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: 5. 手術後の患者に対する非侵襲的換気の効果 : 4. 急性呼吸不全と非侵襲的陽圧換気 : 4.4 非侵襲的換気の効果の証明   目次


4.5 成功/失敗を決定する因子

4.5.0.1 良く密着した快適なマスクの存在が、非侵襲的換気の最も大きな鍵

しかしこれが達成されても、やはり非侵襲的換気では酸素化の改善しない患者は存在する。 どのような患者がこれが成功しにくいかが分かれば、気管内挿管を決定するまでの時間を節約できる。

多くの研究者が指摘していることであるが、特に肺気腫の急性増悪の患者においては非侵襲的換気は高二酸化炭素であり、 重症度の高い患者で成功しにくい傾向がある。また意識状態の悪い患者もマスクに耐えられず、失敗することが多い。 更に歯のない人や、分泌物の多い人、口呼吸の割合の多い人も、成功しにくい。

4.5.0.2 成功例は1時間以内に症状が改善する

一方で成功した人は、その血液ガスの改善や、 呼吸数の改善が多くの場合は1時間以内4.4に見られることが多い。また、低酸素血症があって、更に二酸化炭素のたまっていない人は、かえって非侵襲的換気の恩恵を受けにくいときがある。

4.5.1 患者の選択

4.5.1.1 非常に重篤な患者は適応外

結局のところ、非侵襲的陽圧換気の適応となる患者は、気管内挿管になる可能性のある人の中で、 中等度に状態の悪い人ということになる。

更に患者に頻呼吸があり、重度の呼吸苦があり、頻脈があり、呼吸補助筋を用いている人は良い適応となる。 患者はマスクに協力的である必要はあるが、意識が覚醒している必要は決してない。

4.5.1.2 肺炎に対する成功例は少ない

また、どんな病気により呼吸不全を生じたかも、成功を決める因子となる。非侵襲的換気は肺気腫の急性増悪、 心不全による肺水腫、胸郭変形による呼吸不全などでは高い成功を納めているが、 肺炎による呼吸不全では良い成績を出していない。この原因についてはいろいろ考えられるが、 肺炎は直るまで時間がかかること、分泌物が多いこと、より重篤な呼吸不全を生じやすいことなどがその理由であろう。

2001年のニューイングランドジャーナルに、好中球減少を生じた患者の肺炎に、非侵襲的換気が効果があった、 という報告があった。この例では、日中の2〜3時間に限定して呼吸器を用いており、喀痰のドレナージの問題を回避 しているように見える。

最後に、非侵襲的換気は気管内挿管を拒否した患者を救命しうる可能性はある。

4.5.1.3 非侵襲的換気を用いるべきでない患者

一方非侵襲的人工換気を用いるべきでない患者としては、心停止後などの不安定な患者、 嚥下障害や上気道閉塞などの障害が、あらかじめ分かっている患者、更に咳のできない患者などである。

また虚血性心疾患を合併した人などでは、非侵襲的換気は注意深く用いる必要がある。

最後に、不穏の強い人には、やはり用いるべきではない。

まとめると、適応になるのは以下の患者である。

4.5.2 人工換気の開始と調節

呼吸不全の患者が入ってきた場合、あなたなら従量式、従圧式のどちらの呼吸器を使うだろうか。 今までの呼吸器の比較の研究では、気管内挿管を避ける目的ではどちらを使っても大差はなかったが、 従圧式の呼吸器のほうがより患者にとって快適で、合併症が少ないことが分かっている。

しかしながら、新型のより軽量で、簡便な呼吸器の登場で、どちらのほうが良いかは呼吸器の性能により決まってくる。 新しい従圧式呼吸器は軽量で、安価であるが、一方で最大でも20〜30センチの気道内圧しか取れず、 ある種の患者4.5には不十分かも知れない。

4.5.2.1 従量式呼吸器の初期設定

従量式の呼吸器をマスクを用いて開始する場合、開始時の一回換気量は、 通常の人工呼吸器の1.5〜2倍に設定する(10〜15ml/kg)。これは空気漏れを見越しての分であるが、 マスクの分だけ死腔が大きいためでもある。

4.5.2.2 BiPAPの初期設定

BiPAPを用いた研究では、通常IPAPを8〜20cmH2O、EPAPを0〜5cmH2Oに設定している。患者が肺気腫の時には、 少量のPEEPをかけるとより呼吸筋仕事が減ることが分かっている。

ある研究者は、急性呼吸不全でも、患者になれさせるために当初は低い圧から始めるように薦めている。 患者がなれてくるに従い、圧は必要な値まで徐々に上げていく。

4.5.2.3 神経筋疾患の患者の場合は呼吸器に乗せてしまう

バックアップ換気の設定は、普通は患者の自発呼吸数よりも少なく設定しているが、 神経筋疾患の患者などではむしろ呼吸数よりも多く設定し、自発換気を止めてしまったほうが良い場合もある。

4.5.2.4 供給酸素量の設定

酸素の負荷については、通常サチュレーションが90以上となるように調節する。 BiPAPなどではマスク内に直接酸素を流すことが多い。またこうした機械では近年、 二酸化炭素を再呼吸して血液中の二酸化炭素濃度を上げる可能性が指摘されているため、注意が必要である。

マスクを装着した当初は患者はむしろ苦しがるが、患者の好みに合わせてマスクの位置や圧を調節しているうちに、 うまく行けば1時間で患者は楽になるはずである。また、呼吸数や心拍数は、 成功する患者であればマスクをつけてすぐに下がり始める。

4.5.2.5 パルスオキシメーターは、最低でも人工換気開始後1時間はつけるべきである

この値や血液ガスの値を見ながら、二酸化炭素が下がらないなら一回換気量を増やしたり、IPAPを上げる。 一方酸素化が不十分なら供給酸素を上げるか、またはEPAPを上げることになるが、EPAPを上げるとその分、 IPAPを上げないとプレッシャーサポートの量が減り、二酸化炭素が溜まるので注意が必要である。

4.5.2.6 ウイーニングはON-OFF法で行う

ウイーニングは徐々に行ない、当初は患者がしゃべるときや、食事をするときなどに外してみるようにする。 また患者のほうから、もう人工換気はいらないと言ってくることも良くある。

4.5.3 非侵襲的換気の副作用と対策

4.5.3.1 合併症のほとんどはマスクによるもの

しっかりと選択された患者であれば、マスクによる陽圧換気の合併症のほとんどはマスクによるものである。 ストラップの圧力が適切であるにもかかわらず、28%もの患者が最初のマスクに耐えられなくなる。

一般に、人工呼吸器と顔面とのコンタクトには、鼻マスク、マウスピース、フルフェイスマスクの3つがある。 急性期には鼻マスクとフルフェイスマスクが良く用いられる。

4.5.3.2 鼻の対策

鼻の痛み、発赤が最も多い訴えである。これらの合併症は、鼻のあたるところに人工の皮膚4.6を張ることで防げる。

鼻の乾燥については加湿を行ない、鼻水の増加を訴える患者に対しては抗ヒスタミン剤や、 ステロイドの鼻スプレー4.7を用いるとうまく行く。

4.5.3.3 唾液の対策

唾液の増加に対しては、近年では、スコポラミン軟膏を耳の後ろに塗る方法が紹介され、有効とされる。

神経筋疾患の患者では、アーテンやリスモダン、ポララミンといった抗コリン作用の強い薬剤の副作用を利用 すると、うまくいくケースもある。

4.5.3.4 エアリークの対策

空気が口から漏れているときには、横隔膜の有効な動きが得られていないことが多いため、やはり空気漏れは極力少なくしたい。

鼻マスクをしている患者については、彼らに口を閉じるように促すと空気漏れは減る。 チンストラップの併用や、フルフェイスマスクを用いるといい場合もあるが、それでもうまく行かないときもある。

従圧式の呼吸器なら少々の空気漏れは許容できるが、従量式呼吸器の場合には、一回換気量を上げる必要がある。

胃が張って誤嚥を生じることが、この換気法の最大の合併症であるが、NGチューブを入れなくてもそんなに起きるものではない。

4.5.3.5 誤嚥の対策

誤嚥を生じる危険のある患者には、患者がより安定するまで口にものを入れないほうが賢明である。 また患者が胃の張る感じを訴えたならばNGチューブを挿入すべきである。また、気管損傷や食道損傷、 頭蓋底骨折のある患者に対しては、マスクによる陽圧換気を行なってはいけない。

鼻マスクを用いるか、フルフェイスマスクを用いるかでは、合併症に差はないが、両者を直接比較した研究はない。

鼻マスクは患者がしゃべり、食べることができる一方で口からの空気漏れが生じ、肺を膨らませる効率は落ちる。 一方でフルフェイスマスクは口からの空気漏れは少ないが、患者の不快感は増し、更に理論的には誤嚥のリスクも増える。

看護婦の負担は今までの気管内挿管により人工換気よりも増える傾向にあるとする研究もあるが、 この負担の増加は当初の2日間のみであるとされる。また看護者の負担は全く増えなかったとする研究も存在する。

4.5.3.6 血行動態に与える影響

陽圧換気一般に言えることであるが、胸腔内が陽圧になると、静脈系からの血液の帰還が障害され、 心臓のプレロードが減る一方、心室壁圧も下がるためにアフターロードも減る。健康な心臓は、 心拍出量を主にプレロードに依存しているために、陽圧換気を行なうと心拍出量が減る可能性がある。

一方で心不全に陥った心臓であれば、心拍出量はプレロードに関係なく、アフターロードに依存する傾向にあるため、 心拍出量はむしろ増える傾向にある。いずれにしても血行動態の不安定な患者に陽圧換気を行なう場合には、 注意深い観察は必要である。


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admin 平成16年11月12日