3 血液ガスの解釈

3.1 呼吸性アシドーシスを生じる疾患

3.1.1 COPD

• 呼吸困難で入院する患者の9%を占める。
• 喫煙が原因になり、慢性的な喘鳴と呼吸困難、喀痰の増加を生じる。
• 胸Xpで肺の過膨張。
• 呼吸機能検査でFEV$_{1.0}$が55%以下を高度疑い、70%以下を疑い症例とする。
• フローボリューム曲線が呼気時に下に凸の曲線を描く。
• 精密肺機能検査で肺拡散能の低下、残気率の上昇²⁵、肺コンプライアンスの上昇をみる。

3.1.1.1 COPD急性増悪時の対処

• 外来でCOPDと診断されている
• 以前からあった労作時息切れが増悪
• 胸Xpで肺が過膨張している
• 血液ガスで$HCO_{3}^{-}$濃度が上昇

$\longrightarrow$COPDの増悪の可能性が高い。

酸素投与を開始する SpO2で90ちょうどを目標にカヌラ2l程度から開始。

$\Downarrow$

血液ガスをとる
pHとPaCO2の値から、患者の普段のPaO2を推定する。この値が酸素投与の目標値になる。

1. PaCO2 が1mmHg上昇 $\longrightarrow$ pHは0.008上昇²⁶。
2. PaO2とPaCO2の合計は、room air で大体140。
   これを利用して、患者のPaO2は大体いくつ程度であったのか推定する。
3. 例えば、

   pH 7.25 PCO2 90mmHg PO2 35mmHg BE 5mmol/l

   の慢性呼吸不全の患者の、普段の血ガスの計算は以下のようになる。
4. 元気なときのpHを7.40と仮定すると、 変化分は0.15。この変化を生じるためのCO2の変化分は、 $0.15 \div 0.008$で、大体20mmHg。
5. 90-20で普段のPaCO2は70mmHg。PO2とPCO2の合計は大体140なので、 140 - 70 で普段のPaO2は70mmHgとなる。元気なときの血液ガスは以下のようになる。

   pH 7.40 PCO2 70mmHg PO2 70mmHg

6. この値を超えないように酸素投与を行うと、CO2の貯留をある程度防ぐことができる。

$\Downarrow$

喘鳴の対処を行う ベネトリン0.5ml+生食5mlを吸入 アトロベント2パフを吸入 ソル・コーテフ200mg1静注 1 南4ではサクシゾン200mg

$\Downarrow$

胸部単純写真をとる COPD増悪の原因として気胸は多い 浸潤影/無気肺 $\longrightarrow$肺炎の合併 縦隔の狭小化と横隔膜の扁平化 $\longrightarrow$COPDの診断を確定

$\Downarrow$

非侵襲的換気を考慮する O2投与だけでは呼吸困難が取れない/CO2貯留を生じてしまう 患者の意識が清明 肺炎の合併が無い 胸Xpで気胸が否定 $\longrightarrow$IPAP 4cmH2O、EPAP 8cmH2O 程度から開始。 できない患者さんは絶対に我慢できない治療なので、深追いせずに挿管する。

$\Downarrow$

気管内挿管の適応 患者の意識状態が悪いとき 喀痰の量が多いとき 非侵襲的換気のマスク不快感が強いとき

3.1.1.2 慢性期の治療

禁煙と抗コリン薬の吸入を行う。

• 禁煙指導。
• アトロベント2パフ吸入1日2回。
• テオフィリン製剤²⁷の内服もよく用いられる。
• インフルエンザの予防接種は再入院率を減らすので患者に勧めるべき。
• 急性増悪時は、抗生物質²⁸の投与を行うと入院期間が短縮するとの報告がある。

3.1.2 神経筋疾患に伴う呼吸不全

• めったに来ないので、疑わないと絶対に診断できない²⁹。
• A-aDO2の開大が無い呼吸性アシドーシスを呈するが、COPDとの鑑別が難しいことがある ³⁰。
• CO2の貯留する呼吸不全の患者で、入院中も再燃を繰り返す患者で一度は疑ってみる必要がある。
• 筋電図検査/神経伝達速度検査等で診断。
• 呼吸機能検査では最大吸気筋力/最大呼気筋力の低下、1回換気量の低下を生じている。
• 代表的なものは重症筋無力症($\rightarrow$p.)、ギランバレー症候群($\rightarrow$p.)。

3.2 代謝性アシドーシスを生じる疾患

3.2.0.1 乳酸アシドーシス

さまざまな全身疾患が乳酸アシドーシスを生じ得る。

• 組織の低酸素
  • ショック
  • 重篤な心不全(特に右室不全に注意)
  • 重篤な貧血
  • 呼吸不全
• 全身疾患に伴うもの
  • 白血病、リンパ腫
  • 肝不全、腎不全
  • 敗血症
• 薬物
  • サリチル酸
  • アルコール
  • ビグアナイド

3.2.1 尿細管性アシドーシス

アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスを生じる。

• I型尿細管性アシドーシスは遠位尿細管の酸排泄障害により酸が蓄積する病態で、尿pHは5.5以下にならない。
• I I型尿細管性アシドーシスは近位尿細管の重炭酸イオン再吸収障害がその原因であり、尿の酸性化能は保たれている。
• I V型尿細管性アシドーシスは糖尿病性腎症などによくみられ、輸入細動脈のレニン産生障害による。
• I型とI I型では低カリウム血症を伴うことが多いが、I V型では高カリウム血症となる。

3.2.1.1 治療

重炭酸イオン濃度20mEq/l以下は治療の対象となる。低カリウム血症にも注意。

• 重曹 3-6g/3X
• スローケー 3-6T/3X

3.2.2 糖尿病性ケトアシドーシス

• P.参照

3.2.3 アルコール性ケトアシドーシス

• 著明な脱水とアシドーシスを生じて来院する。 毎日多量のアルコールを摂取する、栄養状態の悪い人に多く見られる。
• 症例のほとんどは低血糖を生じていることで糖尿病性ケトアシドーシスとの鑑別が可能だが、 しばしば難しい場合もある。
• pHはしばしば6台に突入することもある。
• 浸透圧ギャップ³¹が存在する。 正常値は10-15以下。血清浸透圧は
  
  $$2(Na^{+}+K^{+})+\left( \frac{glu}{18} \right) +\left( \frac{BUN}{2.8} \right)$$
  
  
  で計算できる。しかし、アルコールやエチレングリコールは分子量が少ないため、これらの中毒では実際に測定した浸透圧と計算した浸透圧との間に解離が見られる。

3.2.3.1 治療

補液とビタミンB1の補充が中心。

• 治療はラクテック120-150ml/hなどの輸液による脱水の補正が主。ウェルニッケ脳症を生じることもあるため、サイアミン³²の補充を必ず行う。
• 補液によってもアシドーシスの改善が見られない症例では、透析になるケース³³もある。
• 低血糖を生じるので、入院後2-3日は血糖4検を。

3.2.4 エチレングリコール中毒

• 不凍液やワインの添加物などに使われる液体。酩酊症状、アシドーシスを生じる。
• 原因不明のアシドーシスで血液浸透圧を計算、実際の測定値が計算値よりも高かったらアルコール、 エチレングリコールの関与を疑う³⁴。

3.2.4.1 治療

• 胃洗浄
• 拮抗薬としてエタノール投与(経口または点滴静注)
• ピリドキシン50mg、チアミン100mgを1日4回、2日間筋注