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: 2.7 血圧が高い : 2. 症状別の対処法 : 2.5 SPO2が低い   目次


2.6 とにかく、状態が悪い

28歳の会社員、柔道部主将が、突然の腹痛にて来院。 腹を押さえて非常に痛がるが、腹部は平坦軟。圧痛もない。腹部写真、血液データも600程度のLDH上昇のみ。

激痛を訴えるのでとりあえずは入院にしたが、ナースルームでは"この根性なしが"などと研修医同士で笑っていた。

夕になっても痛みは変わらず頻呼吸に。血液データを再検したところ、LDH1500と上昇。pH 7.29とアシドーシスになっていた。 誰かが"腸が腐ってるんじゃない?" と言い出し、外科コンサルト。上腸間膜動脈閉塞症だった。



後から聞くと、ものすごい忍耐力の持ち主だったとの事。回復し、トラブルなく退院したが、心の中で謝った。 このケースは外科と内科、どちらで入院するかもめており(どちらも取りたがらなかった)、これも病名発見が 遅れた理由であった。

2.6.1 わからなかったら血液ガスをとる

原因がはっきりしなくても、重症感の強そうな患者であれば、とりあえず血液ガスを取ってみることを勧める。

pHが低い場合、すなわちアシドーシスが生じている場合には、体の中では非常に危険なことが起こっている可能性が高い。たとえ代償されていても、HCO3やBEが低ければ(要は、代謝性アシドーシス)、それを見逃してはいけない。

逆に、血液ガスが正常であれば、まず向こう2時間は、患者は急変しないだろう。

代謝性アシドーシスがあって、本人の重症感が強い場合は、何らかの重篤な循環不全(心不全でも、出血でも起こりうる)、 敗血症、糖尿病性ケトアシドーシス、のどれかが隠れているかもしれない。逆に、循環不全を伴わない低酸素血症、 貧血だけではアシドーシスを引き起こすことはまずない。

バイタルが落ち着いており、本人も重篤でないのにアシドーシスがある場合、 上記のような重篤な原因疾患が除外されれば、下痢や嘔吐、腎機能低下、尿細管性アシドーシスなどを考える。

アニオンギャップの計算による代謝性アシドーシスの鑑別は、時間があるときには有用なのかもしれない。

アニオンギャップの計算


\begin{displaymath}Na^+ - (Cl^- + HCO_{3}^-) \end{displaymath}

正常値は12。AG高値の病態は、乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、腎不全、サリチル酸中毒。AG正常のアシドーシスは、下痢、子宮S状結腸瘻、尿細管性アシドーシス。

2.6.2 何をしていいのか分からなかったらとりあえず挿管

とにかく、状態が悪い。何かしないと患者さんが死んでしまうのは分かるが、何をしていいのか分からない、というときは、 「できることを全部やる」のが正解である。

具体的に行うのは、以下のとおり。上級医を呼べるなら、もちろんすぐに呼ぶ。

2.6.2.1 "汚い治療"のプロトコール

これは、「汚い治療」の典型だが、一応の意味はある。気管内挿管をすることで、とりあえずの呼吸の確保ができ、 何よりも「患者さんが苦しむ声を聞かなくてすむ」。これにより、少しだけ落ち着いて、原因を考える時間が作れる。

さらに、CO2が貯溜している状況ではメイロンの効果は薄いが、挿管してしまうことで、こうした問題が回避できる。 アシドーシスの原因がわからないまま補正をかけることには批判があるが、患者さんを死なせてしまっては元も子もない。

ステロイドの補充も、"馬鹿な"治療の代表のように言われるが、副腎不全によるショックを見逃すよりはましだ。

このリストに従うことで、多分1時間程度は時間を稼げる。この間、挿管された患者さんは苦痛を訴えることなく、 家族からのプレッシャーも、一応治療行為がなされているため減っているだろう。こうして作られた"医師が冷静になれる時間"を最大限に生かして、スタッフドクターと相談し、今後の方針を決める。

2.6.2.2 汚い治療は、実践的な治療でもある

原因がはっきりしている病気であれば、原因治療がもっとも優先されるのが常識である。しかし、臨床の現場では、 原因がはっきりしなくても、患者さんの状態が悪くなる状況などいくらでもある。

このとき、"きれいな治療"を優先するあまり、とりあえず患者さんのバイタルを安定化させることをせず、 原因究明に全力をあげてしまうことがよくある。実際の現場では、原因を調べるためには最低でも1時間以上はかかる。 その間に何らかのアクションを起こさないと、患者さんは急変しうる。

ここにあげた時間稼ぎのための治療は、"汚い治療"として、教科書で紹介されることは少ないが、 レジデントは絶対に知っていなくてはならない知識の一つだと思う。

これを行うには、最低限

必要がある。要は、気管内挿管の知識と心肺蘇生の知識であるが、これは内科のもっとも大事な知識でもある。
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admin 平成16年11月12日