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引継ぎ時間帯に信じられないミスが起こる

経過

"尿管結石による腰背部痛"を主訴に、何回か外来にきている男性。

当院の泌尿器科にも受診歴があり、尿管結石の診断はついていた。

この日も、いつもと同じような腰痛が突発したということで、朝8時に外来受診。 来院時は元気であり、痛みも少し引いていた。

過去に本人を診察したことがあり、顔見知りであったために"いつもの薬を出しておきます" ということで、ボルタレンを処方して帰宅してもらった(尿検査は行っている)。

患者はそのまま歩いて受付に向かったが、その直後に失神。

事務の人が駆けつけたときには脈は微弱になっていた。

原因

ちょうど救急外来の当直明けの時間帯であり、日勤の医師に患者を引き継いで、病棟に上がろうというときに患者がきた。

"出来る医者"を演じようとするとミスが起こる

素直に日勤に引き継げばよかったのだが、当時は"自分の勤務時間に起きたことを次に引き継ぐのは "ダメな医者"と見られる風土があり、なるべく自分の勤務時間内に患者を帰したかった。

さらに、患者と自分が顔見知りだったことが悪いほうに働き、患者も薬をもらうだけで満足し、帰ってしまった。

対処

外来でスタッフドクターを全員召集するはめになり、すぐに外科が診察。胸部単純写真上CTRの拡大があり、 胸部大動脈瘤切迫破裂の疑い、ということで緊急開胸になった。

手術は無事に成功したが、以後、胸部外科チームには頭が上がらない。

知識化

患者の譲り合いがトラブルを生む

各勤務帯の交代する時間は、事故が最もおきやすい時でもある。

この時間に来院した患者は、さっさと引継ぎを済ませるか、自分が居残ってみるかを決め、 いいかげんにあしらうのは危険である。

むしろ、"朝5時から9時に救急外来に来た患者は、どんなに軽症でも、無条件で採血、尿検査を行います" とでも、救急外来の待合室に貼っておくぐらいのほうが安全かもしれない。 保険組合は、お金を払ってくれないかもしれないが。

腹痛には恐ろしい病気が隠れている

突発した腹痛の原因の中には、

など、見逃すと致命的な疾患が多い。

必ず理学所見を取ると同時に、仮に痛み止めを使うにしても、1時間程度の外来キープは必要であった。

たとえいいかげんにでも腹部の触診を行っていれば、圧痛の所見から、何か診断ができたかもしれない。


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admin@WORKGROUP 平成14年11月13日