59歳の男性が、突発した腹痛にて救急搬送。
バイタル上血圧80台とショック状態であったが、見た目は元気で、冷や汗もなかった。 腹部単純写真は腸管の拡張のみ。
原因不明のイレウスということで、消化器内科コンサルトとなり、 エコー室にて緊急の腹部エコーが施行されたが、検査中にも血圧が低下。
原因がはっきりしないまま、外来に戻った時点ですでに意識障害がきていた。
結局穿孔性腹膜炎に伴う敗血症性ショックであったが、緊急手術になってしまった。
突発した腹痛であり、しかもショックを伴っていたということで、当初はかなり慎重に診察していた。
重篤な疾患を念頭においていたが、腹部単純写真が返ってきた時点で、 自分のなかでは"消化器に引き渡せばおしまい"と、治療方針がついたつもりになってしまった。
結果、まだショック状態は続いていたにもかかわらず、エコー室に患者を出してしまい、 本来必要であったショックに対するマネージメントを行うことができなかった。
血圧の低下については、痛みからくる迷走神経緊張によるものであろうと判断してしまい、 それ以上の処置をしなかったのも失敗であった。
外来帰室後、すぐにノルアドレナリン1A+NS20mlを2ml静注するとともに、全開で輸液を開始。
慌てて外科チームに泣きつき、そのまま手術室へ直行となった。その晩外科は徹夜となってしまい、 後からひどく怒られた。
今回のケースにしても、この原則を守っていれば、少なくともERで慌てることはなかった。
血圧が低い患者を見た場合、血液ガスをフォローすることで、その低血圧が緊急の治療を要するものなのかどうか、 判断することができる。来院時にアシドーシスがあり、ショック状態であったならば、 エコーには行かずに緊急開腹を選択しただろう。
救急外来の業務に慣れてくると、患者の主訴の解決がゴールではなく、病棟医に患者を引き渡すことが ゴールになってしまいがちである。今回のケースも、エコー室に患者を送った時点で、自分の中では"終わった"と 思ってしまい、その後の対処が遅れた。
このルールはよく破られるが、若年者の場合には、破っても大きな問題になることはない。
しかし、救急外来で生じる医療事故の大半は、このルールを破ったところから生じているのもたしかである。