僧帽弁閉鎖不全の程度には、以下のような評価方法がある。
僧帽弁逆流血流のジェットの長さ、面積、面積/左房面積などが挙げられているが、 僧帽弁閉鎖不全の血流は流れが複雑で、平面しか描出できない心エコーでは評価に限界がある。
術者によりその見えかたも異なってくるため、これだけでは参考程度の評価しかできない。
逆流血液量を定量的に求めようとしたのが、心拍出量の差を利用した方法である。
ドップラーを用いることで、左室の1回拍出量、1回流入血液量を計算することができる。
これを用いて、逆流量を推定する(図3.2)。
この方法で計算した1回収縮時の逆流量が60ml以上あるか、逆流率が55%以上あった場合は 高度の僧帽弁閉鎖不全と評価される。
僧帽弁の逆流ジェットが逆流口から出た直後の、最も狭い幅の部分をvena contracta (図3.3)という。
この図を実際に測定すると、P.のように見える。 逆流性弁疾患の逆流ジェットの形はちょうど"てるてる坊主"のようになるが、 その首回りを測定する感覚になる。
この部分の幅は、逆流量とよく相関するといわれており、カラードップラーの逆流面積を測定するのと違い、 心臓の解剖学的な形や、逆流の方向に影響を受けにくい。
vena contractaの幅が5mm以上ある場合には、重症の僧帽弁閉鎖不全と評価される。
心拍出量の差を利用した方法は、流出路の直径を計る際の誤差が大きいのが問題になる。
術者ごとの誤差がより少なく、正確な方法として PISA法が提唱されている。
PISA法は通過血流量が一定であるとする連続の式の原理を応用している。 左室内の血液が逆流口に向かって集まるとき、流速は加速されていき、 逆流口に向かって同じ流速の半球を形成する(図3.4)。
カラードプラ法によるカラーの折り返し現象を用いて、半球表面の血流速度を知ることができる。
PISA半球上の単位時間当たりの面流量は、半球表面積と折り返し速度の積で表される。
PlSA半球上の血流量は、逆流口を通過する血流量と等しいことから、PISAの半径をとして 3.3、 この値と、僧帽弁を逆流する血液の速度を測定することで、有効逆流口面積(ERO)を算出できる 3.4。
例えば、折り返しを40cm/secに設定して、PISAの半径が10mmであり、さらに僧帽弁の逆流速度が5m/secであった場合、
具体的な手順を以下に示す。
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カラードップラーのベースライン(折り返しの生じる血流速度)を20-40cm/secにセットする。
左室収縮中期の、PISAの半径(mm)を測定する。
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簡単にやるには、ベースラインを40cm/secに設定して、MRの流速を大体5m/secと仮定すると、 は大体、となる。
ERO>0.4、あるいは逆流量60ml以上のケースは重症の僧帽弁閉鎖不全である。
僧帽弁の閉鎖不全が重症化すると、それだけ左房圧は上昇する。
この際、左房への流入血流である肺静脈波形も影響を受ける。
逆流が増加するにつれて肺静脈波形のS波は減高し、 重症例では僧帽弁の逆流波が肺静脈内に流入する(図3.5)。
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点数 | 心症状 | LVDs | 左室駆出率 | 収縮期PA圧 | Af |
0 | なし | 35mm以下 | 60%以上 | 35mmHg以下 | 無し |
0.5 | 軽度 | 35〜45mm | 50〜60% | 35〜55mmHg | 一過性 |
1 | 中等度以上 | 45mm以上 | 50%以下 | 55mmHg以上 | 慢性 |