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: 5.2 手術後呼吸不全の患者に対する非侵襲的換気 : 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果 : 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果   目次


5.1 非侵襲的換気による呼吸補助に対する理論的な根拠

呼吸困難感に対して呼吸補助を行なう方法は、その患者の状態が、ほとんど正常なものから、 呼急停止を生じているものまで様々である。患者の状態に対して、どのような換気補助を行なうべきかを以下に示した。

呼吸不全の状態は、以下の5つに大きく分けられる。

正常な呼吸
呼吸困難感
呼吸をするのが難しいか、苦痛な状態
急性呼吸不全
呼吸困難があり、かつ呼吸数25回以上、pH7.35以下、血中二酸化炭素濃度45mmHg以上、 供給酸素濃度50%以上にもかかわらず、血中酸素濃度60mmHg以下。
重症呼吸不全
重度の呼吸困難感があり、呼吸数30回以上pH7.30以下、血中二酸化炭素分圧60以上
呼急停止
呼吸を自分では行なっていない状態

同じように、換気の補助方法にも酸素のみの供給、非侵襲的換気補助、挿管による人工換気、ECMOや肺移植など、 大きく4つに分けられる。しかし、どの程度の呼吸困難に、どの程度の換気補助を用いるのかに決まりはなく、 多くは経験的なものである。

5.1.1 呼吸不全に非侵襲的換気を用いる有用性

5.1.1.1 補助のレベルが上がるに従い合併症も増える

呼吸補助のレベルを上げていくと、同様に、そのことによる合併症も増えていく傾向にある。 当然、呼吸補助のレベルは、患者が容認できる状態にある限り、侵襲の少ないものを用いるべきである。

非侵襲的換気の利点は、それが単なる酸素供給のみよりも高いレベルの換気補助ができ、 なおかつ気管内挿管を避けることができるという点である。

非侵襲的換気は、呼吸不全の患者に幅広く適応できる可能性を持っている。

この装置は、単なる酸素供給のみを受けている患者で、 よりレベルの高い換気補助を行なうことでより大きな利益を得られる患者から、 酸素のみでは換気補助が十分でない患者にまで使用できる。

5.1.1.2 気管内挿管との比較

非侵襲的換気は、直接気管内に挿管することを防ぐことができる一方、以下のような欠点もある。

一方で、気管内挿管の欠点としては、

これらのリスクと得られる利益のバランスを考えた上で、どちらの人工換気を選ぶべきかを考える。

5.1.2 他の呼吸不全と手術後の患者の違い

非侵襲的換気は、もっぱら、COPDや心不全などによる呼吸不全の治療に用いられている。

このため、手術後に抜管した患者の呼吸不全に対して、この換気装置が使えないかという点には興味がもたれる。

5.1.2.1 手術後の患者の呼吸不全は回復可能

CABG後の患者の研究では、手術後の患者の呼吸不全は高炭酸ガス血症が特徴であった。 この種の患者は肺コンプライアンスが低下しており、更に呼吸筋疲労を生じているが、これらは回復可能なものである。

5.1.2.2 手術後抜管した医師は、患者に対して再挿管するのに抵抗感が強い

今のところ、非侵襲的換気は、回復可能な呼吸不全に対する一時的な換気補助の手段であると考えられる。

こうした患者に一時的に、あるいは夜間のみに非侵襲的換気を用いることで、呼吸不全が回復し、 気管内挿管を回避でき得ると考えられる。

5.1.2.3 ウィーニングの補助としての非侵襲的換気

手術後患者のほとんどは、抜管して人工換気をやめれば、すぐに自力での呼吸ができるものである。

しかし一部の人は、自発呼吸が戻った後も何らかの補助がなくては換気ができず、 このために呼吸器の様々なモードが考えられている。

非侵襲的換気は、こうした患者が、自分の力だけで呼吸する助けになる可能性がある。

5.1.2.4 早期の抜管

手術後は、できる限り早期に抜管した方が合併症が少なく、患者も快適であり、 さらに合計のコストも安くなることが明らかになってきている。

非侵襲的換気装置を用いることで、そうでない時よりも抜管の時期を早められる可能性がある。


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admin 平成16年11月12日