next up previous contents
: ハイテクはかえってミスを増やす : 「人はミスをする」を前提としたシステム : 手技は下級生にやってもらう   目次


人を徹底的に信用しないシステム

いくら充実したマニュアルを作っても、ミスをしないよう注意しましょう、と呼びかけても、それを守らないのが人間です。 絶対にミスがあってはいけない状況では、今までとは逆に、"人間の判断を全く当てにしない"システムが考えられています。

マニュアルを絶対守らせるシステム

絶対に間違いが許されない職場、効率よりも確実性が要求される軍隊などでは、"復唱"を用いたシステムがとられます。

原因のはっきりしない、致命的なウィルス疾患でなくなった患者を解剖するときには、 病理医にも感染の危険があります。USAMRIID3.3などの、感染症対策の専門施設では、 こうした人を扱う際のマニュアル3.4を定めています。

処置にあたる人は、防護服を着た状態で、必ず2人体制で部屋に入ります。

処置は原則として一人で全て行い、もう一人の役割は"チェックリスト読み"です。 処置は、次のように進みます。

  1. 読み手が"左手で死体袋の頭側を持ち、右手でファスナーを下げる"とチェックリストを読み上げる
  2. 術者がこれを"左手で死体袋の頭側を持ち、右手でファスナーを下げる"と復唱し、袋を開ける。
  3. 読み手が"右手に10番ナイフを持ち、左手を胸骨上に当てる"と読み上げる。
  4. 術者が復唱し、そのとおりにする。
  5. 読み手が"心窩部から尾側に、右手のナイフで40cm切開"と宣言。
  6. 術者が復唱し、腹壁まで切開する。
以下延々と、通常の病理解剖の手順が進みますが、大事なのは次の2点です。

全ての手順を一人でやるのは、針刺し等の感染事故をなくすためです。特に、通常の手術の際など、 2人の術者が向かい合って刃物を動かすのは、針刺しのリスクを非常に高めます。

CDCの針刺し対策のガイドラインなどでも、向かい合っての手技は針刺しのリスクを増す、と警告しています。

エラーを予防する点で大切なのが、"復唱"の習慣です。 マニュアルを読む人、それを実行する人を分けることで、チェックリストどおりに行うのをサボってしまうことを避け、 またマニュアルどおりに術者が行っているかどうかを読み手が確認することで、マニュアルどおりの動作が確実に保証されます。

確実性と効率とは両立しない

この方式は、実際に作業する人間の考えを、まったく信用しません。また、効率という点では最低に近い方法です。 一方で、マニュアルが正しいならば、小さなミスでも命取りになるような現場では、もっとも確実な方法でしょう。

生きている患者の症状に合わせて対処することが多い医療現場では、 応用できる場面は少ないと思います。それでも、感染性廃棄物の処理、輸血や化学療法の薬剤の確認、 動注用プロスタグランジン製剤の調製、PTCAデバイスの確認、といった際には、 復唱の習慣を利用するとミスを減少できるかもしれません。


next up previous contents
: ハイテクはかえってミスを増やす : 「人はミスをする」を前提としたシステム : 手技は下級生にやってもらう   目次
admin@WORKGROUP 平成14年11月13日