病院内のIT化とやらで、院内のPHSシステムや、パソコンを用いたオーダーリングシステムを導入する病院が増えています。
こうしたデバイスの導入は、医療事故を防ぐ、という立場からは最悪のものです。
10人分の薬を配りに行った際など、患者さんの氏名を10回確認しなくてはなりません。これは非常に単純な作業ですが、 この作業のうち、1回でも間違えたら、医療過誤です。場合によっては、人が死ぬかもしれません。
"絶対に間違いの許されない単純作業"を間違いなく行うことは、非常な集中力を要します。
5人の患者の2人目の配薬が終わった際、いきなり電子音がなったとします。1回ぐらいなら、何とか集中を切らさずに 業務を続けられるかもしれません。
しかし、こうしたことが10回続いたとしたら、1回ぐらいは残りの配薬を忘れたり、 配り間違いを生じてしまうかもしれません。こうしたミスを"職員の不注意"のせいにするのは簡単ですが、 その不注意を作ってしまった原因は何なのか、もっと考えられるべきです。
配薬等の集中力を要する業務にあたる人からは、その集中力を中断する状況を極力避ける工夫が要ります。
白衣は医療従事者の象徴です。なまじ白衣を着ていると、患者さんからいろいろな頼まれごとをされ、これがミスにつながります。
バーコードシステムを用いた配薬システムといった、 ミスを防ぐための新しい機械もありますが、お金がかかります。上記のような対策は、 バーコードの導入ほどは効果が無いかもしれませんが、すぐ出来る上に、タダです。
現在の医療の主流は、チーム医療です。病院の現場では、"チーム"とは医師、看護師、薬剤師、放射線技師、検査技師、 理学療法士、事務官といった病院内の全ての人間を指すことが多いですが、 オーダーリングシステムを設計した人たちは、たぶん 医療チームには医者と看護師しかいないと考えています。
病棟で急変があったり、どうしても今日からリハビリをはじめたい、食事を出したい、といったときでも、 伝票に 「死ぬほど急ぐ!!」と書いておいたり、あるいは放射線技師の詰め所まで降りて、 「お願い今写真とって!!」 と叫べば、すぐに動いてくれました。
伝票システムはたしかに古臭いものですが、近代的な病院が出来てから60年近く、 特に大きな問題を起こすことなく使われてきたのは、何よりも"気持ちを伝える道具"として、伝票が優れていたからだと思います。
一番の問題点は、こうしたシステムを導入することで、他の業種の人たちと話をする機会が減ってしまうことです。
一つのチームとして働いている放射線技師なら、"気胸があったので、呼気の写真を追加しておきました"、 検査技師なら、"どうせ先生、データを見落とすでしょうけど、Hbが前回より下がってきてますよ"と、 医師の見落としを、事前に防いでくれます。
こういったことこそチーム医療の機能だと思いますが、オーダーリングシステムを導入してから、 研修医と他の職種との会話は激減しました。当然、他の職種の人からのメッセージは無しです。 チームに参加している感覚がなくなると、当然仕事に対する意欲も落ちます。 もちろん統計データなど持っていませんが、ミスも増えるのではないでしょうか。
オーダーリングシステムを導入することで、 たしかにメリットもある3.5ようですが、 今のシステムはまだまだ未熟です。病棟へのハイテクの導入は、こうしたデメリットも理解しておく必要があります。