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: 2.2 左室拡張障害を評価する検査 : 2. 診断と治療 : 2. 診断と治療   目次


2.1 診断

拡張障害の診断は、まだ簡単につけられるものにはなっていない。 このため、拡張障害型の心不全を診断するためのガイドラインが、提案されている。

Europe 心臓病学会の提案したガイドラインでは、拡張障害型心不全は、以下の定義を満たすものとされる。

  1. うっ血性心不全の臨床症状がある
  2. 来院時の左室のEFが正常か、あるいはわずかしか低下していない
  3. 左室の弛緩障害、左室のコンプライアンスの低下などの所見が証明できる

この定義にはいろいろ批判もあり、うっ血性心不全の症状の定義が何なのかわからない、 左室のEFが正常、という所見の正常の下限はいくつなのか示されていない2.1、 心室の拡張能力を正確に評価する検査が、今のところ簡便には施行できない、 といったものである。

このため、こうした定義をもっと具体的に、分かりやすくする提案も行われている。

2.1.0.1 詳細な心機能検査は必須ではないかもしれない

Gandiらのstudyでは、心不全症状を呈して救急外来にきた患者で、来院時の血圧が160mmHg以上あった 患者の場合は、来院時の心エコーと、治療開始後72時間たってからの心エコー上のEFは、有意な差がなかった。

このため彼らは、拡張障害型の心不全の診断には、来院直後の心エコーは必須ではないとしている。

Zileらは、拡張障害型の心不全の診断に、何が必須なのかを論じた。この結果からは、Framinghamの 心不全の基準を満たすような心不全の症状があり、さらに心エコー上のEFが50%を超えていれば、 拡張障害の詳細な診断は必要無いとしている。

2.1.0.2 BNPは有用である可能性がある

拡張障害型の心不全を診断する上で大きな障害になっているのが、"心不全"という状態をどう診断するのか、 という点である。

拡張障害型の心不全の患者の多くは息切れを訴えるが、その胸部単純写真像、 臨床像などは慢性呼吸器疾患と区別がつきにくい。

そういった中で、近年心不全の重症度のマーカーとして注目されているBNPは、 有用な検査になるかもしれない。

BNPは、正常上限を62pg/mLに設定すると、感度、特異度とも約85%で心不全の存在を診断可能である。 この検査は、拡張障害型の心不全を診断するだけでなく、"息切れ"を訴える患者が、心疾患なのか、呼吸器疾患なのかを 区別するためにも有効である可能性がある。

最も簡単な拡張障害型心不全の診断方法として、"BNPが高値であるにもかかわらず、心収縮能が正常である" と定義することも可能かもしれない。


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admin 平成15年2月14日