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: 1.3 敗血症で免疫抑制が生じる機序
: 1. 敗血症に対する考え方の変化
: 1.1 敗血症の死亡率は減少していない
目次
1970年以降、敗血症とは「細菌による炎症反応が過剰になり、
これにより体にさまざまな障害が生じる状態」と
考えられてきた。
この考え方に従い、さまざまな敗血症の動物実験モデルが作られ、またいくつもの薬剤の臨床試験が行われてきたが、
いまだに敗血症治療に劇的な変化をもたらしうるものは登場していない [#!Sepsis:12!#]。
最近になり、この「過剰な炎症反応」という考え方自体に疑問がもたれ、この考え方が間違っている証拠が
いくつか提出されるようになっている。
一方、敗血症の新しい疾患概念として、
敗血症とは「細菌感染により宿主の免疫力が低下してしまう状態」である
という考え方が提唱され、この考え方を支持する臨床所見も報告され始めている。
従来の考え方と新しい考え方のどちらが正しいのか、まだ明確な回答は出ていない1.1が、いずれにしても"過剰な免疫応答を抑える"という方針で成功している治療法で成功した
方法は無く、新しい考え方に基づいた治療法が模索されている。
1970年にLewis らが敗血症を「細菌感染による宿主の過剰な免疫応答」と定義してから現在まで、この考え方は支持されてきた。
敗血症の一歩手前の状態としてSIRS(Systemic inflammatory response syndrome)という言葉が提唱され、
この時期の過剰な免疫反応を抑えるためにコルチコステロイド、抗エンドトキシン抗体、TNF阻害薬
といった抗炎症薬による加療が試みられてきたが、そのほとんどが失敗に終わった。
敗血症の状態が、過剰な免疫系の刺激により生じるといった考え方は、
動物にエンドトキシンなどの免疫刺激物質を注入すると敗血症と
同じような病態が再現できるという観察に基づくものである。しかし、この状態は実際の敗血症患者のそれとは著しく異なる。
こうしたエンドトキシンを用いた敗血症モデル動物での血中炎症メディエーター、例えばTNF-の
濃度は、実際の敗血症患者の血中濃度に比べてはるかに高く、たしかに"サイトカインストーム"の状態にある。
こうしたモデルにおいては、炎症メディエーターの働きをブロックする薬剤は効果がある。
ある種の細菌感染症、例えば髄膜炎菌による敗血症では、たしかにTNF-の血液中の濃度と患者の予後とは相関する。
一方、他の多くの敗血症患者においては、TNF-やIL-6といった炎症性サイトカインの上昇している患者は10%程度
にしか見られなかったという報告もある。
さらに、こうした炎症性サイトカインが人体を破壊するのではなく、むしろ保護しているという報告もある。動物での腹膜炎
モデルを用いた実験では、TNF-やIL-1を阻害する薬剤は致命的な結果をもたらした。臨床報告でも、
TNF阻害薬は敗血症の予後をむしろ悪化させたという。
一方、抗炎症薬、サイトカイン阻害薬が予後を良くしたという報告もある。
TNF阻害薬のトライアルの中では予後の改善を報告しているものもあり、また高用量での効果は否定的であったものの、
抗炎症薬の敗血症に対する効果は全体の10%程度の患者では予後の改善をもたらしたという報告もある。
こうした従来からの考えに対する反省として、現在提唱されているのが「敗血症とは、細菌により宿主の正常な
免疫応答力が阻害されている状態である」という考え方である [#!Sepsis:12!#]。
敗血症になっている患者の多くで、免疫抑制の状態が生じることが知られている。
例えば遅発免疫反応の消失、感染症が感知しないこと、日和見感染の発生などである。
人間の実験でも、敗血症患者の血液にリポポリサッカライドで炎症反応を刺激し、
その後の炎症性サイトカインの量を測定すると、
健康な人の血液に比べて炎症性サイトカインの上昇の程度が低くなるという観察がある。
この考え方が正しいならば、敗血症に抗炎症薬の効果がなかったり、予後を悪化させたりした理由が説明できる。
一部には抗炎症療法が効く患者が存在する理由も、薬物を投与する時間の問題から説明可能とされる。
細菌感染が成立した当初は、人体の免疫反応は亢進し、抗炎症薬の効果が期待できる。しかし、局所の細菌感染が
時間の経過とともに敗血症の状態になると、今度は宿主の免疫系は抑制される。
こうした時期に抗炎症薬を投与すると、
かえって敗血症の予後を悪くしてしまう可能性がある。
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: 1.3 敗血症で免疫抑制が生じる機序
: 1. 敗血症に対する考え方の変化
: 1.1 敗血症の死亡率は減少していない
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admin
平成16年11月12日