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: 症例 : ST上昇だけで解釈する心電図 : 心臓の解剖   目次


冠血管が詰まるとSTは上昇する

原因にはいくつかあるが、心臓を養っている血管1に閉塞が生じると、 その血管の先にある心筋は、壊死する(図4の黒変した部分)。

図 4: 冠血管の閉塞
\includegraphics [width=.6\linewidth]{heartattack6.eps}

このとき、壊死した心筋付近の心電図では、ST部分が上昇する(図5)。

図 5: 典型的なST上昇
\includegraphics [width=.5\linewidth]{stelev.eps}

冠動脈と、左心室との位置関係は図6のようになっている。

図 6: 冠動脈と左心室の関係
\includegraphics [width=.5\linewidth]{kaibou.eps}

心筋のどのあたりが虚血に陥ったのかが分かれば、そこからどの血管がつまったのかが想像できる。

時間とともにST上昇は変化する

血管が閉塞してから、最終的に心筋が壊死するまでの間に、心電図は図7のように変化する。

図 7: A〜Fにかけて、虚血が進行していく
\includegraphics [width=.7\linewidth]{stchange.eps}

最初にSTの上昇があって(B)から、最終的にQ波を生じる(F)までの時間は、大体24時間である。

虚血性心疾患の症状

冠動脈の閉塞以外にも、心電図上ST上昇が見られるケースはある2が、典型的な症状を示している人に心電図を施行した場合、 ST上昇が異常なのか、正常範囲なのかで迷うことは、比較的少ない。

典型的な、心筋虚血による症状は以下のとおり。

  1. 性状:締めつける・圧迫する・灼けるような・重苦しい感じ。
  2. 誘因:労作中に起こり、安静にて徐々に消失。
  3. 部位:胸骨後部が普通、前胸部(左>右)、下顎、肩、腕(左>右)、などに放散する。
  4. 増強因子・軽快因子:臥位で増強することがある。ニトログリセリン舌下で、すぐに消失する(3分以内)。
  5. 随伴症状:冷汗を伴うこともある。

24誘導を用いた心電図の解釈

一般的な心電図は分かりにくい

心電図の各誘導は、番号順に並べられている(図8)。このため、 そのままでは心臓の立体的な形を想像しにくく、ぱっと見ただけでは、心臓に何が起きているのか想像しにくい。

図 8: 前壁中隔梗塞の例。心筋梗塞が生じていることは分かるが、立体的な心臓を想像しにくく、 梗塞範囲の広がりまでは分からない。
\includegraphics [width=.9\linewidth]{ant-ami.eps}

連続した誘導は理解しやすい

通常の心電図でも、四肢誘導に比べると、前胸部誘導のほうがまだ理解しやすい。これは、配列がでたらめな四肢誘導に比べて、 前胸部誘導はV1〜V6に規則正しく並べられており、電極の奥にある心臓を想像しやすいからである。

図 9: 四肢誘導(左)に比べて、前胸部誘導は心臓の姿が想像しやすい。

\includegraphics [width=.9\linewidth]{renzoku.eps}

-aVR誘導

四肢誘導も、aVR誘導を裏返しに配置すると、ちょうど前胸部誘導と同じく、四肢の各誘導が連続的に並ぶ。

図 10: aVR誘導を逆さに配置すると、ちょうど前胸部誘導のような並び方を作ることが出来る。 下壁から側壁の情報も、前壁と同じような評価が可能になる。

\includegraphics [width=.8\linewidth]{-avr.eps}

こうすることで心電図の理解度が上がり、心筋梗塞の見落としが少なくなった、という報告がある。

図 11: -aVR誘導を用いて、四肢誘導が連続になるように、従来の12誘導を並べ替えたもの。この症例は下壁の心筋梗塞であるが、 梗塞の広がりがより分かりやすくなる。

\includegraphics [width=.7\linewidth]{12leadavr.eps}

もっと見やすくしてみる

心電図を、ちょうど心臓の解剖(図12)に沿って並べなおすことで、心電図の解釈は簡単になる。

図 12: 心臓の縦断面(左)と横断面(右)
\includegraphics [width=0.8\linewidth]{ant1.eps}

さらに、心電図を裏返しにして光にかざし、心電図を裏側からのぞくことで、 心臓の裏側の状態も、推定することができるかもしれない。

図 13: 紙に貼った心電図は、裏側からも見る。こうすることで、背中側の心筋の状態がわかったり、電極の貼り間違いに 気がついたりすることがある(図は、心電図ではなく、1万円札)。

\includegraphics [width=.5\linewidth]{nozoki.eps}

24誘導心電図

心電図をより分かりやすくしようと、今までにもいろいろな心電図の並べ方が発表されている。

その中でも、一番分かりやすそうなのが、12の心電図誘導とあわせて、 それらの誘導を裏返しにしたものを心臓の解剖に沿って展開する、24誘導を用いた心電図の解釈である(図14)。

図 14: 前壁中隔梗塞の24誘導
\includegraphics [width=.8\linewidth]{ant-ami24.eps}

これは、従来通りの12誘導心電図を、表向きに一枚、裏向きにコピーしたものを1枚用意し、 それらの各波形を、心臓の図の周りに24枚分貼りつけることで、作ることが出来る3

こうすることで、心筋梗塞になるとSTが上昇する、という知識だけで、 心筋梗塞の部位診断を行うことができる。

これを、救急外来でいちいち作っていたのでは間に合わないが、症例をつめば、頭の中で立体的な心臓を作ることが出来るだろう。


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Administrator@WORKGROUP 平成14年8月13日