1.8 低Na血症

1.8.0.0.1 低Na血症の原因

SIADHと利尿薬が主な原因。

表 1.2: 低Na血症の原因

慢性低Na
利尿薬	36%
SIADH	28%
浮腫性疾患	14%
副腎不全	4.7%
慢性腎不全	1.6%
急性低Na
SIADHと輸液	16%
心因性多飲	6.3%
副腎不全	1.6%

1.8.1 低Na血症の治療

1.8.1.1 Na補正の考えかた

1. 輸液1LあたりNaがどれだけ変化するかを計算する
2. 体内水分量を体重$\times$0.6で計算
3. 輸液する製剤のNa濃度を調べる。3%食塩水は513mEq/l、生食は154mEq/lである。
4. Naの変化幅を以下の式で計算する。
   
   $$輸液1LあたりのNa^{+}変化量= \frac{輸液中Na^{+}濃度-血清Na^{+}濃度}{体内水分量(L)+1}$$
   
   

5. 脳浮腫予防のため、1日のNa変化幅は10mEq/l以下に抑える。
6. 例えば70kgの人のNaが120mEq/lであり、これを130mEq/lにしたかったら以下のように計算。
   1. 生食1Lをこの人に輸液すると、Naの変化量は
      
      $$\frac{154(mEq/l) -120(mEq/l) }{70(kg)\times 0.6 + 1} =0.79mEq/l$$
      
      

   2. 3日かけてNa濃度を130mEq/lにするには1日あたり3mEq/lの変化幅が必要。
   3. これを達成するには1日大体4Lの生食の輸液が必要になる^1.11
   4. 現実的には、とりあえず初日に生食2000ml程度を輸液、翌日に採血を施行。Naの変化幅を見て翌日以降に必要な輸液量を決定する。

• 脱水があれば生食やラクテックで補正。
• 脱水がないなら高張Naと利尿薬による補正が基本

1.8.1.2 SIADH

• 特発性のもの以外に脳出血や脳炎などの中枢神経疾患、手術後の痛みの遷延、肺/膵腫瘍や肺炎、肺結核などでSIADHを生じる。
• 低Na、U-Osm$>$150、P-Osm$<$280、尿Na$>$20meq/dlになる。
• 水中毒とは病歴と血清ADH濃度で鑑別。

1.8.1.2.1 治療

1. 尿の希釈を行う必要があるため、まずはラシックス20mgを静注。
2. 3%食塩水を1-2ml/kg/hで開始。
3. 以後、Naの上昇スピードが1-2meq/hになるように3%食塩水の静注スピードを調節。
   1. 例えばラシックス静注後の尿量が400ml/hで、Na濃度が100meq/Lであったとする。
   2. Na排泄量は40meq/hであるため、3%食塩水の静注スピードは78ml/hとなる。
   3. 1時間後には約350mlの水分が排泄され、これによりNa濃度は約1%上昇すると考えられる。
   4. 当初は4時間ごとに血液/尿中のNaを測定し、点滴のスピードを調整する。
4. 水分は1000ml/日以下に制限。
5. 通常は高塩分食と利尿剤の内服でNaの維持は可能。
6. 慢性期にはデメクロサイクリンの投与を検討。