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: 2.10 脈がおそい : 2. 症状別の対処法 : 2.8 ショック状態   目次


2.9 脈が早い

84歳の独居の老人が、動悸がするということで来院。当院整形外科にかかりつけ。

息切れ等はなく、発熱もないがドキドキすると。心電図も、モニター上は不整ではあるものの、明らかなST異常はなさそう。 "心房細動"ということで、ジギタリスの内服で症状は軽減し、帰宅とした。

翌日、下血とショックということで、救急搬送。Hbは6.7と低下。穿孔性腹膜炎のため、緊急手術になってしまった。



入院後、家族から"何で最初に入院させなかったのか"と詰問された。最初の来院時の血圧は、ショック状態ではなかったこと、 来院時のHbは10.6と保たれていた、と説明し、下血したのは帰宅後であった、ということで納得していただいた。

"消化管出血の際には、血液データはすぐには変化しない"ということは、もちろん黙っていた。

2.9.1 まず行うこと

  1. バイタルを確認。SPO2は正常か、発熱は無いか、ショックになっていないかどうか。
  2. 本人の自覚症状の評価。動悸感はあるか、脱水の兆候は無いか、胸痛や息苦しさは無いか。発症のしかたも聞く(突然発症かどうか)。
  3. 12誘導を取る。
  4. 病的な頻脈(120以上)であった場合はラインをキープ。いっしょに採血(BUN、CRE、CK、GOT、GPT、LDH、GLU、WBC、Hb)。

糖尿病のある人では、本人の自覚症状は症状は当てにならない。必ず12誘導を確認すること。

2.9.2 鑑別診断

見逃すと、怖いものから

上から4つめまでは、原疾患の治療を行えば不整脈も解決しうる。下4つは特定の治療が必要。

2.9.3 治療

基本的には、上級医立会いの元で行う。頻脈の原因となったものの治療を並行して行わないと、不整脈はとまらない。

2.9.3.1 洞性頻脈

上記鑑別疾患を行ったら、その治療のみ。酸素投与(カヌラ3l程度)、脱水の補正(状態が分からなかったらKN1A250mlを全開)、 痛みの治療など。

2.9.3.2 発作性心房細動、PSVT

病棟でコールがあった場合は、基本的にはワソラン静注のみで対処できる。ACLSはもともと健康であった人を対象に作られており、病人向けではない部分もある。

何であれ病的な状態の人では、ATPを用いてもPSVTは再発する。交換神経過緊張状態の人であれば、ジギタリスは何の効果も無い。

  1. 血圧が100以上あることを確認してから、ワソラン1Aを2分かけて静注。
  2. 頻脈がコントロールされたら、ワソランを1錠服用させる。

2.9.3.3 期外収縮多発

12誘導上、PVCの形が一定であるか、正常なQRSとの距離(coupling intervalという)が一定であるかどうかを確認する。これらが一定であれば、リスクは低い。

ハイリスクであれば上級医コール。そうでなければ、無治療でかまわない。

リスクの低いPVCで本人が気になるようであれば、β遮断薬の内服を考慮。出すときには必ず、上級生立会いの元で。

2.9.3.4 心房細動

慢性のものであれば、原因の治療のみ行う。

発作性心房細動の場合、ワソランで脈拍のコントロールを行うと共に、発症48時間以内であれば薬物による除細動を考慮。

経口で簡単に行うことができるのは、プロノン600mg/1X、またはタンボコール300mg/1Xの内服である。どちらも1回の経口投与で、 24時間以内に70%前後の患者で除細動が生じる。

プロノンは頻脈を生じることは少ないが、脈拍コントロールをする薬、たとえばワソランを併用してもよい。

ただし、禁忌の非常に多い薬なので必ず使ったことのある医師に適応の確認を取ること!


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admin 平成16年11月12日