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: 気道確保と初期のCPR : 3. 気管挿管以外の気道確保手段   目次

4. 心臓マッサージ

気道の確保がなされ4.1てもなお、患者の反応が無い場合は、 心臓マッサージを速やかに開始する。

脈拍の確認は勧められていない。これは、脈の確認には最低5秒はかかり、 たいていの場合間違って解釈されるため。

病院内でのCPRの場合、最初から心電図モニターがあるため間違えることは少ないかもしれないが、 「分からなかったら心臓マッサージ」が原則。

4.0.1 心臓マッサージの回数

2000年から大幅に簡略化され、心臓マッサージの回数は1分間に100回に統一されている。

この数字は以前よりは早くなっている。頻回の心マのほうが、動物実験での心拍出量が上がるという観察に基づいている。

人工換気と心臓マッサージの回数比は、術者の人数に関係無く呼吸2回に心マ15回と決められた。

4.0.2 基本的な方法

  1. まず患者を、硬い板の上に寝かせる。
  2. 剣状突起状2横指に手を組んで置き、マッサージ開始(図4.1)。
  3. ひじを伸ばして体重をかけ、胸骨が4〜5cm沈む程度に圧迫する(図4.2)。
  4. 圧迫と解除は等間隔で行う。

図 4.1: 手を置く位置
\includegraphics[width=.8\linewidth]{handposi.eps}

図 4.2: ひじを伸ばして圧迫
\includegraphics[width=.7\linewidth]{cpr1.eps}

4.0.3 IAC-CPR

心臓マッサージの方法自体は、40年前から大きく変わってはいない。 多くの研究者が新しい方法を提案しているが、臨床研究で有効と証明されたものは少ない。

その中で簡単に施行できるものとして、胸部と腹部とを交互に圧迫する「IAC-CPR」という方法を紹介する。

図 4.3: 胸部と腹部とを交互に圧迫する
\includegraphics[width=.5\linewidth]{acdcpr.eps}

この方法は、通常の心臓マッサージに加えて、もう一人の術者が腹部を圧迫するもので、 タイミングは胸部と腹部を交互に圧迫する(図4.3)。腹部を圧迫する圧力は100mmHgが推薦されている。 これは血圧計のカフを膨らませ、圧迫してみることで感じをつかむとよいとされる。

この原理は、ちょうどIABPを入れたときと同じ状況を再現しようとするもので、発想自体は古くからあった。 近年になり、この方法を用いたCPRのほうが、病院内での蘇生率を上昇させたという報告がいくつか出たため、 2000年のCPRのガイドラインから勧告に加わっている。

4.0.4 道具を使ったCPR

心臓マッサージを行う際に、術者の手以外に何らかの道具を用い、より効果的なCPRを行わせようという 試みがいくつかある。

4.0.4.0.1 ACD-CPR

代表的なものは、ACD-CPRという胸に吸盤のようなものを取り付け、心臓を押す以外に積極的に引き上げ、 胸郭ポンプをより有効に働かせようというもの4.2がある。

図 4.4: ACD-CPRに用いる道具。吸盤とハンドルからなる。
\includegraphics[width=.5\linewidth]{Cardiopump.eps}

4.0.4.0.2 ライフスティック

この改良版として、ACD-CPRの考え方にIAC-CPRの考え方を加えようという道具(図4.5)が考案されている。

図 4.5: ライフスティック。2つの板の部分を、患者の胸と腹に貼り付ける。
\includegraphics[width=.5\linewidth]{lifestick2.eps}

この道具は、2つの握りを交互に押す(図4.6)ことで、患者の胸と腹とを交互に圧迫し、 さらに患者の胸郭も吸盤の力で積極的に引き上げようというもので、羊のCPRの実験、人体での実験の両者で 効果が確かめられている。

図 4.6: ライフスティックの使い方。図の右側が患者の頭側。術者の両手を交互に患者に押し付けるようにして操作する
\includegraphics[width=.4\linewidth]{lifestick.eps}

4.0.4.0.3 インピーダンス閾値弁

これは、特にACD-CPRとの組み合わせで効果を発揮すると考えられるデバイス。

図 4.7: インピーダンス閾値弁。左は挿管チューブに取り付けたところ。通常のマスクと組み合わせることも可能だが、 エアリークがあると意味が薄れる。
\includegraphics[width=.6\linewidth]{inp_valve.eps}

ACD-CPR中に胸郭を持ち上げたとき、理論上は胸腔内に陰圧が発生し、静脈血が心臓に流入することで心臓マッサージの効率が上がる。

ところが気道確保がなされている患者の場合、胸腔内が陰圧になると同時に肺に空気が流入してしまい、 心臓に有効な陰圧がかからない。インピーダンス閾値弁を用いることで、胸腔内の陰圧が生じたときに気道を遮断し、 より有効に心臓に陰圧をかけられる。

図 4.8: このバルブは巧妙な構造になっており、患者の自発呼吸やバッグによる換気を妨げることはない。ただ気道抵抗が大きいため、 蘇生したら外すよう勧告されている。
\includegraphics[width=.7\linewidth]{inp_valve2.eps}

このバルブをACD-CPRと併用すると、通常のCPRを行ったときに比べて脳血流は3倍近くまで増加する。 最近になり、このバルブとACD-CPRとを組み合わせた手技の臨床試験の結果が報告された4.3。 報告では、病院外の心肺停止患者にACD-CPRと閾値弁とを併用した場合、従来のCPRに比べて蘇生率はほぼ2倍、特にVfの患者の場合は 4倍近くにまで上昇したという。最も効果が得られたのは入院後24時間までの生存率で、退院率は両群で有意差が出なかった。




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