V-V ECMOを行う際、成人の場合は専用の回路を用いることは少なく、市販のPCPS用の回路と 穿刺セットを流用することがほとんどである。
穿刺に用いることができるカテーテルは、テルモの場合は以下の2種類しかない。
これらのカテーテルを静脈に穿刺し、どちらかを脱血カテーテル、もう一方を送血カテーテルとして用いれば、 V-V ECMOを行うことができる。
脱血部位、返血部位については議論があるが、以下の方法が最も効率が高いと思う。
V-V ECMO を行うためには、最低でも2本の静脈ラインの確保が必要である。
穿刺を行う部位としては、右内頸静脈、左右の大腿静脈の3つのうちどれか8を用いることになる。
内頸静脈から15cm、ちょうどテルモの動脈用カテーテルを根元まで穿刺すると、カテーテルの先端は右房内に達する。 内頸静脈脱血-大腿静脈返血を行う際には、返血カテーテルも動脈用カテーテルを用い、左右どちらかの大腿動脈から 返血カテーテルを挿入する。
この位置からの脱血-返血は、伝統的によく行われる方法である。
内頸穿刺-右房脱血のメリットとしては、以下のようなものがある。
一方、内頸静脈からの脱血を行う場合、返血は必然的に大腿静脈からになる。この際、人工肺で酸素化された血液は かなりの部分が右心房から再び脱血されてしまい、ECMOの流量を上げると酸素化の効率が悪くなる欠点がある。
この方法は、前の方法の逆である。内頸静脈、大腿静脈にともに動脈用の短いカテーテルを穿刺し、 大腿静脈側より脱血、内頸静脈側より返血する。
返血カテーテルを大腿静脈から穿刺した場合は、左右の大体静脈の合流部あたりに先端が来るようにする。
この方法は、下大静脈の本来の流れに逆行して脱血を行うために、右房に返血された酸素化された血液が、 再び脱血されてしまうことが少ない。このため、ECMOの流量を上げても酸素化の効率が落ちにくい。
大腿静脈から脱血を行った場合、従来は下大静脈が虚脱してしまい、十分な流量が取れないと信じられていた。 しかし近年、同じECMO回路を用い、内頸静脈脱血-大腿静脈返血と大腿静脈脱血-内頸静脈返血とを比較したトライアルでは 逆の結果が出ている。 両者の比較を行った結果、大腿静脈脱血-内頸静脈返血を行ったほうが最大流量が多く取れ、また肺動脈血の酸素化も より高い値が得られた。また、同じ肺動脈酸素濃度を得るためのECMO流量は、大腿静脈脱血-内頸静脈返血を行ったほうが 2割以上少なくてすんだという。
こうした結果を見る限りでは、十分な脱血流量が得られるならば、まずは大腿静脈よりの脱血を考慮すべきだと思う。
内頸静脈が細い、あるいは首が短く穿刺が困難といった理由で内頸静脈からのカテーテル挿入が難しい場合、 左右の大腿静脈から長さの違うカテーテルを挿入し、V-V ECMOを施行することができる。
この際、1本はPCPS用の静脈カテーテルを用い、もう一本は動脈用のカテーテルを挿入する。
大腿静脈から脱血カテーテルを挿入する場合、その位置は両側大腿静脈の合流部付近に合わせると虚脱が少ないという。
一方、返血カテーテルは横隔膜直下まで静脈用カテーテルを挿入する。
大腿静脈からの脱血が不十分な場合、右心房の上方まで長いカテーテルを挿入し、脱血を試みる必要がある。
脱血カテーテルの長さが足らず、横隔膜下あたりまでしか挿入できないと、大腿動脈から返血された血液のほとんどが 再循環してしまい、酸素化の効率が悪い。
大腿静脈脱血-下大静脈返血を行う際、脱血カテーテルは右心房の上方まで深めに挿入し、 脱血カテーテルの末梢から上大静脈血を脱血、 脱血カテーテルの側孔から下大静脈の血液を脱血するように10することが勧められている。
一般的に、体表面積あたり2.1〜2.4l/min/m2の流量11が適切とされる。
V-V ECMOの場合、血液の酸素化の程度は血液流量によって変化し、一方血液中の二酸化炭素濃度は人工肺の酸素流量によって 変化する。実際、患者の酸素化を十分に行うためには大きな流量が必要であるが、 患者の血液中二酸化炭素濃度の減少はもっと少ない流量から生じる。 十分な酸素化には60ml/kg/min程度の流量が必要といわれているのに比べ、CO2交換には20〜40ml/kg/min程度で十分である。
血液流量を増やすと酸素化は良くなるが、V-V ECMOの場合は流量を増加させるほど回路を再循環する血液が増えてしまい、 酸素化の効率は落ちていく。血液の再循環量が多くなった場合、脱血カテーテルの血液の色が赤くなり、 一方で肺動脈の酸素化の改善が頭打ちになる。
このため、血液流量は患者の肺動脈血酸素飽和度12などを参考にしながら、人工肺に負担がかからない範囲で最も酸素化のよい流量を探すことになる。