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レジデントの診断は一人歩きする

経過

救急外来より、動悸の患者が入院。ちょうど、土曜日と日曜日の当直の引継ぎのときにきた患者で、 "変行伝導を伴ったPSVTが止まらないので入院させた"という申し送りだった。

見に行くと、本人は元気で、脈拍は120台。心電図は右脚ブロックを伴った頻脈で、 自分も変行伝導を伴ったPSVTでよいように思った。

引き継いでからも脈拍は120台から下がらず、ATPやワソランは無効。結局ジゴシンを静注し、その日は経過をみた。

翌日、循環器内科のスタッフが心電図をみると、心室頻拍の診断。頻拍はキシロカインの静注で、すぐに落ち着いた。

後から心電図を見直すと、典型的なVTの波形。なぜ、昨日のうちに心電図で診断できなかったのだろう…。

原因

暫定診断は確定診断に変わった

当直の医師はみな研修医であったが、申し送りを行った医師は循環器内科のローテーターだった。

このためか、自分にもVTと診断できるような心電図であったにもかかわらず、彼のいいかげんな診断を信じてしまった。

と解釈してしまい、診断名の間違いに思い至ることは無かった。

仮に心電図診断ができなかったとしても、ACLSの"幅の広いQRSの頻脈"の治療手順に従えば、その日のうちに頻脈を止めることは 十分できた。自分にも循環器内科の知識がつき始めたころで、こうした教科書に従えるほどには素直になれなくなっていた。

対処

運良く心室細動に移行することもなく、翌日のキシロカインの静注で不整脈は速やかに停止。

そのままEPSの出来る病院に転院している。

知識化

救急のガイドラインはよく出来ている

本来治療が可能であるはずの病気が治らない場合、その病気が治療抵抗性のものである確率よりも、診断が間違っている可能性が高い。 この、あたりまえのことが、一度こうだと思い込んでしまうと、なかなか間違いを認められない。 よく考えられた治療/診断のプロトコールは、レジデントよりも経験のある人が作っている。 わからないときにそこに戻ってみる価値は十分にある。


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admin@WORKGROUP 平成14年11月13日