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: 患者さんによるエラーチェック : 「人はミスをする」を前提としたシステム : 人を徹底的に信用しないシステム   目次


ハイテクはかえってミスを増やす

病院内のIT化とやらで、院内のPHSシステムや、パソコンを用いたオーダーリングシステムを導入する病院が増えています。

こうしたデバイスの導入は、医療事故を防ぐ、という立場からは最悪のものです。

院内PHSシステムはミスを増やす

例えば点滴抗生剤をぶら下げに行ったり、患者さんに薬を配薬したり、といった作業は、何人かの患者さんをまとめて行います。

10人分の薬を配りに行った際など、患者さんの氏名を10回確認しなくてはなりません。これは非常に単純な作業ですが、 この作業のうち、1回でも間違えたら、医療過誤です。場合によっては、人が死ぬかもしれません。

"絶対に間違いの許されない単純作業"を間違いなく行うことは、非常な集中力を要します。

予告の無い電子音は集中力を破壊する

医療現場にPHSを持ち込むと、職場の集中力はズタズタにされます。例えばナースが配薬中、 他の部屋から誰かがナースコールを鳴らすと、持っているPHSが鳴り出します。

5人の患者の2人目の配薬が終わった際、いきなり電子音がなったとします。1回ぐらいなら、何とか集中を切らさずに 業務を続けられるかもしれません。

しかし、こうしたことが10回続いたとしたら、1回ぐらいは残りの配薬を忘れたり、 配り間違いを生じてしまうかもしれません。こうしたミスを"職員の不注意"のせいにするのは簡単ですが、 その不注意を作ってしまった原因は何なのか、もっと考えられるべきです。

集中の中断を避ける手段

こうしたデバイスは、たしかに便利なものではあります。ただ、PHSは全員に持たせるのでなく、 コールを受ける専属の人間を設け、集中力が必要な人からは、こうしたものを取り上げるべきです。

配薬等の集中力を要する業務にあたる人からは、その集中力を中断する状況を極力避ける工夫が要ります。

白衣は医療従事者の象徴です。なまじ白衣を着ていると、患者さんからいろいろな頼まれごとをされ、これがミスにつながります。

バーコードシステムを用いた配薬システムといった、 ミスを防ぐための新しい機械もありますが、お金がかかります。上記のような対策は、 バーコードの導入ほどは効果が無いかもしれませんが、すぐ出来る上に、タダです。

オーダーリングシステムはチーム医療を破壊する

現在の医療の主流は、チーム医療です。病院の現場では、"チーム"とは医師、看護師、薬剤師、放射線技師、検査技師、 理学療法士、事務官といった病院内の全ての人間を指すことが多いですが、 オーダーリングシステムを設計した人たちは、たぶん 医療チームには医者と看護師しかいないと考えています。

オーダーリング導入前のチーム医療はうまくいった

こういったハイテク機器が入る前は、駆け出しの研修医が処方箋を間違えて書いても、 薬局長から呼び出しを食い、「処方にセンスが感じられないんだけど、これ、間違ってない?」と小言を言われました。

病棟で急変があったり、どうしても今日からリハビリをはじめたい、食事を出したい、といったときでも、 伝票に 「死ぬほど急ぐ!!」と書いておいたり、あるいは放射線技師の詰め所まで降りて、 「お願い今写真とって!!」 と叫べば、すぐに動いてくれました。

伝票システムはたしかに古臭いものですが、近代的な病院が出来てから60年近く、 特に大きな問題を起こすことなく使われてきたのは、何よりも"気持ちを伝える道具"として、伝票が優れていたからだと思います。

オーダーリングの導入で全ての人間関係は破壊された

オーダーリングシステムは、こうした人間関係を破壊します。病院のオーダーの優先順位は"早い者勝ち"ではなく、 本来は重要な順であったはずです。オーダーリングシステムでは、こうした部分はないがしろにされます。

一番の問題点は、こうしたシステムを導入することで、他の業種の人たちと話をする機会が減ってしまうことです。

一つのチームとして働いている放射線技師なら、"気胸があったので、呼気の写真を追加しておきました"、 検査技師なら、"どうせ先生、データを見落とすでしょうけど、Hbが前回より下がってきてますよ"と、 医師の見落としを、事前に防いでくれます。

こういったことこそチーム医療の機能だと思いますが、オーダーリングシステムを導入してから、 研修医と他の職種との会話は激減しました。当然、他の職種の人からのメッセージは無しです。 チームに参加している感覚がなくなると、当然仕事に対する意欲も落ちます。 もちろん統計データなど持っていませんが、ミスも増えるのではないでしょうか。

オーダーリングシステムを導入することで、 たしかにメリットもある3.5ようですが、 今のシステムはまだまだ未熟です。病棟へのハイテクの導入は、こうしたデメリットも理解しておく必要があります。


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admin@WORKGROUP 平成14年11月13日