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分からなかったらとりあえず挿管

経過

58歳の男性が、1ヶ月前からの呼吸困難、誤嚥にて来院した。来院時の胸部単純写真はほとんど正常であったが、 PaCO2が妙に高値を示していた。経過が1ヶ月と長い割には朝5時に救急搬送。

本人は"苦しい"と訴える割に、SpO2は97とほぼ正常であり、 本人の呼吸苦のワークアップよりも、家族への説教に自分のエネルギーを使ってしまった。

結局、血液データも正常。朝になっても点滴のみで治療行為は行わず、様子を見ていたところ、8時になって 唾液を誤嚥し、サクションが間に合わず呼吸停止。

すぐに挿管し、入院となったが、抜管困難の状態が2週間近く続き、原因はわからなかった。

結局、レジデントの"神経疾患じゃないですか"の一言がきっかけとなり、 最終的に重症筋無力症の診断がついたときには、入院後2週間が過ぎていた。

何のトラブルにもならず、その後は回復したが、家族の心証は極めて悪かっただろう。

原因

血液ガスを頻回にフォローしていたにもかかわらず、1回もA-aDO2を測定していなかった。

後から調べると、呼吸不全状態であったのに、すべて正常値を示していた。

これをちゃんと計算していれば、もう少し速く診断にたどり着いていただろう。

対処

入院中も何度か挿管と抜管を繰り返したが、"わからない呼吸不全はとりあえず挿管"の原則を守っていたため、 患者の状態自体は落ち着いていた。

最終的に筋電図の検査で重症筋無力症の診断がつき、手術となっている。

知識化

呼吸不全の鑑別疾患が頭に入っていれば、診断は簡単についたはずだった。

しかし、患者が呼吸器内科に入院。どうしても呼吸器疾患に伴う呼吸不全との先入観が頭にあり、 教科書的な鑑別疾患の手順を省略、具体的にはA-aDO2の計算をはしょってしまい、診断が遅れた。

原因のわからない呼吸不全は程度が軽くても挿管

特に、胸部単純写真が一見正常な患者なら、気管内挿管、という行為自体が致命的な肺合併症を起こす危険は 少ない。逆に、胸部単純写真が極めて重篤なCOPDだったりしたら、そもそもこうしたトラブルにはならないだろう。

気管内挿管に伴う合併症はもちろん起こりうるが、今回のようなケースを、例えばBiPAPで粘っていたりしたら、 胃の膨満から嘔吐を生じたり、肺のドレナージ不足から肺炎を生じたりしたかもしれない。


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admin@WORKGROUP 平成14年11月13日