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: 5.4 非侵襲的人工換気の臨床研究 : 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果 : 5.2 手術後呼吸不全の患者に対する非侵襲的換気   目次


5.3 非侵襲的陽圧換気の手順

以下に、段階的に非侵襲的陽圧換気を導入していく方法を示す。方法論は術者の経験により異なる。 気管内挿管が導入された初期も、挿管の適応に関するリストが作られ、用いられたが、今ではそんなものを持ち出すものはいない。

以下のリストは、BiPAPを用いる場合のものであるが、他の呼吸器でも応用できると考えられる。

5.3.0.1 準備

鼻マスクによる陽圧呼吸を行なう第一のステップは、それを開始するための準備である。
  1. 医師は、マスクによる陽圧呼吸を行なうと決断しなくてはならない。対象の患者はそれにより挿管になる可能性が減るか、もしくは挿管による換気のかわりにマスク換気が良い適応となる者でなくてはいけない。

    禁忌となる患者は、わずかであっても無呼吸のある患者、血行動態的に不安定な患者、マスクに非協力的な患者、上気道または顔面に外傷のある患者、また、誤嚥を防ぐために気道分泌をコントロールする必要のある患者である。

  2. 一度マスク換気を行なうと決めたら、全員で機械の点検を行なう。人工呼吸器と同じように、コネクターや酸素の点検を行ない、更にマスクが患者に合った大きさのものかを確かめる。
  3. 誰かがリーダーになる。
  4. 患者にマスク換気の説明をする。
  5. マスクが患者につけられる。一般的には、小さめのマスクの方がよくフィットすると言われている。

5.3.0.2 非侵襲的換気開始直後の注意点

補助換気装置がついたところで、今度は患者にそれを慣れさせなくてはいけない。

  1. 患者は、わずかに横になっていたほうが良い。
  2. 最初は補助換気装置無しで、マスクのみ鼻に当ててみる。
  3. マスクが顔に合っているか調べる。
  4. マスクの中に酸素だけ流す。流量は必要最小限にとどめる。
  5. EPAP5センチ、IPAP10センチ程度が通常用いられ、このくらいなら患者の不快感もそう強くないことが多い。
  6. マスクは当初、患者本人あるいは治療者、あるいは両者で協力して保持する。
  7. そうすることで、マスクは容易に外すことができ、両者のコミュニケーションをとることができる。
  8. パルスオキシメーターを始めとするモニター類は必須である。

まず30秒マスクをつけてみて、うまくいくことを確認し、着用している時間を徐々に長くしていく。 3分間つけていられれば、普通はマスクによる人工換気は成功するものである。

患者が鼻マスクを用いているときには、なるべく口を閉じるように話す。

我々はチンストラップの使用についてはあまり良い印象がなく、むしろこうした場合には、呼吸補助圧を下げるべきであると考える。

ある種の呼吸器ならば口を開いていても、呼吸を補助することは可能であるが、 口を閉じているときよりも効果は薄い。フルフェイスマスクは口の開閉に関係なく、 呼吸を補助するが、鼻マスクに比べて不快感が強い。

5.3.0.3 合併症の予防に関する注意

マスクによる人工換気の開始は、以下の手順を踏むことでうまくいき、患者も慣れてくる。

  1. 最初は呼吸器のスイッチを切っておく。
  2. 鼻の当たるところにドレッシング材を貼っておくと、鼻の損傷が防げる。
  3. ストラップを用い、マスクを固定する。
  4. マスクが顔に合っているか確認する。
  5. 酸素を流し、人工呼吸器をスタートする。
  6. 鼻マスクを用いた人工換気がうまくいくと、通常数分で呼吸困難感は治まる。呼吸補助筋の使用や、呼吸数も減ってくる。サチュレーションが90%以上になるように、酸素の量を調節する。
  7. EPAPとIPAPは、ちょうど普通の呼吸器のPEEPとプレッシャーポートと同じような感覚で調節されるが、気管内挿管を用いた人工換気と違い、圧を上げるほど患者の不快感が増すことを考慮に入れなくてはいけない。
  8. おそらくは、もっとも大切なことは、マスクによる人工換気を始めてからの最初の15〜20分は、誰かがそばに居て患者を励ますことである。
  9. 血液ガスの検査は、定期的にフォローする。

5.3.0.4 非侵襲的換気の中止

  1. マスクは着けたり外したりするのが容易なため、ウィーニングを試してみるのは簡単である。マスク人工換気のウィーニングは、気管内挿管によるそれとは違い、決った方法はない。

    普通は、IPAP10センチ以下、EPAP5センチ以下、酸素60%以下の状況で、本人が苦しさを感じず、サチュレーションが96以上あればウィーニングを試す。ウィーニングは、一定時間人工呼吸器を外し、一定時間人工呼吸器を再び着け、徐々に、外している時間を長くしていく方法と、いきなり呼吸器を外してしまい、夜間のみ呼吸補助を行ない、問題が無かったら夜もやめてしまう方法とがある。

    呼吸困難感、頻呼吸、低酸素血症や本人の落ち着かない感じが現れるようなら、再び人工換気を始める必要がある。

  2. 鼻マスクによる人工換気を脱着するのは簡単なため、人工呼吸器を外した後も、もしもの時にすぐに使えるように、それをしばらくの間患者のそばに置いておく必要がある。

    人工呼吸器の数が限られているときは、この間、他の患者が呼吸器を使えなくなるため、医師は必要が無くなったとしたら、なるべく早く呼吸器を外す努力をすべきである。


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admin 平成16年11月12日