我々の現場は、常に何人もの患者を、平行してみています。悪いことに、専門分化が進んだ現代医療では、 多くの患者の病気は、同じような疾患ばかりです。疾患が同じでも、細かい症状、禁忌の薬などはみんな違います。
人間は、少しだけ違ったものを多数扱うときにはミスをします。例えば、自動車のハンドルの中にゲームボーイを組み込み、 このハンドルで運転をしてみると、どういったことが起こるでしょうか。
ゲームの画面で右に曲がろうとしているとき、実際の運転では左に曲がっていたら、あなたは混乱せずに操作できますか?
もしも、ある患者に出すべき指示を、別の患者に出してしまったら、ここから大きな事故は始まります。
時間が無かったり、何かにいらついていたり、あるいは今夜のカンファレンスの準備に気がとられていたりして、 自分自身に何かのプレッシャーがかかっているとき、自分で気が付かずに起こしてしまったエラーに、 自分で気が付くことは困難です。
プレッシャーのかかっている人間は、自分の判断を絶対に変えない傾向があります。
例えば、雨の中で道に迷ってしまい、幹線道路から山の中に迷い込んでしまったケースを考えてみます。
患者を取り違えて手術を行ってしまったケースでは、最初に生じた患者の取り違えが、 最終的に手術が行われてしまうまでに深刻化していく途中で、 最初の判断が"間違っている"というサインがいくつも出ていたにもかかわらず、 それを事故防止に生かすことが出来ませんでした。
前のドライバーの例では、カーナビがついた車であったならば、そもそもこういうことは起こりません。 どんなに頭が熱くなったドライバーでも、カーナビの画面で、自分の車が崖っぷちにいたら、素直にブレーキを踏むでしょう。
では、医療の業界に、"カーナビ"に相当するものは無いのでしょうか。 はなはだ不完全ではあるものの、スクリーニング的な血液検査には、その機能があると思います。