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: 3 マインドコントロール的な臨床教育の弊害 : 臨床研修とカルトの手法 : 1 臨床研修とカルトはよく似ている   目次


2 私たちはマインドコントロールをうけている

2.1 マインドコントロールには下準備が必要

2.1.0.1 同意のない人のマインドコントロールは大変

一般市民をいきなり拉致しても、その人にマインドコントロールを施すのは大変です。

こうした状況の代表が朝鮮戦争当時に行われた"洗脳"ですが、このときは捕虜の反抗心を減らすのに、 拷問や飢餓、眠らせないといった方法を用い、反抗心を奪いました。 それでも、洗脳が完成するには何年もかかったといいます。

2.1.0.2 洗脳とマインドコントロールとは別物

現在のカルト団体は、もっとスマートな方法を用います。 自己啓発セミナーは、洗練されたカルトのようなものですが、 ターゲットをソフトに勧誘、あるいは自発的にセミナーに参加してもらった後は、
  1. ターゲットが今まで経験したことがないことを体験させ、日常の価値観を揺さぶる
  2. ターゲットいかに無力で価値のない人間であったかを、"討論"や"グループワーク"といった方法で自覚させる
  3. 軽い"修行"でターゲットも組織の役に立つことを示し、カタルシスを与え褒め称える
  4. "修行"を積んだ人間による奇跡を見せ、自分も将来こうなれることを納得させる
といったことを3日程度のコースで紹介します。

個人差はありますが、上記のようなコースを経験した人は、今までの価値観が壊され、 カルトの望むような思想を受け入れやすい状態になります。

この部分は、マインドコントロールの入り口にあたる部分でもあり、 各カルト団体がもっとも力を入れている部分でもあります。

この後、カルトはこうした人を世間から隔離し、本格的なマインドコントロールに入ります。

2.2 研修医はマインドコントロールを受けたがっている

医学部を卒業したばかりの医学生は、こうした下準備を自分で行ってしまっています。

  1. 卒業間際、自分の意思でよく考え、研修病院や大学医局への入局を決定する
  2. 病院は、大勢のパラメディカルから"先生"と呼ばれ、自分の世界がまったく違ったものになったことを体験する
  3. 病棟デビュー直後、まったく患者の役に立たない自分にショックを受ける
  4. 患者が亡くなったり、心肺蘇生に参加させてもらえたりする体験は強く感情を揺さぶられ
  5. 1年上の上級生が末梢点滴を簡単に入れるのも、新入生から見れば立派な"奇跡体験"である

こうした過程を通じて、医学部を卒業した研修医は、 自分からマインドコントロールを受け入れやすい精神状態を作ってしまいます。

2.3 卒後研修はマインドコントロールの手法を使う

マインドコントロールは、以下のような原理を利用しています。

そのうち、新しい世界の知識が積み重なっていくと、 すでに信じているものと、新たに学んだこととの間に衝突が生じるようになります。 この時点ではじめて、人間は他人の言うことに対して、懐疑的に考えるようになりますが、 カルトは教義に対する批判がなくなるよう、巧妙に教育内容を調整します。

医師の研修システムと、カルトのマインドコントロールの手法は、よく似ています。

こうした傾向は、多かれ少なかれ、すべての科の臨床研修で認められるはずです。

どちらかというと、"厳しい研修""良い医師を育てる"と宣伝している大手病院ほど、こうした傾向が強くなります。

大体、"良い医師""患者のための医療"などという具体性のない、 どうすれば実現できるのか分からない目標は、カルトの教義そのものです。

2.4 マインドコントロール手法の長所と短所

2.4.0.1 厳しい研修医生活も"地上の楽園"に見えてくる

マインドコントロールの手法を用いた臨床研修は、効果的です。

こうした方法が効果的に作用した研修医は、朝早くから夜遅くまで、嬉々として働きます。 寝るひまもない生活は、"他の病院のやつらとは違う"というプライドの源にもなり、 "今日は5本の末梢点滴が入った"といったことに生活の喜びを見出すようになります。

スタッフの言葉は、神の言葉に等しいものです。 まじめな研修医は、スタッフの何気ない一言をもメモ帳に書き留め、 自分のものにしようと努力するようになります。

もちろん、上級生に逆らうことなど、論外です。 逆らわずに"家族"としてチームの一員に迎えられることは、 研修医にとって喜ばしいことです。

こうした状況では、臨床医として必要な知識は、非常に効果的に頭に入ります。 卒業したての研修医は何の役にも立ちませんが、 こうした環境に身をおくことで、研修医は急速に"役に立つ知識"を身につけていきます。

2.4.0.2 問題点は当然多い

一方で、こうした方法には、当然問題もあります。マインドコントロールの手法が入ると、 教え込まれた知識を状況に応じて変化させることができません。知識の応用がきかなくなります。

また、教えられた知識が間違ったものであった場合、後にそれを訂正するのが大変です。 別の人に知識の間違いを指摘された場合、マインドコントロール的な教育を受けている人は、 自分の間違いを訂正しません。むしろ、自分の間違った知識を何とか 合理化しようとし、相手のほうが間違っていると思い込もうとします。


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admin 平成17年3月10日