拡張障害の診断は、主に臨床的になされる。心不全の臨床症状があり、心収縮力が保たれている患者を 拡張障害と定義しているが、本来は心臓カテーテル検査、心エコーなどによる客観的な診断を行うのが望ましい。
こうした客観的な検査を難しくしている原因のひとつが、収縮障害と、拡張障害とがしばしば合併していることである。 また、代償期に入った拡張障害型の心不全の患者は、普通の検査ではその存在を確認することが難しい。 収縮障害の患者であれば、たとえ症状がなくても、EFの低下といった他覚的な所見が残存するが、 拡張障害の患者では、こうした検査所見が存在しない。
これにより、心収縮力が正常であるにもかかわらず、左室の拡張末期圧、左房圧、 肺動脈楔入圧の上昇が見られることが証明できる。
さらに、マイクロマノメーターカテーテルが利用できる施設であれば、左室拡張時の圧曲線、容量曲線を描くことで、 直接左室拡張能を評価することができる。
さらに、ドップラーを用いることで、左室流入血流の流速を測定することができる。
最もよく用いられるのが僧帽弁の流入血流の評価、E波とA波の評価であるが、同様な検査でより感度の高いものとして、 肺静脈血流のS波とD波の測定も用いられる。
拡張障害が進行すると、左房の収縮波形であるA波は増高し、一方でE波は減高する。
同時にE波のdeceleration time は延長し、通常240msec以上になる。
こうした症状は高齢者によく見られ、拡張障害型心不全の危険因子となる。
心不全の症状が明らかとなり、左室拡張末期圧が左房圧を超え始めるようになると、 この2つの波の高さは逆転し、E波が再びA波より高くなるようになる。
このとき、肺動脈血流も、主に心室の拡張期に流れるようになり、S波が減高し、D波の増高が生じるようになる。
Mモード力ラードプラ法による左室血流伝播速度は、左室拡張能 を評価する新しい簡便な方法である。
これは左室コンプライアンスが低下するほど,左室流入血流の左室内での伝播が低下することを利用した もので、従来の左室流入圧波形の測定と同じような方法で、より正確な拡張障害の評価が可能になった。
測定方法は、左室心尖部から、4腔断で普通に僧帽弁血流を測定した後、同じ角度のまま左室流入血流のMモードカラ ードップラーエコー図を記録する。
この際、カラースケールを45〜55cm/sec程度に狭く設定し、わざとエリアシングを生じさせる。 そのままMモードで記録し、エリアシングを生じた部分の傾きから、左室内血流の伝播速度を評価する。
左室内伝播速度が60cm/sec以下のときには左室拡張能低下の診断がなされる。