next up previous contents ホームページに戻る
: 2. 現在有効といわれている治療 : 1. 敗血症に対する考え方の変化 : 1.2 敗血症の疾患概念の変化   目次


1.3 敗血症で免疫抑制が生じる機序

1.3.0.1 抗炎症性サイトカインの分泌

細菌などにより活性化されたCD4 T細胞は、TNF-$ \alpha $やIFN-$ \gamma $といった炎症性サイトカインを分泌すると同時に、 IL-4やIL-10 といった抗炎症サイトカインを分泌する。

CD4細胞がどちらのサイトカインを分泌するのかを決定する機序はよく分かっていないが、感染原因菌の種類、部位などが 関与するといわれている。

敗血症患者で抗炎症サイトカインの分泌が活発になるグループがあるが、 こうした患者での抗炎症サイトカインの分泌が減少すると、敗血症の予後は改善すると報告されている。

抗炎症サイトカインであるIL-10は敗血症患者で増加しており、この増加の程度と死亡率とは相関があるというデータもある。

1.3.0.2 T細胞の無反応

免疫応答の主役であるT細胞は、ある条件下では抗原に対して反応しなくなることがある。

腹膜炎患者を対象としたスタディでは、こうした患者のT細胞は炎症性サイトカインの分泌は低下していた一方、 抗炎症性サイトカインの分泌も正常量のままであったという。また、こうした無反応なT細胞が多い患者では、予後が悪かったという。

また、敗血症状態になった患者の多くで、リンパ球と消化管上皮細胞がアポトーシスを起こす [#!Sepsis:15!#]ことが知られている。 この理由自体はよくわかっていないが、アポトーシスを生じた細胞からの刺激で、生き残ったT細胞が無反応になる。

このため、細胞のアポトーシスが多い患者では細菌に対する免疫応答が障害され、敗血症の状態になっていく。 一方、外傷などで多くの細胞が壊死に陥った患者では、T細胞の働きは逆に活性化する。炎症性サイトカインの分泌は 活発になり、抗炎症性サイトカインの分泌は抑制される。

1.3.0.3 免疫細胞の死

敗血症で亡くなった患者を解剖すると、免疫反応に関与する細胞の多くがアポトーシスに陥り死滅している。 たいていの患者ではCD8T細胞、マクロファージ、NK細胞はまだ生存しているが、B細胞、CD4T細胞の数が著明に減少して いるという。

これらの細胞が減少することにより、抗体産生の減少、マクロファージ活性化の減少、抗原提示機能の低下といった 免疫反応は低下しうる。

このことは存命中の患者でも確認されており、重症敗血症の患者での観察で、 患者19人中15人で血液中リンパ球数が正常値以下であったという報告がある。

1.3.0.4 遺伝的要素の関与

この両者の違いを説明しうるものとして、遺伝的な要因が考えられている。

炎症性サイトカインのレセプターであるTNF-$ \alpha $レセプターやIFN-$ \gamma $レセプターにはさまざまな変異があることが 知られており、また細菌と細胞との反応の引き金を引くToll-like レセプター(TLR)にも、いくつかの変異があることが 分かっている [#!Sepsis:5!#]。

現在、肺炎患者を対象に、敗血症への進展とレセプターの変異との関係が調べられている。 こうした変異を事前に把握しておくことで、将来的には敗血症になりやすい人、そうでない人を前もって予想することも 可能になるのではないかと期待されている。


next up previous contents ホームページに戻る
: 2. 現在有効といわれている治療 : 1. 敗血症に対する考え方の変化 : 1.2 敗血症の疾患概念の変化   目次
admin 平成16年11月12日