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3.3 針刺し事故

\begin{table}[H]
\scriptsize\par\leftmargini=1zw
\STRUCT{針刺し事故}{患者と自分..
...temize}}
}
\ENDACCEPT}
}
\ENDCASE
}%
\normalsize\leftmargini=2zw
\par\end{table}

3.3.0.0.1 フォローの採血

感染した可能性のあるウィルスマーカー(HBs 抗原、HBs 抗体、HCV 抗体、HIV 抗体)とともに、 GOT、GPT、LDH、ALP、$ \gamma $-GTP、T-bil を検査する。


3.3.1 HBV感染症


表 3.3: B型肝炎血清マーカーと患者の状態

HBs抗体   過去にHBVに感染。防御抗体。
HBe抗原   血中にHBVが多量存在し、感染力が高い。
HBe抗体   血中のHBVが減少し、感染力が低下。
HBc抗体 $ 2^{10} $以下 過去にHBV感染。多くはHBs抗体(+)。
  $ 2^{10} $以上 HBVキャリア(持続感染者)の可能性。


3.3.1.1 医療現場の感染症事故の中でも最も多い

HBV感染患者血液に関する針刺し事故の統計では、HBs抗原陽性、HBe抗原陽性の患者の血液では肝炎の発生率は22-31%、血清学的にB型肝炎陽性となる確率は37-62%であった。

一方、HBs抗原陽性、HBe抗原陰性の患者血液の暴露では、肝炎発生率は1-6%、血清学的にHB陽性となる確率は23-37%と低くなる。


3.3.1.2 B型肝炎暴露後の発症予防

実際に針刺しをしてしまった場合は、B型肝炎用グロブリン(HBIG:ヘブスブリン)とHBVワクチン(ビームゲン)を併用する。HBIGは針刺し1週間以内に1回のみ行い、負傷者がHBs抗体を持っていない場合は、 HBVワクチンを受傷時、1ヶ月後、3ヶ月後の計3回注射する。既にHBs抗体が陽性の人はワクチンは必要ない。

HBs、HBe抗原陽性の母親から生まれた幼児の場合でも、HBIGとワクチンの組み合わせは85-95%の確率で感染を防ぐといわれている。

HBIGとワクチンのどちらか一方を行った場合は、有効性は70-75%に落ちる。

医療現場では、HB暴露後1週間以内にHBIGを投与した場合、75%の確率で医療従事者の感染を防ぐことができるといわれている。

この場合、HBIG単独で十分なのか、ワクチンを同時接種したほうがより有効なのかどうかは分かっていないが、同時接種することが薦められる。

3.3.1.3 妊娠中の医療従事者へのワクチン接種

妊娠中の女性にHBワクチンを接種しても、何の問題も生じない。

むしろ妊娠中にB型肝炎に罹患すると、重篤化する恐れもあるため、妊娠中、授乳中であることはワクチン接種の禁忌にはならない。

同様に、HBIGも妊婦や授乳中の母親に用いてもかまわない。


3.3.2 HCV感染症

3.3.2.1 HCV感染症の危険因子

針刺し事故などでHCVが陽性になる確率は平均1.8%程度であり、またあるスタディーでは、感染を生じたのは注射針のみであり、メス刃や縫合針では感染は生じなかったという。

3.3.2.2 HCV暴露後の感染予防

1994年のACIPの勧告では、免疫グロブリンの投与は勧められていない。

ほかの薬剤、インターフェロンやリバビリンの投与についてはまだデータが無く、HCV感染の予防効果があるかどうかは分かっていない。また、FDAはこうした薬剤の用い方を認可していない。

理論的には、HCVの感染が成立する前にインターフェロンの投与を行っても、効果は薄い。

インターフェロンはHCVに感染した細胞のウイルス放出を抑制し、また感染細胞からウイルスを除去しうるが、これらの効果は患者のGOTのレベルに比例するとされ、感染の成立していない医療従事者には効果は期待しにくい。

一方、抗HIV薬はHIVのDNAを合成する段階を抑えるため、感染初期でも効果が期待できる。

このようにHCVについては感染予防の手段が無いため、HCV暴露後のフォローは、感染が成立しないかどうか経過を見ることが中心となる。

3.3.2.3 インターフェロンの効果はまだ確立していない

感染初期にインターフェロンを投与すると、慢性肝炎の状態になってからインターフェロンを用いたのに比べて効果が高いという報告がある。これらのスタディーでは、HCV暴露後2.6から4ヶ月たってからGOTのレベルが500から1000に達したものを対象に、インターフェロン投与を行っている。

インターフェロンは副作用の多い薬であり、1)急性期に投与することが効果が高いという証拠が十分でない2)GOT、GPT正常例に投与しても効果があるかどうか分かっていない3)インターフェロンの適切な投与量が不明という理由から、HCV暴露の急性期に用いることは一律には推薦できない。


3.3.3 HIV感染症

医療従事者がHIV感染血液(90%以上が針刺し事故)に経皮的に暴露された後にZDVを使用した場 合、HIVの感染の危険性が79%減少することがわかっている。

HIVに暴露された医療従事者に対し、暴露後の予防策としての抗ウイルス療法を提供しなければならない。暴露後の予防は、もし暴露後に24から36時間保留されたら効果がないかもしれな い。zidovudine (ZDV)および、併用する他の抗ウイルス薬、最も多いのはlamivudine (3TC)とindinavir (IDV)を服用するかどうかの判断をする専門的な援助が即時に利用できなければならない。

専門家によって薬剤や用量に関する意見の一致がないため、専門家の診察が必要である。


3.3.4 梅毒感染症

梅毒の血液体液暴露による感染については、STS (+)、TPHA (+) の血液暴露で感染は理論上成立しうる。しかし、実際の現場で暴露事故で感染が起きたという事例は確認されていない。

したがって、肝炎関連の事故に比し、その危険性は極めて低いと言える。

3.3.4.1 抗体検査について

非特異的検査であるRPR(rapid plasma reagin card test)と特異的検査であるTPHA(Treponema pallidum hemaglutination test)がある。RPRは梅毒の活動性の指標にはなるが、RPR単独で梅毒の診断はできない。 診断確定のためにはTPHAが必要である。ともに陽性であれば感染は確実である。 RPR(+)TPHA(-)は感染初期であるが、生物学的偽陽性反応(SLE、結核、心内膜炎などでみられる事 がある)の可能性もある。 治療効果の判定はRPRで行う。治療2-3ヶ月後より低下してくる。 RPRが4倍以下に低下すれば、治療は奏功していると考えられる。

TPHAの値は治療が奏功してもあまり低下せず、生涯陰性化することはない。

3.3.4.2 負傷者のTP検査

針刺し時点で、RPR定性、STS定性を行う。

針刺し時点での負傷者の抗体の有無を明確にし、 陰性であってもその後の梅毒発症の有無について経過をみる。

梅毒血清反応は感染から約6週間で陽転する。したがって事故から約2ヶ月後に抗体検査をすればよい。

3.3.4.3 患者のTP検査

RPR定量、STS定量をまず行う。

患者の感染力については、RPRの定量検査を行い、低値で持続していれば既感染であり、 感染力はないと考えてよい。RPRが高値(8-16倍以上)であれば、感染力が強いと考えられる。

3.3.4.4 予防内服

感染のおそれが強い(患者のRPR定量が 8-16倍以上)ときは、経口ペニシリン剤を予防内服する。常用量を10日間服用する。


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admin 平成16年8月9日