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: 3 ネブライザーの工夫で効率を上げる : 救急外来での喘息治療 : 1 喘息急性期の患者の検査   目次


2 救急外来での治療

2.0.0.1 まず行うのは酸素投与と気管支拡張剤

よほど軽症な例ならともかく、救急車で運ばれてくるような、喘息発作の患者に対しては、 酸素の投与と気管支拡張剤の投与は必須。

当院ではかつて、"非常に重篤な例の場合は、気管支拡張剤の投与は禁忌"といった言い伝え1があったが、間違いである。

急性期の気管支喘息を抑えられるのは、気管支拡張剤だけであり、これが効果がないような重症例は、 さっさと人工換気を考えるべきである。

2.1 酸素投与

2.1.0.1 CO2貯留があっても酸素は減量してはいけない

たとえCO2がたまっている症例であっても、SpO290以上、妊婦や心不全患者では95以上を目標に、酸素投与を行う必要がある。 これを行ってもなお、CO2が貯留してくるようであればそれは呼吸筋疲労の証拠で、気管内挿管を考慮しなくてはいけない。

喘息患者の増悪は苦しいが、肺胞の構造自体は保たれている。

図 1: 左が正常、中央が喘息急性期の肺胞。右のCOPDと比べて、分泌物の貯留と気道の狭窄は見られるものの、 肺胞は保たれている。

\includegraphics[width=.8\linewidth]{alveoli.eps}
慢性的に二酸化炭素が貯溜している可能性は低く、 COPDなどの合併症がない人であれば、血液中の二酸化炭素は減少していることが多い。

2.1.0.2 CO2濃度が正常の喘息患者は危険

重症感のある患者で、CO2濃度が正常であるか、あるいは上昇していた場合は、非常な注意を要する。 呼吸不全状態に陥りかけている証拠であり、これだけでも入院の適応になる。

酸素投与については、パルスオキシメーターのおかげで過剰投与を起こすことは少なくなっている。 SpO290、妊婦や心不全患者では95以上を目標に酸素投与を行う。

2.2 気管支拡張剤

2.2.0.1 可能な限り早く薬剤投与を行う

吸入の方法には、ネブライザーを用いる方法と、スペーサーをつけたMDIを用いる方法と があるが、効果はどちらも同じである。しかし、ネブライザーを用いた方法に比べて、 MDIを用いた方法には以下の利点がある。

図 2: スペーサーを用いてMDIを吸う子供。この、"スペーサーの使用"が大事といわれている。
図 3: いろいろなスペーサー。上2つは、専用のもの。中央はボルマチック、下はインスパイアイースで、 薬局に置いてある(アルデシンやべコタイドのおまけ)。

\includegraphics[width=.6\linewidth]{spacer2.eps}

\includegraphics[width=.5\linewidth]{spacer.eps}

一方、従来通りの吸入方法では、よほど上手に吸入しないと、その効果は減少してしまう。 薬剤はほとんどが口の粘膜でとどまってしまい、肺に入っていかない。

図 4: 従来のMDIの吸入。薬剤がうまく入っていかず、スペーサーを用いた場合に比べて効率が落ちる。

\includegraphics[width=.5\linewidth]{inhaler.eps}

外来にくる前に、もっていたMDIを吸入しても効果が無かった症例でも、スペーサーを用いて吸入を試みる価値はある。 具体的な量は、軽症から中等度の発作であれば、以下のとおり。

以上のどちらかを、20分ごとに症状が取れるか、副作用が出るまで繰り返す。

重篤な発作の場合も、吸入の治療が中心となる。

のどちらかを行う。これに加えて、アトロベント4パフを、スペーサーで20分おきに吸入することを加える。 3

2.2.0.2 気管支拡張剤は、持続吸入のほうが効果が高いかもしれない

ネブライザー吸入に関しては、間歇的な投与よりも、近年は持続的な投与のほうが効果が高い、という報告もある。 吸入器に、薬液を入れたシリンジポンプを接続し、持続的に気管支拡張剤を注入する。

図 5: 人工呼吸器管理中に、持続的なネブライザーをかれている。ネブライザー装置(C)に、シリンジポンプ (A)を用いて薬剤を持続的に注入する。

\includegraphics[width=.7\linewidth]{jizkuneb.eps}

2.2.0.3 levalbuterol

近年になり、代表的な$ \beta $作動薬であるalbuterolのR型の光学異性体 (levalbuterol)の製剤が発売された。

$ \beta $作動薬の気管支拡張作用は主にR型の光学異性体によって生じ、 S型の光学異性体は気管支の過敏性を増してしまう、という報告がいくつかあるが、 理論上はR型の光学異性体のみを吸入することで、より副作用が少なく気管支拡張効果を得ることができる。

臨床試験でも、levalbuterolの吸入は従来のものに比べてより効果的で、また副作用も少なかったというが、高価である。

この製剤が今後の主流になり、従来のalbuterolの座を奪うのかどうかは、今後の経過を見てみないと分からない。

2.3 $ \beta $刺激薬の全身投与

エピネフリンの皮下注や、terbutalineの静注は、患者の咳が強いときや、 吸入する力があまりにも弱いときなどに考慮されるが、現在はあまり推薦されていない。

吸入以外のルートでこうした薬剤を使うことに対しては、多くの警告が出されているが、 実際には目立った副作用は少ない。

カテコラミンを全身投与する際には、当院ではボスミン0.3mlの皮下注射が行われているが、 吸入を早期に行うことで、こうした治療が必要になるケースはほとんどなくなるという。 使用する際は心電図モニターを行い、20分は間隔をおく。

静注用$ \beta $刺激薬を最初から併用することで、より有効な気管支拡張が得られるかどうかについては議論があるが、 近年発表されたメタアナリシスでは、 吸入の$ \beta $刺激薬単独に比べて、有意な効果を得ることはできなかったとされている。

2.4 ステロイド

2.4.0.1 決して"急性期"の主役の薬ではない

ステロイドは、その抗炎症効果から、40年以上にわたって喘息の治療に用いられてきた。 しかし、その効果についてはいまだにはっきりしないところが多い。

例えば、ステロイドの全身投与が、本当に急性期の発作の再発を減らすのかどうかは、 まだはっきりした答えが出ていない。 急性期の喘息発作患者に対する、ステロイドの全身投与に関するメタアナリシスでは、 ステロイドの急性期投与は、患者の気道閉塞の程度も、入院率も、どちらも改善しなかったという。

この結果に対して、メタアナリシスを行った筆者からは、ステロイドの全身投与が効果が出るのは投与後24時間以上かかり、 このために急性期の効果が出なかったのではないか、 というコメントが寄せられている。

2.4.0.2 急性期の吸入ステロイド

一方、全身投与ではなく、救急外来でステロイドの吸入を行うことで、より早くFEV1.0が 改善し、また入院率が下がったという報告がいくつかある。

高用量の吸入ステロイドの吸入は、投与後3時間で肺機能の改善効果があることが報告されているが、 これは局所に投与したステロイドのため、肺の血管床が収縮し、 このために組織の浮腫、血漿成分の滲出が抑えられるのではないかと考えられている。

こうした結果からは、急性期の喘息発作の患者は、急性期からのステロイドの全身投与に加え、 吸入ステロイドによる利益も期待できるといえる。

2.4.0.3 ステロイドの投与量は定まっていない

喘息患者にステロイドを投与する場合に、どの程度の量を投与するべきなのかについても、 まだはっきりした結論は出ていない。

あるreviewでは、ハイドロコーチゾンで初期量を10〜15mg/kg/24hとすると、十分な効果が得られたとしている。 この量は、メチルプレドニゾロンでは、1日量で120〜180mgに相当する。

この量は、いくつかのガイドラインでも推薦されているが、60〜125mgのメチルプレドニゾロンを1日4回静注する方法も、 伝統的に行われている。

2.4.0.4 ERから帰す際にも、ステロイドを持って帰ってもらう

マニュアルからは離れるが、救急外来で回復した患者であっても、"レスキュードース" として40mg1日1回を3日間分もたせ、以後中止する方法は、副腎不全も無く、安全に発作を防止し得たという報告がある。

救急外来レベルで帰宅可能な患者であっても、ステロイドを持たせて帰すことは行ってもいいと思う。


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admin 平成16年11月12日