拡張障害の診断は、まだ簡単につけられるものにはなっていない。 このため、拡張障害型の心不全を診断するためのガイドラインが、提案されている。
Europe 心臓病学会の提案したガイドラインでは、拡張障害型心不全は、以下の定義を満たすものとされる。
この定義にはいろいろ批判もあり、うっ血性心不全の症状の定義が何なのかわからない、 左室のEFが正常、という所見の正常の下限はいくつなのか示されていない2.1、 心室の拡張能力を正確に評価する検査が、今のところ簡便には施行できない、 といったものである。
このため、こうした定義をもっと具体的に、分かりやすくする提案も行われている。
Gandiらのstudyでは、心不全症状を呈して救急外来にきた患者で、来院時の血圧が160mmHg以上あった 患者の場合は、来院時の心エコーと、治療開始後72時間たってからの心エコー上のEFは、有意な差がなかった。
このため彼らは、拡張障害型の心不全の診断には、来院直後の心エコーは必須ではないとしている。
Zileらは、拡張障害型の心不全の診断に、何が必須なのかを論じた。この結果からは、Framinghamの 心不全の基準を満たすような心不全の症状があり、さらに心エコー上のEFが50%を超えていれば、 拡張障害の詳細な診断は必要無いとしている。
拡張障害型の心不全を診断する上で大きな障害になっているのが、"心不全"という状態をどう診断するのか、 という点である。
拡張障害型の心不全の患者の多くは息切れを訴えるが、その胸部単純写真像、 臨床像などは慢性呼吸器疾患と区別がつきにくい。
そういった中で、近年心不全の重症度のマーカーとして注目されているBNPは、 有用な検査になるかもしれない。
BNPは、正常上限を62pg/mLに設定すると、感度、特異度とも約85%で心不全の存在を診断可能である。 この検査は、拡張障害型の心不全を診断するだけでなく、"息切れ"を訴える患者が、心疾患なのか、呼吸器疾患なのかを 区別するためにも有効である可能性がある。
最も簡単な拡張障害型心不全の診断方法として、"BNPが高値であるにもかかわらず、心収縮能が正常である" と定義することも可能かもしれない。