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: 2.2 スワンガンツカテーテルの値を推定する : 2. 心エコーを用いた血行動態測定 : 2. 心エコーを用いた血行動態測定   目次


2.1 全体的な心機能を評価しうる値

古典的には Mモードを用いたEFの評価、左室の直径などが簡単な心機能の評価に用いられてきたが、問題点も多かった。

このため、従来から施行されてきた心エコーのルーチンの評価に加え、 より正確に患者の心機能を評価する方法が模索されてきた。

2.1.1 左室流入速度波形

ドップラー心エコーを用いた左室流入速度波形の評価は、 左室機能を全般的に評価するための古典的な方法である。

図 2.1: 左室流入波形は、正常から拡張障害、心不全状態へと変化する

\includegraphics[width=.9\linewidth]{lvflow.eps}

左室流入速度波形は、加齢に伴う心臓の拡張障害の程度を見るには便利である。

しかし、心不全の症状がさらに進むと"偽正常化"という現象を生じる。 これにより患者の心機能が正常なのか、あるいは重篤な心不全状態なのかの区別が難しくなる。

正常者と心不全の患者のE/Aは両者で類似しているが、 E波のDcT2.1の値は異なる。 すなわち、心不全の患者のDcTは正常者に比べて有意に短縮しており、 慣れてくれば偽正常化ないしは拘束パターンと正常パターンとの鑑別は可能である。

しかしやはり例外は多く、両者を見分けにくい症例は存在する。 またE/Aの比は感度があまり高くないため、例えば心不全患者の治療後の評価に用いる際など、 心機能の微妙な変化を反映しにくい。

2.1.2 肺静脈血流波形

心臓の機能を評価する際、従来の僧帽弁流入波形の評価のみでは さまざまな因子で波形が変わってしまい、正確な評価が難かしかった。

心機能のより鋭敏な指標として測定されるのが、肺静脈血流波形である。

図 2.2: 肺静脈血流波形はS波、D波、A波の3つからなる

\includegraphics[width=.5\linewidth]{pvflow3.eps}

心機能正常な患者の肺静脈血流波形は、心房の収縮期順行性血流S波、拡張期順行性血流D波、心房収縮期 逆行性血流A波からなる(図2.2)。このうちS波はさらにS1波とS2波とに細かく分かれる。

左室流入圧波形と同様、肺静脈血流波形は心機能の変化とともにその形を変える(図2.3)。

図 2.3: 左室流入圧波形と肺静脈血流派系との比較。
\includegraphics[width=.7\linewidth]{pv_lv.eps}

これらの波形のうち、S波とD波の高さの比が左室の拡張障害をより敏感に評価しうる(図2.4)。 左室流入圧波形が偽正常化を生じていても、肺静脈血流波形を測定することで両者を見分けることが 可能になる。

図 2.4: 左は正常例、右は心不全のE/Aの偽正常化例。肺静脈血流波形で鑑別可能。

\includegraphics[width=.7\linewidth]{pvdiag.eps}

また、D波の血流速度のピークから血流がゼロになるまでの時間(PV-DT2.2)からは、 左室拡張末期圧を推定することができる(P.[*]参照)。

A波からも、心機能の情報を得ることができる。

肺静脈血流速波形と左室流入血流速波形とを記録し、肺静脈血流速波形のA波の幅が 左室流入血流速波形のA波の幅よりも大であると、 左室収縮機能障害の有無にかかわらず左室充満圧の上昇を示す。

この指標はヨーロッパ心臓病学会の発表した拡張機能障害診断基準の一つに用いられており、 肺静脈血流速波形の心房収縮期血流速波形の幅(PVA波)が、左室流入血流速波形の心房収縮期血流速波形 (A波)の幅よりも30msec以上長い場合、左室流入血流速波形が一見正常パターンであっても左室充満圧が 上昇しているという。

2.1.3 dP/dt〜心収縮力の指標

心室内圧の上昇および下行曲線の傾きは、心臓の収縮力、拡張力によって敏感に変化する。

本来この値は左室内にカテーテルを挿入することで測定するが、これを心エコーで測定できれば、 心機能のより細かい評価を行うことができる。

心不全患者においては、左室拡大に伴う弁輪拡大などにより、 多くの例においてある程度の僧帽弁逆流を伴っている。

収縮期には逆流による左房圧の上昇は比較的少ないため、 僧帽弁逆流波形は左室の圧波形をそのまま反映すると考えられる。

この僧帽弁逆流シグナルを連続波ドプラ法により記録し、 逆流波形の上行脚の2点にて、ベルヌーイの簡易式から推定した圧較差の差をその2点間の時間で除せば、 心室内圧上昇曲線の傾き+dP/dtを簡易的に求めることができる(図2.5)。

図 2.5: $ +dP/dt=(4\times 32-4\times 12)/t=32/t $。t=0.04msecであり、+dP/dtは800mmHg/sec。

\includegraphics[width=.5\linewidth]{dpdt2.eps}

通常は計測の簡便さから、僧帽弁逆流血流速度が1m/sと3m/s の時相間の時間tを計測し、 ベルヌーイの簡易式より

\begin{displaymath}+dP/dt=(4\times 32-4\times 12)/t=32/t \end{displaymath}

として算出することができる。 図2.5の症例ではt=40msecであり、+dP/dtは800mmHg/secと推定できる。

心臓の収縮力が低下すると心臓の収縮はゆっくりとなり、dP/dtは低下していく(図2.6)。 この値は心収縮力の変化をかなり鋭敏に評価できる。

図 2.6: 心不全の症例。dP/dtは615mmHg/secと低下している。

\includegraphics[width=.6\linewidth]{dpdt.eps}

2.1.4 左室血流伝播速度〜心拡張能の指標

Mモード力ラードプラ法による左室血流伝播速度は、左室拡張能 を評価する簡便な方法である。

これは左室コンプライアンスが低下するほど、左室流入血流の左室内での伝播が低下することを利用した もので、簡単な方法でより正確な拡張障害の評価が可能になる。

測定方法は以下のとおり。

  1. 左室心尖部から、4腔断で普通に僧帽弁血流を測定する。
  2. 同じ角度のまま、左室流入血流のMモードカラードップラーエコー図を記録する。
  3. この際、カラースケールを45〜55cm/sec程度に狭く設定し、わざとエリアシングを生じさせる。
  4. そのままMモードで記録し、エリアシングを生じた部分の傾きから左室内血流伝播速度を評価する(図2.7)。

図 2.7: 左は正常例(188cm/sec)、右は拡張障害(48cm/sec)。

\includegraphics[width=.9\linewidth]{FPV.eps}

これを用いて僧帽弁流入血流速度波形の偽正常化を鑑別することができる。図2.7は正常者と、 虚血性心筋症の左室内血流伝播速度を表示したもので,心不全では正常に比べて有意に低下している。

左室内伝播速度が60cm/sec以下のときには左室拡張能低下の診断がなされる。

この値は、拡張障害の評価以外に肺動脈楔入圧を推定するときに用いる。

2.1.5 TEIインデックス

心機能の評価を行う場合、とりあえず患者の心機能が " $\texttt{(\textgt{$\cdot \!${∀}$\!\cdot $})}\scalebox{.5}[0.8]{\textgt{イイ!}}$" のか " $\texttt{(\textgt{$\cdot \!${ \small A }$\!\cdot $})}\scalebox{.5}[0.8]{\textgt{イクナイ!}}$" のかが分かると、その後の測定に大いに参考になる。

TEIインデックスは心臓の駆出時間、等容収縮期、等容拡張期といった心臓の各時相を ドップラー心エコーを使って評価するもので、 心臓の収縮障害、拡張障害の程度を同時に評価することができる。

この値は左心機能だけでなく、右心機能も同じように評価できるとされる。

図 2.8: TEIインデックスは(a-b)/bで計算する

\includegraphics[width=.7\linewidth]{tei.eps}

TEIインデックスは、ルーチンのパルスドプラ法により簡便に求められる。 図2.9に、左室のTEIインデックスの測定の例を示す。

図 2.9: 実際のTEIインデックスの測定(値は0.38と正常)

\includegraphics[width=.5\linewidth]{TEI3.eps}

TEIインデックスは、心室流入血流速度波形の終了から開始までの時間"a"と駆出時間(ET)"b"を用い て簡便に測定した値$ \frac{a-b}{b} $である。

時間"a"は等容収縮期(ICT)、駆出時間、等容拡張期(IRT)の 和である。したがって、$ \frac{a-b}{b} $はICTとIRTの和を、ETで除した値に等しい。

等容収縮時間、等容拡張時間は各々心臓の収縮力、拡張能に比例して延長し、 駆出時間は、心拍出量の増加に比例して増加する。

心臓の収縮能と拡張能の総和が低下するほど(a-b)の値は大きく、bの値は小さくなり、 その結果、TEIインデックス$ \frac{a-b}{b} $は大きくなる。

TEIインデックスの利点としては以下のようなものが挙げられる。

正常値は表2.1のとおり。


表 2.1: TEIインデックスの正常値
左室(LV) 正常 0.38±0.04
  左心不全 LV-TElインデックス>0.45
  軽症 0.45<LV-TEIインデックス<0.60
  中等症 0.60<LV-TEIインデックス<0.80
  重症 0.80<LV-TEIインデックス<1.0
  非常に重症 1.00<LV-TEIインデックス
右室(RV) 正常 0.28±0.04
  右心不全 RV-TEIインデックス>0.40
  軽症 0.40<RV-TEIインデックス<0.55
  中等症 0.55<RV-TEIインデックスく0.70
  重症 0.70<RV-TEIインデックス<0.90
  非常に重症 0.90<RV-TEIインデックス


2.1.6 左房容積の測定

左心房の容積は左室拡張末期圧をよく反映する。このため、左房容積を測定することで、 左室のポンプ機能を推定することができる。この方法は、特に拡張障害型の心不全の患者で、 左室流入圧波形が一見正常な患者の心機能の推定に役に立つ。

2.1.6.1 測定の方法

傍胸骨長軸断で測定したLADは、実際の左室容積とはあまり相関しない。より正確な左房容積の測定は、 心尖部の4腔断、および2腔断で行われる。

計測法は area-length 法によるもの、シンプソン法によるもの、 測定方法も4腔断と2腔断の2つを平均するもの、どちらか単独で行うものなどいくつか発表されているが、 左房自体は大体楕円形をしているため、どれを用いても大差はないと思う(図2.10)。

図 2.10: 左房容積の測定。左室収縮末期にシンプソン法を用いて左房容積を計算している。

\includegraphics[width=.5\linewidth]{lavolume.eps}

測定のタイミングは左室の収縮時、僧帽弁が開く直前の大きさを計測する。

2.1.6.2 正常値

左房容積は、測定した値を体表面積で割った値で評価する。

Schillerらの発表では、左房容積の正常値は体表面積あたり21$ ml/m^{2} $と発表している。 正常値の発表データもいくつかあるが、どれも大体この値2.3である。

2.1.6.3 左房容積と拡張障害

拡張障害の診断を、ドップラー心エコーの所見だけで決定するのは難しい。

左房容積と、他の方法で測定した心拡張障害とを比較したスタディでは、 28$ ml/m^{2} $以上なら、感度89%、特異度86%で左室拡張障害が認められたという。

診断値を32$ ml/m^{2} $以上に引き上げた場合、特異度100%で左室拡張障害を推定しうるが、 感度は67%に低下した。

2.1.6.4 左房容積は心筋梗塞の予後とよく相関する

弁疾患のない急性心筋梗塞の患者321人を検討したスタディでは、来院時の左房容積が 増すにつれて、発症2年目での患者の死亡率は上昇2.4した。

特に、左房容積が32$ ml/m^{2} $以上あった患者は、それ以下の患者に比べて有意に死亡率が高かったという。

また、来院時のEFが低い患者であっても、左房容積が32$ ml/m^{2} $以下であった患者の死亡率は 27人中1名であったのに対し、来院時のEFが40%以下で左房容積が32$ ml/m^{2} $以上あった患者は、 55人中22人が死亡した。


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admin 平成16年12月16日