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: 3 マインドコントロール的な臨床教育の弊害
: 臨床研修とカルトの手法
: 1 臨床研修とカルトはよく似ている
目次
一般市民をいきなり拉致しても、その人にマインドコントロールを施すのは大変です。
こうした状況の代表が朝鮮戦争当時に行われた"洗脳"ですが、このときは捕虜の反抗心を減らすのに、
拷問や飢餓、眠らせないといった方法を用い、反抗心を奪いました。
それでも、洗脳が完成するには何年もかかったといいます。
現在のカルト団体は、もっとスマートな方法を用います。
自己啓発セミナーは、洗練されたカルトのようなものですが、
ターゲットをソフトに勧誘、あるいは自発的にセミナーに参加してもらった後は、
- ターゲットが今まで経験したことがないことを体験させ、日常の価値観を揺さぶる
- ターゲットいかに無力で価値のない人間であったかを、"討論"や"グループワーク"といった方法で自覚させる
- 軽い"修行"でターゲットも組織の役に立つことを示し、カタルシスを与え褒め称える
- "修行"を積んだ人間による奇跡を見せ、自分も将来こうなれることを納得させる
といったことを3日程度のコースで紹介します。
個人差はありますが、上記のようなコースを経験した人は、今までの価値観が壊され、
カルトの望むような思想を受け入れやすい状態になります。
この部分は、マインドコントロールの入り口にあたる部分でもあり、
各カルト団体がもっとも力を入れている部分でもあります。
この後、カルトはこうした人を世間から隔離し、本格的なマインドコントロールに入ります。
医学部を卒業したばかりの医学生は、こうした下準備を自分で行ってしまっています。
- 卒業間際、自分の意思でよく考え、研修病院や大学医局への入局を決定する
- 病院は、大勢のパラメディカルから"先生"と呼ばれ、自分の世界がまったく違ったものになったことを体験する
- 病棟デビュー直後、まったく患者の役に立たない自分にショックを受ける
- 患者が亡くなったり、心肺蘇生に参加させてもらえたりする体験は強く感情を揺さぶられる
- 1年上の上級生が末梢点滴を簡単に入れるのも、新入生から見れば立派な"奇跡体験"である
こうした過程を通じて、医学部を卒業した研修医は、
自分からマインドコントロールを受け入れやすい精神状態を作ってしまいます。
マインドコントロールは、以下のような原理を利用しています。
- まったく新しい環境に置かれると、自分の経験よりも、自分が信用できる他の人間が経験したことを優先して信じるようになります。
- 環境が変わった瞬間は、人間はあらゆる考えを無批判に受け入れます。
そのうち、新しい世界の知識が積み重なっていくと、
すでに信じているものと、新たに学んだこととの間に衝突が生じるようになります。
この時点ではじめて、人間は他人の言うことに対して、懐疑的に考えるようになりますが、
カルトは教義に対する批判がなくなるよう、巧妙に教育内容を調整します。
- カルトの教義は、その世界の中では矛盾がありません。リーダーに質問をしても、すぐに答えが返ってきます。
- カルトのリーダーに答えられないような質問、過去に別の信者が教義を疑うきっかけになった質問は"タブー"とされ、それを聞くことは罰せられます。
- 教育する際は、意識して断定的な表現が使われます。これには反対意見もある、といった情報は制限されます。
- リーダーと信者の力関係は、常にリーダー優位に調整されます。
- 不眠や恐怖、といったカルトの古典的な手法は、リーダーを批判する気力を減らします。
- 一般的に、人は中間を認められないと、意志決定を他人に委ねるしかなくなってしまう傾向があります。権威を持った人に、
「君は米軍基地反対だろ?それを認める政府与党も許せんよな?だから一緒に政府を打倒しよう!」などととたたみ込まれると、
なかなかNOとはいえないものです。
医師の研修システムと、カルトのマインドコントロールの手法は、よく似ています。
- カルトは、信者以外の人間を敵視、軽視させます。
研修病院に入った研修医も、他の病院に入った研修医に対抗意識を持つよう、教育される傾向があります。
- カルトは、教団組織への絶対服従を強制します。
卒業したての研修医がチームに参加しなかったら、医療は成り立ちません。
- カルトは、教義に対しての批判的思考を否定します。
卒業したばかりの研修医から"批判的意見"など出されても、上級生はいちいち理由を説明している余裕はありません。
- カルトは、これまでの人間関係や人生など、過去との断絶をさせます。
研修医が白衣を着た時点で、学生生活は終了し、医師としての新しい生活の始まりです。
- カルトは、信者の個性や自主性、プライバシーを否定します。
これも、卒業後すぐの研修医には与えられないものです。
- カルトの世界観は、善と悪、光と闇のように二元論的です。
知識の十分でない上級生による教育は、
しばしば"こうすることが正しい"と断定的になります。実際には反対意見もあったり、中間的な立場をとる論文は必ずあるものですが、経験の十分でない上級生はそこまでは教えられません。
こうした傾向は、多かれ少なかれ、すべての科の臨床研修で認められるはずです。
どちらかというと、"厳しい研修""良い医師を育てる"と宣伝している大手病院ほど、こうした傾向が強くなります。
大体、"良い医師""患者のための医療"などという具体性のない、
どうすれば実現できるのか分からない目標は、カルトの教義そのものです。
マインドコントロールの手法を用いた臨床研修は、効果的です。
こうした方法が効果的に作用した研修医は、朝早くから夜遅くまで、嬉々として働きます。
寝るひまもない生活は、"他の病院のやつらとは違う"というプライドの源にもなり、
"今日は5本の末梢点滴が入った"といったことに生活の喜びを見出すようになります。
スタッフの言葉は、神の言葉に等しいものです。
まじめな研修医は、スタッフの何気ない一言をもメモ帳に書き留め、
自分のものにしようと努力するようになります。
もちろん、上級生に逆らうことなど、論外です。
逆らわずに"家族"としてチームの一員に迎えられることは、
研修医にとって喜ばしいことです。
こうした状況では、臨床医として必要な知識は、非常に効果的に頭に入ります。
卒業したての研修医は何の役にも立ちませんが、
こうした環境に身をおくことで、研修医は急速に"役に立つ知識"を身につけていきます。
一方で、こうした方法には、当然問題もあります。マインドコントロールの手法が入ると、
教え込まれた知識を状況に応じて変化させることができません。知識の応用がきかなくなります。
また、教えられた知識が間違ったものであった場合、後にそれを訂正するのが大変です。
別の人に知識の間違いを指摘された場合、マインドコントロール的な教育を受けている人は、
自分の間違いを訂正しません。むしろ、自分の間違った知識を何とか
合理化しようとし、相手のほうが間違っていると思い込もうとします。
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admin
平成17年3月10日