肝静脈の血流は、図2.15のように大きく2つの心臓に向かう血流と、心房の収縮に伴う逆流成分とからなるが、 このうち心収縮期の肝静脈血流(S)の、時間積分値を、収縮期(S)、拡張期(D)の肝静脈血流の時間積分値の合計で 割ったもの(Systolic filling fraction)が55%をこえた場合、右室圧は8mmHg以上ある2.5(感度86%、特異度90%)。
この値は三尖弁閉鎖不全が重篤な場合には正確でなくなるが、単なる下大静脈の直径を測定するよりは、 正確に中心静脈圧を測定しうる。
人工呼吸器の患者の場合は当てにならない。
吸気時に、下大静脈の直径の減少が50%以下であった場合、右室圧は8mmHg以上ある可能性が高い (感度72%、特異度76%)。
左室拍出量は、左室1回拍出量に心拍数をかけることで、計算できる。
具体的には、心尖部長軸断を描出し、断層心エコー図法により左室流出路(大動脈弁輪)の直径()(図2.11)を求め、 心尖部からのパルスドプラにより同部位の血流速度を記録する。
さらに、左室流出路血流速度の速度・時間積分値(:血流速度信号の面積)を測定2.6する(図2.12)。
これを用いて、
左室と同じく、右心系も心拍出量を計算できる。傍胸骨単軸断で肺動脈の直径を測定し、 肺動脈血流のを測定すれば、後は左室と同じである。
右心系と左心系との拍出量の差は、シャント性の心疾患のシャント率を測定するときに便利である。
肺動脈収縮期圧は、三尖弁逆流の圧較差に右室圧を足すことで得られる。
肺動脈血流速度がピークに達するまでの時間pulmonary acceleration timeを使う。 この値は、正常で120ms以上であるが、肺血圧が上昇するとともに、短縮する。 これを用い、平均肺動脈圧は下のように計算できる2.7。
実際の測定は図2.17のように行うが、この図の左のケースだと左が130msec、右が40msecである。
この場合の計測値は、左が で20.5mmHg、右が61mmHgとなる。
肺動脈楔入圧は、等容量拡張時間と左室血流伝播速度とを用いることで、比較的正確な評価ができる 2.8。
等容量拡張時間(IRT)は、心尖部長軸断を描出し、連続ドップラーで、左室流出路での駆出の終了から、 僧帽弁での血流の流入までの時間を測定する(図2.18)か、心電図と連続ドップラーの波形を用い、 駆出の終了から流入の開始までの時間を計算するかして、求めることができる(図2.8)。
左室拡張伝播速度はMモードカラードプラエコー図を用いて測定できる(図2.7)が、 左室のコンプライアンスが低下するほど、この値は低下する。
この2つの値を利用した推定肺動脈楔入圧は、以下の式になる。IVRTはmsecで、FPVはcm/secで計算する。
または
図2.18では、実際の計測例を示しているが、上の写真が正常例、下の写真が拡張型心筋症の例である。
上の写真の例では、肺動脈楔入圧は
心筋梗塞を生じた患者でのstudyであるが、左室流入圧波形のE波のピークから、血流がゼロになるまでの時間 (decelration time )が130 msec以下であった場合、肺動脈楔入圧が18mmHg以上である可能性が高い。
この所見は、感度は86%と高いが、特異度は低い。
肺静脈波形のうち、D波のdecelration timeが160 msec以下であった場合、感度97%、特異度96%で肺動脈楔入圧が 18mmHg以上であったという。
ただ、きれいな肺動脈圧波形が取れるのが条件である。
肺静脈波形のA波の持続時間が、左室流入波形のA波の幅よりも20msec以上長かった場合は、 95%の可能性で左室拡張末期圧が12mmHg以上ある。