しかしこれが達成されても、やはり非侵襲的換気では酸素化の改善しない患者は存在する。 どのような患者がこれが成功しにくいかが分かれば、気管内挿管を決定するまでの時間を節約できる。
多くの研究者が指摘していることであるが、特に肺気腫の急性増悪の患者においては非侵襲的換気は高二酸化炭素であり、 重症度の高い患者で成功しにくい傾向がある。また意識状態の悪い患者もマスクに耐えられず、失敗することが多い。 更に歯のない人や、分泌物の多い人、口呼吸の割合の多い人も、成功しにくい。
結局のところ、非侵襲的陽圧換気の適応となる患者は、気管内挿管になる可能性のある人の中で、 中等度に状態の悪い人ということになる。
更に患者に頻呼吸があり、重度の呼吸苦があり、頻脈があり、呼吸補助筋を用いている人は良い適応となる。 患者はマスクに協力的である必要はあるが、意識が覚醒している必要は決してない。
2001年のニューイングランドジャーナルに、好中球減少を生じた患者の肺炎に、非侵襲的換気が効果があった、 という報告があった。この例では、日中の2〜3時間に限定して呼吸器を用いており、喀痰のドレナージの問題を回避 しているように見える。
最後に、非侵襲的換気は気管内挿管を拒否した患者を救命しうる可能性はある。
また虚血性心疾患を合併した人などでは、非侵襲的換気は注意深く用いる必要がある。
最後に、不穏の強い人には、やはり用いるべきではない。
まとめると、適応になるのは以下の患者である。
呼吸不全の患者が入ってきた場合、あなたなら従量式、従圧式のどちらの呼吸器を使うだろうか。 今までの呼吸器の比較の研究では、気管内挿管を避ける目的ではどちらを使っても大差はなかったが、 従圧式の呼吸器のほうがより患者にとって快適で、合併症が少ないことが分かっている。
しかしながら、新型のより軽量で、簡便な呼吸器の登場で、どちらのほうが良いかは呼吸器の性能により決まってくる。 新しい従圧式呼吸器は軽量で、安価であるが、一方で最大でも20〜30センチの気道内圧しか取れず、 ある種の患者4.5には不十分かも知れない。
ある研究者は、急性呼吸不全でも、患者になれさせるために当初は低い圧から始めるように薦めている。 患者がなれてくるに従い、圧は必要な値まで徐々に上げていく。
マスクを装着した当初は患者はむしろ苦しがるが、患者の好みに合わせてマスクの位置や圧を調節しているうちに、 うまく行けば1時間で患者は楽になるはずである。また、呼吸数や心拍数は、 成功する患者であればマスクをつけてすぐに下がり始める。
この値や血液ガスの値を見ながら、二酸化炭素が下がらないなら一回換気量を増やしたり、IPAPを上げる。 一方酸素化が不十分なら供給酸素を上げるか、またはEPAPを上げることになるが、EPAPを上げるとその分、 IPAPを上げないとプレッシャーサポートの量が減り、二酸化炭素が溜まるので注意が必要である。
しっかりと選択された患者であれば、マスクによる陽圧換気の合併症のほとんどはマスクによるものである。 ストラップの圧力が適切であるにもかかわらず、28%もの患者が最初のマスクに耐えられなくなる。
一般に、人工呼吸器と顔面とのコンタクトには、鼻マスク、マウスピース、フルフェイスマスクの3つがある。 急性期には鼻マスクとフルフェイスマスクが良く用いられる。
鼻の乾燥については加湿を行ない、鼻水の増加を訴える患者に対しては抗ヒスタミン剤や、 ステロイドの鼻スプレー4.7を用いるとうまく行く。
神経筋疾患の患者では、アーテンやリスモダン、ポララミンといった抗コリン作用の強い薬剤の副作用を利用 すると、うまくいくケースもある。
鼻マスクをしている患者については、彼らに口を閉じるように促すと空気漏れは減る。 チンストラップの併用や、フルフェイスマスクを用いるといい場合もあるが、それでもうまく行かないときもある。
従圧式の呼吸器なら少々の空気漏れは許容できるが、従量式呼吸器の場合には、一回換気量を上げる必要がある。
胃が張って誤嚥を生じることが、この換気法の最大の合併症であるが、NGチューブを入れなくてもそんなに起きるものではない。
鼻マスクを用いるか、フルフェイスマスクを用いるかでは、合併症に差はないが、両者を直接比較した研究はない。
鼻マスクは患者がしゃべり、食べることができる一方で口からの空気漏れが生じ、肺を膨らませる効率は落ちる。 一方でフルフェイスマスクは口からの空気漏れは少ないが、患者の不快感は増し、更に理論的には誤嚥のリスクも増える。
看護婦の負担は今までの気管内挿管により人工換気よりも増える傾向にあるとする研究もあるが、 この負担の増加は当初の2日間のみであるとされる。また看護者の負担は全く増えなかったとする研究も存在する。
一方で心不全に陥った心臓であれば、心拍出量はプレロードに関係なく、アフターロードに依存する傾向にあるため、 心拍出量はむしろ増える傾向にある。いずれにしても血行動態の不安定な患者に陽圧換気を行なう場合には、 注意深い観察は必要である。