しかしこの機械は多くの患者で有効であった半面、上気道の機能を維持できない、球麻痺を合併した患者では効果がなかった。 こうした患者に対して有効であったのが、気管切開である。
このような患者では、胃内容物の誤嚥の可能性が非常に高く、誤嚥性肺炎を引きおこす可能性がある。 カフつきのチューブを使用することで、逆流物が気管内に流れ込むのを防ぐことが出来る。
また急性喉頭蓋炎、クループ、気道熱傷、異物誤嚥、頚部の血管外傷、アナフィラキシーなどによる気道の閉塞も、 また気管内挿管の絶対適応となる。
こうした患者であれば気管内挿管をためらう必要はないが、一方マスクとアンビューバッグの扱いに慣れてさえいれば、 たとえ意識のない患者であっても、30分ぐらいならば安全に呼吸の補助は可能である。
気管内挿管の施行を決めたなら、経口、経鼻、経気管(気管切開)の3つのうちから最適な経路を選択する。ほとんどの場合に経口経路が選択されるが、状況によってはほかの経路が望ましい。
特殊な例を除いて、第一選択である。経口挿管は便利であり、短時間で施行できるが、一方で 口腔内の清潔が保てず、またほかの経路に比べて快適性では著しく劣る。
経口挿管の禁忌は以下のとおりである。
耳鼻科、歯科口腔外科などの手術では、経口挿管では手術野の邪魔になることがあり、経口挿管が出来ないことがある。
さらに、開口障害、てんかん重積状態、下顎骨骨折、頚椎の関節炎の患者や頚椎損傷の患者などでは、 経鼻挿管を選択することが多い。
経口挿管中に喉頭展開の出来ない患者であっても、経鼻挿管であれば成功することもある。 これは、鼻咽頭を抜けた挿管チューブが自然に声帯のほうを向きやすいからである。
長期にわたって挿管が必要な患者では、経鼻のほうが経口よりも違和感が少ないといわれている。 さらに経鼻挿管のほうがチューブの固定が用意であり、唾液の分泌も少なくなる傾向にあり、 歯牙によるチューブの損傷の危険もない。
一方で経鼻挿管は手技的にはやや難しく、また挿管チューブが鼻腔を通過する。鼻腔は人体では陰部の次に不潔な場所であるため、 消毒を十分に行う必要がある。
経鼻挿管の禁忌は以下のとおりである。
気管切開は、経口挿管に比べて口腔内の清潔が保たれ、患者の鎮静も要らず、 さらに飲食も可能になるなど優れている。
実際、人工呼吸管理が長期化した患者のトライアルでは、気管内挿管に比べて、気管切開は予後が明らかに高かった。
しかし気管切開は手技に時間がかかり、そう簡単にできるものではないため、通常気管内挿管が2週間を越えるようなとき、 あるいは確実に2週間以上人工呼吸管理が必要なときに行われる。
例えば、重症COPDの患者を挿管した場合、または神経筋疾患の病気の進行に伴う増悪例などでは、 挿管後数日目での気管切開を考えても良い。
最近、ベッドサイドで気軽に気管切開5.1ができるキットが相次いで発売された。
これが普及すると、気管切開の適応も変わってくるかもしれない。
最近は、BiPAPをはじめとするマスクを用いた呼吸器の利用が、特定の病気で考慮されるようになった。。
こうした機械は、顔面に密着するマスクを用いることで、今までの人工呼吸器とほぼ同じ性能を出すことができ、 気管内挿管をしないでも人工換気が可能である。これは、使い方によっては大きな武器となる可能性がある。
この機械の登場により、COPD急性増悪の患者においては、 従来の気管内挿管による人工換気に比べて明らかに患者の利益(生命予後や在院日数)が大きいことがわかっている。
気管内挿管は気道内に異物を持ち込むため、患者自身は咳ができなくなり、、痰の喀出はむしろやりにくくなる。 しかし、肺炎や誤嚥、喀血などにより大量の痰、分泌物が肺内に入っているときには、気管内挿管はこれらに対して効果的に働く。