効果も下がってしまう。

5.2.1.3.2 血圧低下

また、先程述べた心機能改善効果の一方、CPAPをかけることで静脈環流が減少し、 心拍出量が減ってしまうこともある5.1

5.2.1.4 CPAPに必要な器具

手術後の患者にCPAPを付加するのには、特に変わったものを用いる必要はない。

その道具とは、高流量酸素ブレンダー、リザーバーバッグ、PEEPバルブであり、これらは高流量の酸素で駆動される。

図 5.1: 市販されているCPAPマスクセット。毎分150l近く酸素を消費するのが欠点。

\includegraphics[width=.6\linewidth]{cpapmask.eps}

CPAPシステムの初期の問題は、このシステムが個人個人で特別に用意されるために時間がかかることであった。

1980年代に入り、シンプルなCPAPマスクシステムが市販されるようになった。今ではCPAPと同様に、 IPPVもマスクを通じて与えられる。

5.2.1.5 CPAPの臨床研究

ほとんどの研究では、抜管後の呼吸不全に1日中CPAPマスクを用いているが、 再挿管を免れる率は60〜98%と様々である。多く認められた合併症は、鼻の発赤と潰瘍であった。

5.2.2 非侵襲的陽圧換気

非侵襲的陽圧換気は、CPAP用のマスクを、人工呼吸器につなぐことにより始まった。

現在、非侵襲的陽圧換気は、専用の鼻マスクあるいはフルフェイスマスクを、普通の呼吸器か、 あるいはBiPAPにつなぐことにより得られる。

5.2.2.1 物理的作用

鼻マスクを用いた陽圧換気の効果は複雑であるが、基本的には普通の人工呼吸器と同じである。 しかし、マスクを用いた換気には空気漏れの可能性が大きく、その分換気の効率が落ちる。

その利点・欠点はCPAPマスクの項で説明した通りであるが、CPAPに陽圧換気を加えることで、呼吸の補助作用はより強まる。


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: 5.3 非侵襲的陽圧換気の手順 : 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果 : 5.1 非侵襲的換気による呼吸補助に対する理論的な根拠   目次
admin 平成16年11月12日