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: 6 治療に対する反応の評価 : 肺炎の治療 : 4 治療方針の決定に必要な検査項目   目次


5 治療の方針

肺炎の患者は、グラム染色で見えた菌ではなく、リスクで分類した4つの患者グループの 分類にしたがい、それぞれの患者グループで推薦された抗生剤を使用すべきである。

すべての患者について、非定型肺炎の感染を視野に入れた抗生剤の選択を行う。

このため、抗生剤の選択としては、耐性菌や誤嚥のリスクのない患者群であれば、経口のマクロライドか テトラサイクリンを用いる。

一方、こうしたリスクが考えられる患者群であればβラクタムとマクロライド(両者とも経口薬)の 併用を行うか、抗肺炎球菌活性の高いキノロンを用いる。この両者の効果は、 特に入院患者での検討では等しいといわれているが、キノロンを用いるほうが、 単剤ですむ分便利である。

入院の必要なすべての肺炎患者は、病院にきてから8時間以内に抗生剤の投与を受けなくてはならない。

また、キノロン単剤の治療効果は、ICUへの入院の必要な肺炎患者ではスタディが行われておらず、 現時点ではβラクタムとの併用を行うべきである。

耐性肺炎球菌に対してβラクタムとマクロライドとの併用を行う場合、特定のβラクタム以外は 用いることができない。

これらは経口ではセフポドキシム、アモキシシリンとクラブロン酸の合剤、 高用量のアモキシシリンが、静注ではセフトリアキソン3、セホタキシム、高用量のアンピシリンがある。

ピペラシリンやイミペネムなども耐性肺炎球菌に効果があるが、これらは緑膿菌にも活性があるため、 残しておくべきである。

5.1 外来患者の治療

どんな患者を対象としたのか、また、どのような検査で起炎菌を同定したのかによって結果はことなるが、 喀痰培養で同定した起炎菌では、肺炎球菌がもっとも多い。一方、血清学的な検査では、マイコプラズマ やクラミジアが、それぞれ2割から4割を占めている。

グラム陰性桿菌が、肺炎患者の起炎菌としてどの程度を占めるのかははっきりしないが、近年の 入院を繰り返す患者の増加、患者の重症化などの流れからは、確実に増加していると考えられる。

外来で肺炎患者を治療することにした場合、患者に心不全やCOPDといった、心肺の疾患の既往があるかどうかで、 治療方針は異なってくる。以下に表を示すが、こうしたリスクのある患者に対しては、腸管内のグラム陰性桿菌の感染、 ブランハメラ属の感染を考慮している。


表: リスクのない外来患者の治療
起炎菌   治療
肺炎球菌   第2世代のマクロライド
マイコプラズマ   アジスロマイシン
クラミジア   クラリスロマイシン
インフルエンザ桿菌   または
ウイルス   ドキシサイクリン
結核菌    



表: 心肺疾患の既往のある患者の治療
起炎菌   治療
肺炎球菌   βラクタム
マイコプラズマ   セフポドキシム、セフロキシム
クラミジア   オーグメンチン
インフルエンザ桿菌   これらに加えて
腸管内のグラム陰性菌   マクロライドまたはドキシサイクリン
ブランハメラ、レジオネラ   または
誤嚥による肺炎   抗肺炎球菌フルオロキノロン単剤

5.2 入院患者(一般病棟)の治療

過去30年ほどの統計では、入院の必要な肺炎患者で最も多い起炎菌は肺炎球菌であった(20から60%)。 次に頻度が高いのはインフルエンザ桿菌、さらに黄色ブドウ球菌、腸管内のグラム陰性桿菌 が続く。

レジオネラ、マイコプラズマ、ウイルス性の肺炎もそれぞれ10%程度づつみられる。

また、すべての統計で、原因のはっきりしない肺炎は20から70%ある。今までは、こうした原因の はっきりしない肺炎は、上に挙げたようなさまざまな起炎菌によって生じるといわれてきた。 しかし、あるスタディーでは、こうした患者の大部分は肺炎球菌による肺炎であったという。

すべての医師が支持しているわけではないが、肺炎で入院した患者の40から60%に、マイコプラズマや クラミジアの感染があるといわれている。これは単独の起炎菌としてではなく、細菌性肺炎 への重複感染としてもおこりうる。

こうしたデータが出てきたのは、血清学的な診断方法の進歩による影響が大きいが、こうしたデータからは、 従来若い人に多いといわれていたマイコプラズマ肺炎などの"非定型"肺炎は、高齢者にも多いと いうことがわかってきた。

こうしたデータを見て、すべての肺炎患者に非定型肺炎の治療を併用すべきかどうかを判断するのは 難しいが、肺炎治療に当初からマクロライドを併用したスタディーや、ニューキノロン単剤を用いたスタディー の結果からは、いずれも従来の肺炎治療のレジメンに比べて優れた治療成績を出している。

腸管内のグラム陰性桿菌の関与は10%程度の肺炎患者に認められるが、こうした細菌は、心臓や肺の合併症 (特にCOPD)を持っている患者、過去に抗生剤投与を受けたことのある患者、老健施設からきた患者に多い。

あるスタディーでは、腸管内のグラム陰性桿菌が肺炎を起こす頻度は、

のどれかがあると 4.4倍になったという。

緑膿菌の肺炎は外来からきた患者では少なく、4%以下とされている。

喀痰培養の不正確さから、こうしたグラム陰性桿菌の肺炎への関与を疑問だという意見も多い。

グラム陰性桿菌が肺炎を引き起こすリスクは、通常の入院患者ではそう高くはないが、 ICUへの入院が必要な患者においては頻度が増すといわれている。


表: 入院の必要な患者の治療
起炎菌 治療
心肺疾患の既往のある患者  
肺炎球菌(耐性菌を含む) βラクタム
インフルエンザ桿菌 セホタキシム、セフトリアキソン
マイコプラズマ 高用量のアンピシリン
クラミジア これらに加えて
上記の混合感染 マクロライドまたはドキシサイクリン
腸管内のグラム陰性菌 または
誤嚥による肺炎 抗肺炎球菌フルオロキノロン単剤
ウイルス  
レジオネラ  
結核菌、真菌など  
心肺疾患の既往のない患者  
肺炎球菌 静注用のアジスロマイシン
インフルエンザ桿菌 または
マイコプラズマ βラクタムとドキシサイクリンの併用
インフルエンザ桿菌 または
クラミジア 抗肺炎球菌フルオロキノロン単剤
上記の混合感染  

5.3 ICU入室の必要な患者の肺炎

ICUに入室の必要な患者には、グラム陰性桿菌の感染頻度は増加しているが、最も多い起炎菌は肺炎球菌、 レジオネラ、インフルエンザ桿菌である。あるレポートでは、黄色ブドウ球菌の感染もよく見られるという。

さらに、クラミジア、マイコプラズマなども重篤な感染を生じうる。

一般的に、肺炎で入院した患者の10%はICUの入室を必要とする。さらに、それらの患者の1/3は肺炎球菌による感染である。

ICUへの入院の必要な患者には、緑膿菌の感染も多い。特に、気管支拡張症の患者に 緑膿菌の感染が多いという。


表: ICUへの入院が必要な患者の治療
起炎菌 治療
緑膿菌のリスクのない患者  
肺炎球菌(耐性菌を含む) 静注用βラクタム
レジオネラ セホタキシム、セフトリアキソン
インフルエンザ桿菌 これらに加えて
腸管内のグラム陰性菌 マクロライド併用
黄色ブドウ球菌 または
マイコプラズマ フルオロキノロン併用
ウイルス  
結核菌、真菌など  
緑膿菌のリスク4のある患者  
上記の菌に加えて 抗緑膿菌βラクタム
緑膿菌 これらに加えて
  抗緑膿菌キノロン
  または
  抗緑膿菌βラクタム
  これらに加えて
  アミノグリコシド
  マクロライド併用


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admin 平成16年11月12日