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3 圧-容量曲線

患者の気道内圧を横軸に、患者の換気量を縦軸にして曲線を描いたもの。 通常の陽圧換気の患者であれば、始点から反時計回りのループを描く。

正常な圧-容量曲線は、ちょうど傾けたラグビーボールのような形をしている。

\includegraphics[width=.9\linewidth]{pressure-volume.eps}

  1. 患者の吸気とともに、気道内圧が上昇し、換気量が増していく。この曲線がきついと、肺胞内に虚脱している部分がある可能性がある。
  2. 吸気の終了が、曲線の頂点になる。この頂点が尖っていると、肺が過伸展しているかもしれない。
  3. ループ全体の傾きを見ることで、肺のコンプライアンスが推定できる
  4. ループの幅を見ることで、患者の気道抵抗が推定できる。

3.1 inflection point

\includegraphics[width=.9\linewidth]{inflection_point.eps}

ARDSなどの病的な肺では、肺胞内分泌物などで虚脱した肺胞と正常な肺胞とが混在している。 この状態で陽圧換気を行うと、気道内圧の上昇とともに虚脱した肺胞が動員され、ある圧を境に急激に換気量が増す。

この気道内圧ををinflection pointという。

inflection point 付近の換気量の変化が大きいと、それだけ多くの肺胞が虚脱しており、換気が不安定になる。 また、一度動員された肺胞が再び虚脱することで、人工呼吸器による肺障害が進行してしまう。

重篤な肺疾患の場合、このinflection point 以上の圧のPEEPをかけると肺胞が動員された状態になり、 換気を安定化することができるとともに肺に対して保護的な換気を施行することができる(図10)。

図 10: PEEPをかけないと明確なinflection point ができるが、PEEPをかけることで吸気曲線がスムーズに立ち上がるようになっている。
\includegraphics[width=.7\linewidth]{peephosei.eps}

3.2 肺胞過伸展の同定

圧-容量曲線は、吸気が終了した時点で頂点を作る。この頂点の角度が鋭く、ちょうど鳥のくちばしのようになったときには 肺胞が過剰に伸展している可能性がある(図11)。

図 11: 換気量が過大の場合、左のように鋭い頂点を作る。1回換気量をわずかに減少させるだけで、気道内圧は大幅に減少する。
\includegraphics[width=.6\linewidth]{overdist_collection.eps}

このような波形を見た場合は、1回換気量が大きすぎる可能性がある。換気量を減少させたり、あるいは圧制御式の換気モード を選択することで肺の過伸展を防止できる。

3.3 ループの傾きと肺コンプライアンス

ARDSや肺炎、肺線維症といった疾患では肺は硬くなり、病気の重症度に比例して肺コンプライアンスは低下する。

圧-容量曲線は、その傾きを見ることで患者の肺コンプライアンスを推定することができる。

肺コンプライアンスの正常値は50〜80 ml/cmH2Oであるが、この値が低下するとループ全体が水平に傾き、 コンプライアンスが増すとループ全体が垂直に近づく(図12)。

図 12: 左側:矢印の方向に向かってコンプライアンスは高くなる。右はARDSの症例で、肺コンプライアンスは極端に低い。
\includegraphics[width=.7\linewidth]{pres_comp.eps}

病気の進行、あるいは治療の成功により肺のコンプライアンスが変化すると、ループの傾きはその変化を反映して変わっていく。

一方、圧制御換気を行っている場合は、肺のコンプライアンスの変化はそのまま換気量の増加につながる(図13)。

図 13: PCV中のコンプライアンス変化。コンプライアンスが下がると、そのまま換気量が減少する。
\includegraphics[width=.5\linewidth]{pcpvdec.eps}

3.4 気道抵抗とループの幅

1回換気量、肺コンプライアンスがともに同じであっても、気道抵抗が変化した場合はループの形は変化する。

具体的には、気道抵抗が高くなるほどループの幅が広がり、治療により気道抵抗が減少すると、ループの幅が狭くなる。

図 14: 吸気、呼気とも気道抵抗が増した場合のループの変化。1が一番気道抵抗が高く、3はほぼ正常な状態。
\includegraphics[width=.4\linewidth]{pres_vol_resistance2.eps}

\includegraphics[width=.9\linewidth]{pres_vol_resistance3.eps}

気道抵抗によるループの幅の変化は、圧制御換気を行っている場合はより顕著である。

図はPCV中に気道内圧が変化した例であるが、気道内圧が高いケースでは、吸気の開始時に極端に気道内圧が上がり、 吸気とともに逆に気道内圧が下がってきている。

例えば喘息患者などの場合、気管支拡張剤の効果が出てくると圧-容量曲線の幅が狭くなり、気道抵抗が減ってきたのが分かる(図15)。

図 15: 気管支拡張剤の効果。挿管直後(A)に比べて、気管が開いた後(B)ではループの幅が狭くなる。
\includegraphics[width=.7\linewidth]{bronchospasm_pv.eps}

3.5 ループが開始位置に戻らない場合

理論的には、吸った空気はすべて呼出される。このため、圧-容量曲線は必ずループになるが、 これがそうならない場合がある。

図 16: 回路内にエアリークがある場合。ループが閉じず、空いてしまっている。
\includegraphics[width=.6\linewidth]{airloss.eps}

16のように、ループが閉じない場合は吸気に比べて呼気の量が少ない場合に生じる。 これは、呼吸器回路のどこかにエアリークがある場合で、リーク個所を探さなくてはならない。

一方、ループが閉じないのとは逆に、ちょうど"知恵の輪"のようになってしまうことがある(図17)。

図 17: 吸気よりも呼気のほうが多い場合。患者が咳をしたときなどに見られる。
\includegraphics[width=.3\linewidth]{active_pv.eps}
この現象は、吸気に比べて呼気のほうが多くなる場合、具体的には患者が咳をしたとき、体位変換を行ったときなどに一過性に 見られるが、このような波形が常に見られるならば病的である。

圧-容量曲線が常にこのような波形になる場合は、肺のどこかにエアートラッピングを生じている。 患者のフロー波形を見ても内因性PEEPが高まっている波形をしているはずで、対策を考える必要がある。


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admin 平成16年11月12日