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: 3. 心エコーを用いた弁疾患の重症度評価 : 2. 心エコーを用いた血行動態測定 : 2.2 スワンガンツカテーテルの値を推定する   目次


2.3 実際の測定

2.3.1 中心静脈圧

2.3.1.1 肝静脈血流を用いた方法

図 2.15: 肝静脈血流の測定法。心窩部から、アプローチする。

\includegraphics[width=.7\linewidth]{hepatv.eps}

肝静脈の血流は、図2.15のように大きく2つの心臓に向かう血流と、心房の収縮に伴う逆流成分とからなるが、 このうち心収縮期の肝静脈血流(S)の、時間積分値を、収縮期(S)、拡張期(D)の肝静脈血流の時間積分値の合計で 割ったもの(Systolic filling fraction)が55%をこえた場合、右室圧は8mmHg以上ある2.5(感度86%、特異度90%)。
図 2.16: 左は正常例、右は静脈圧増加例

\includegraphics[width=.7\linewidth]{hepavein.eps}

この値は三尖弁閉鎖不全が重篤な場合には正確でなくなるが、単なる下大静脈の直径を測定するよりは、 正確に中心静脈圧を測定しうる。

2.3.1.2 下大静脈の直径

人工呼吸器の患者の場合は当てにならない。

2.3.1.3 呼吸変動

吸気時に、下大静脈の直径の減少が50%以下であった場合、右室圧は8mmHg以上ある可能性が高い (感度72%、特異度76%)。

2.3.2 心拍出量

2.3.2.1 左室拍出量

左室拍出量は、左室1回拍出量に心拍数をかけることで、計算できる。


\begin{displaymath}CO=VTI\times 左室流出路面積\times 心拍数 \end{displaymath}

具体的には、心尖部長軸断を描出し、断層心エコー図法により左室流出路(大動脈弁輪)の直径($ d $)(図2.11)を求め、 心尖部からのパルスドプラにより同部位の血流速度を記録する。

さらに、左室流出路血流速度の速度・時間積分値($VTI$:血流速度信号の面積)を測定2.6する(図2.12)。

これを用いて、

\begin{displaymath}一回拍出量=1/4\times \pi d^2\times VTI \end{displaymath}

と計算できる。

2.3.2.2 右室心拍出量

左室と同じく、右心系も心拍出量を計算できる。傍胸骨単軸断で肺動脈の直径を測定し、 肺動脈血流の$VTI$を測定すれば、後は左室と同じである。


\begin{displaymath}CO=VTI\times 右室流出路面積\times 心拍数 \end{displaymath}

右心系と左心系との拍出量の差は、シャント性の心疾患のシャント率を測定するときに便利である。

2.3.3 肺動脈圧

2.3.3.1 肺動脈収縮期圧

肺動脈収縮期圧は、三尖弁逆流の圧較差に右室圧を足すことで得られる。


\begin{displaymath}PASP=三尖弁圧較差 + 右房圧 \end{displaymath}


2.3.3.2 肺動脈平均圧

肺動脈血流速度がピークに達するまでの時間pulmonary acceleration timeを使う。 この値は、正常で120ms以上であるが、肺血圧が上昇するとともに、短縮する。 これを用い、平均肺動脈圧は下のように計算できる2.7


\begin{displaymath}meanPA=79-0.45 \times pulmonary\ acceleartion\ time \end{displaymath}

実際の測定は図2.17のように行うが、この図の左のケースだと左が130msec、右が40msecである。

この場合の計測値は、左が $ 79-0.45 \times 130 $で20.5mmHg、右が61mmHgとなる。

図 2.17: pulmonary acceleration timeの実測。左は正常例。右はこの時間が極端に短い例で、肺高血圧。

\includegraphics[width=.7\linewidth]{meanpa.eps}

2.3.4 肺動脈楔入圧

2.3.4.1 左室血流伝播速度を用いた方法

肺動脈楔入圧は、等容量拡張時間と左室血流伝播速度とを用いることで、比較的正確な評価ができる 2.8

等容量拡張時間(IRT)は、心尖部長軸断を描出し、連続ドップラーで、左室流出路での駆出の終了から、 僧帽弁での血流の流入までの時間を測定する(図2.18)か、心電図と連続ドップラーの波形を用い、 駆出の終了から流入の開始までの時間を計算するかして、求めることができる(図2.8)。

左室拡張伝播速度はMモードカラードプラエコー図を用いて測定できる(図2.7)が、 左室のコンプライアンスが低下するほど、この値は低下する。

この2つの値を利用した推定肺動脈楔入圧は、以下の式になる。IVRTはmsecで、FPVはcm/secで計算する。


\begin{displaymath}\frac{1000}{(2 \times IVRT) + FPV} \geq 5.5\rightarrow 肺動脈楔入圧\geq 18mmHg \end{displaymath}

または


\begin{displaymath}肺動脈楔入圧(mmHg) = \frac{4.5 \times 1000}{(2 \times IVRT) + FPV} - 9 \end{displaymath}

図 2.18: 肺動脈楔入圧の実測。肺動脈楔入圧は上が13.5mmHg、下が28.8mmHg。

\includegraphics[width=.8\linewidth]{pcwp.eps}

2.18では、実際の計測例を示しているが、上の写真が正常例、下の写真が拡張型心筋症の例である。 上の写真の例では、肺動脈楔入圧は

\begin{displaymath}肺動脈楔入圧(mmHg) = \frac{4.5 \times 1000}{(2 \times 55) + 90} - 9 \end{displaymath}

で13.5mmHg、下の写真の肺動脈楔入圧は28.8mmHgと計算できる。

2.3.4.2 僧帽弁血流波形を用いた方法

心筋梗塞を生じた患者でのstudyであるが、左室流入圧波形のE波のピークから、血流がゼロになるまでの時間 (decelration time )が130 msec以下であった場合、肺動脈楔入圧が18mmHg以上である可能性が高い。

この所見は、感度は86%と高いが、特異度は低い。


2.3.4.3 肺静脈波形を用いた方法

肺静脈波形のうち、D波のdecelration timeが160 msec以下であった場合、感度97%、特異度96%で肺動脈楔入圧が 18mmHg以上であったという。

ただ、きれいな肺動脈圧波形が取れるのが条件である。

2.3.4.4 肺静脈波形と左室流入波形の利用

肺静脈波形のA波の持続時間が、左室流入波形のA波の幅よりも20msec以上長かった場合は、 95%の可能性で左室拡張末期圧が12mmHg以上ある。


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admin 平成16年12月16日