原因にはいくつかあるが、心臓を養っている血管1に閉塞が生じると、 その血管の先にある心筋は、壊死する(図4の黒変した部分)。
このとき、壊死した心筋付近の心電図では、ST部分が上昇する(図5)。
冠動脈と、左心室との位置関係は図6のようになっている。
心筋のどのあたりが虚血に陥ったのかが分かれば、そこからどの血管がつまったのかが想像できる。
血管が閉塞してから、最終的に心筋が壊死するまでの間に、心電図は図7のように変化する。
最初にSTの上昇があって(B)から、最終的にQ波を生じる(F)までの時間は、大体24時間である。
冠動脈の閉塞以外にも、心電図上ST上昇が見られるケースはある2が、典型的な症状を示している人に心電図を施行した場合、 ST上昇が異常なのか、正常範囲なのかで迷うことは、比較的少ない。
典型的な、心筋虚血による症状は以下のとおり。
心電図の各誘導は、番号順に並べられている(図8)。このため、 そのままでは心臓の立体的な形を想像しにくく、ぱっと見ただけでは、心臓に何が起きているのか想像しにくい。
通常の心電図でも、四肢誘導に比べると、前胸部誘導のほうがまだ理解しやすい。これは、配列がでたらめな四肢誘導に比べて、 前胸部誘導はV1〜V6に規則正しく並べられており、電極の奥にある心臓を想像しやすいからである。
四肢誘導も、aVR誘導を裏返しに配置すると、ちょうど前胸部誘導と同じく、四肢の各誘導が連続的に並ぶ。
こうすることで心電図の理解度が上がり、心筋梗塞の見落としが少なくなった、という報告がある。
さらに、心電図を裏返しにして光にかざし、心電図を裏側からのぞくことで、 心臓の裏側の状態も、推定することができるかもしれない。
その中でも、一番分かりやすそうなのが、12の心電図誘導とあわせて、 それらの誘導を裏返しにしたものを心臓の解剖に沿って展開する、24誘導を用いた心電図の解釈である(図14)。
これは、従来通りの12誘導心電図を、表向きに一枚、裏向きにコピーしたものを1枚用意し、 それらの各波形を、心臓の図の周りに24枚分貼りつけることで、作ることが出来る3。
こうすることで、心筋梗塞になるとSTが上昇する、という知識だけで、 心筋梗塞の部位診断を行うことができる。
これを、救急外来でいちいち作っていたのでは間に合わないが、症例をつめば、頭の中で立体的な心臓を作ることが出来るだろう。