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人間がミスを生じるメカニズム

最初はささいな取り違いから

どんな医療ミスも、個人の小さなエラーから始まります。

我々の現場は、常に何人もの患者を、平行してみています。悪いことに、専門分化が進んだ現代医療では、 多くの患者の病気は、同じような疾患ばかりです。疾患が同じでも、細かい症状、禁忌の薬などはみんな違います。

人間は、少しだけ違ったものを多数扱うときにはミスをします。例えば、自動車のハンドルの中にゲームボーイを組み込み、 このハンドルで運転をしてみると、どういったことが起こるでしょうか。

図 3.1: 自動車のハンドルの中にゲームボーイを組み込んだもの。中ではマリオカートが動いている。
\includegraphics [width=.7\linewidth]{game.eps}

ゲームの画面で右に曲がろうとしているとき、実際の運転では左に曲がっていたら、あなたは混乱せずに操作できますか?

もしも、ある患者に出すべき指示を、別の患者に出してしまったら、ここから大きな事故は始まります。

個人の力だけではエラーの訂正は出来ない

時間が無かったり、何かにいらついていたり、あるいは今夜のカンファレンスの準備に気がとられていたりして、 自分自身に何かのプレッシャーがかかっているとき、自分で気が付かずに起こしてしまったエラーに、 自分で気が付くことは困難です。

プレッシャーのかかっている人間は、自分の判断を絶対に変えない傾向があります。

例えば、雨の中で道に迷ってしまい、幹線道路から山の中に迷い込んでしまったケースを考えてみます。

  1. 結果が明らかになるまで、自分のした行為に疑問を持たない
    自分の選んだ道は絶対に間違っていない
  2. 外的環境が、思い込みの状況を助長するように作用
    外は雨で、まわりの風景は見えない
  3. 自分にとって不利な情報は切り捨ててしまう
    なんとなく道が細くなってきたが、きっとこの先広くなる
  4. エラーを警告する情報も、合理化してしまう
    舗装も無くなり、上り道になっているが、たぶん最近工事でもあったんだろう
急いでいるドライバーはこう考えてしまい、がけから落ちるまで自分の間違いに気が付きません。

プレッシャーのかかったチームもエラー訂正は出来ない

患者を取り違えて手術を行ってしまったケースでは、最初に生じた患者の取り違えが、 最終的に手術が行われてしまうまでに深刻化していく途中で、 最初の判断が"間違っている"というサインがいくつも出ていたにもかかわらず、 それを事故防止に生かすことが出来ませんでした。

  1. 研修医や執刀医は、手術時間に遅れてはいけない、というプレッシャーの中で自分の選択は疑えなかった
  2. 麻酔前投薬を受けた患者は、他人の名前の呼びかけに対しても"ハイ"と答えてしまった
  3. 患者の髪の長さが違う、と気が付いた麻酔科医は"ナースが切ってくれたんだろう"と自分の考えを合理化して解釈してしまった
こうしたことが重なり、結局最後までミスの訂正はなされませんでした。

カーナビゲーションのついたドライバーは迷わない

前のドライバーの例では、カーナビがついた車であったならば、そもそもこういうことは起こりません。 どんなに頭が熱くなったドライバーでも、カーナビの画面で、自分の車が崖っぷちにいたら、素直にブレーキを踏むでしょう。

では、医療の業界に、"カーナビ"に相当するものは無いのでしょうか。 はなはだ不完全ではあるものの、スクリーニング的な血液検査には、その機能があると思います。


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admin@WORKGROUP 平成14年11月13日