慢性的な腹痛にて、何度も受診歴のある女性。
先日外来にてCFを行っており、腸粘膜の軽度の炎症を指摘されたのみであった。 本日から腹痛が増悪。いつものことであるが、「いままでで一番痛い」という。
腹部聴診所見は腸音は少なく、圧痛もない。腹部はやや張っているものの、柔らかい。 面倒なので何とか帰そうとしたが、どうしても入院させてくれといって聞かない。点滴をつないで経過を見ていたが、 状態は徐々に悪化。結局深夜に緊急回復になったが、大きな異常は無かった。しかし症状は手術後消失。 以後、"腹腔内光線照射療法"という言葉が、当院に定着した。
俺のせいじゃねえ、と思った。
これ以外のもの、例えば腸炎や胃炎、腎梗塞や結石、胆嚢炎や胆石症といったものは、診断が遅れてもまだ許される。
逆に、ほっておくと死ぬような腹部症状は、アシドーシスが来る。これが無ければ、たぶんむこう2時間ぐらいは死なない。
もちろん、外科にコンサルテーションするのは アシドーシスが生じる以前に行うべきであるが、"原因ははっきりしないものの、 血液ガスは正常だったので、慎重に経過観察した"と言い訳するのは、何もしないで様子を見るよりはましだと思う。
話を聞いたらまずバイタル、触診・聴診。ショックであれば上記4つのどれかの可能性は高い。ガーディングは無いか、グル音はどうか。腹部が柔らかく、腸音がしない患者さんが重篤な腹痛を訴えていたら、SMA血栓を疑う。
バイタルが安定しており、症状が重篤であれば腹部単純写真。具体的には、腹腔内のフリーエアーが無いか、小腸ガスが見えないかどうかを見る。
素人のやる腹部エコーでは、せいぜい胆石の同定と腹水の有無ぐらいしか分からない。
原因のはっきりしない、症状の軽快しない腹痛の患者を帰すと、必ずといっていいほどトラブルになる。 最低でも点滴を行い、できれば採血検査で明らかな異常がないことを確認したほうが良い。
特に、若くて"元気そうな"腹痛患者が夜間にきた場合はハイリスクである。たとえ本人の都合で夜しか来られなかったのだとしても、本人はフルワークアップを望んでいることが多く、こういう人に昼間に来るよう説教しても トラブルになるだけである。