慢性期の心房細動患者の治療には、洞調律の維持、脈拍数のコントロール、抗凝固療法、除細動の4つが含まれる。
心エコー上は、心筋の病的肥大はあるものの、心収縮力は保たれている。
紹介状はなく、今まで飲んでいた薬はわからないという。この人に処方する薬としては、何がふさわしいだろうか。
この患者に処方しないほうがいい薬剤は何か。
洞調律に復帰した患者の場合、やはり何らかの抗不整脈薬を用いたほうが洞調律の維持は良い。
心臓に何の問題もない患者の場合はプロノンないしはタンボコールが、副作用の無さから勧められる。
虚血性心疾患の場合、こうした薬剤では突然死のリスクが上昇する可能性がある。こうした患者の場合、 ソタロールを少量より用いることが勧められている。
一方、原因は何であれ、心不全のある患者に上記の抗不整脈薬を投与すると、死亡率が上昇する可能性がある。 このため、心不全の患者の洞調律の維持には、アンカロンの少量投与(200mg)を行う。
これらの抗不整脈薬以外に、遮断薬の投与にも、洞調律の維持作用があるといわれている。
特に、交感神経緊張誘発性のAfの場合には、良い適応がある。
また、食後に生じる心房細動や、深夜の心房細動など、迷走神経緊張により生じるAfも存在する。 こうした症例には、抗コリン作用の強いリスモダンや、抗コリン薬が効果がある。
抗不整脈薬の本来の使い方とは異なるが、クラスI群の抗不整脈薬であるシベノールは 心収縮力を弱める働きが強く、この作用を利用して、肥大型閉塞性心筋症の患者の血行動態を改善する、 という報告がある。
僧帽弁狭窄症のため、数年来慢性心房細動が続いている患者。
近医でラニラピッドをもらっていたが、このところゲートボールをした際など、息切れを自覚することが多くなったという。
ホルター心電図では、安静時の心拍数は70台であったが、労作時の脈拍は160まで上昇。今以上に脈拍をコントロールする薬としては、何が適切だろうか。
この人はヘビースモーカーで、当院の呼吸器内科でアトロベントをもらっていたが、このところ使っていないらしい。 この情報が入ることで、処方は変わるだろうか。
心房細動を繰り返す患者や、除細動の適応外の患者(高齢者など)の場合は、抗凝固療法を行うとともに脈拍のコントロールを行う。
脈拍のコントロールに古くから用いられたのはジギタリスであったが、運動による頻脈を抑制することはできない。
現在は、禁忌がなければ遮断薬を用い、心筋抑制が心配であればヘルベッサーを用いるように勧められている。
ジギタリスは、普段安静にしていることがほとんどな高齢者や、低血圧が特に問題となる症例以外では、第一選択として用いられない。一方、遮断薬だけではコントロールの今一つの症例での、次に併用する薬剤としてはまだまだ出番は多い。
気管支が弱い患者、特に慢性閉塞性肺疾患のある患者に遮断薬を投与すると、発作の頻度が増す。
こうした患者に対する
遮断薬の使用には議論があるが、予後改善効果は、正常な人に
遮断薬を投与した場合と同じように認められるという。
76才の女性が、近医にて不整脈を指摘され来院。心電図上は心房細動であったが、 脈拍コントロールは良好であった。
もともと運動は良くするほうだったが、数年前に近医より境界型の糖尿病といわれてからは毎日歩くようにしていると。 血圧は154/76。喫煙の習慣はない。
こういった患者にワーファリンの適応はあるだろうか。
塞栓症の発生のリスクが高いほど、ワーファリンによる予防効果は大きい。
現在では、ワーファリンは80代以上の高齢者に用いてこそ効果が高いとされる。
具体的な塞栓症のリスクとはDM、高血圧、喫煙、脳虚血疾患の既往、心電図上のLVHの所見などであるが、
これらに当てはまらない症例であっても、高齢者(70歳以上)であれば、ワーファリンを用いたほうよい。 もともと凝固異常があったり、痴呆が強くてどうしても服用が危険な際など、ワーファリンの禁忌症例では抗血小板剤を用いる。
どういう患者にワーファリンを用いるべきか、以下のような図が発表されている。
逆に、心血管系の合併症のない65歳以下のAfの場合、抗凝固を行わなくても塞栓症の合併はほとんど無い。 先に述べたリスクのない患者であれば、抗血小板薬の内服で良い。
なお、洞調律への復帰に成功した患者であれば、3週間ワーファリンを継続した後中止を考慮しても良い。
除細動後、塞栓症を生じやすいのは最初の3ヶ月といわれている。 この間はワーファリンを継続するほうが望ましいと思うが、この分野はいま、さまざまな見解があり、 どれがもっとも正しいのか分からない1…。
近年の報告では、洞調律が維持できている症例であっても、 ワーファリンの中断をすることで脳梗塞の発症頻度が上がったとしており、 ワーファリンの適応は、今後はより長期間継続する方向に変化すると思う。
発作性心房細動を繰り返す患者や、慢性心房細動の患者は、継続的なワーファリゼーションの適応である。
抗血小板剤と少量のワーファリンの組み合わせは、塞栓症予防の効果がないことが証明されたため、 使うならばワーファリンはINRを定期的に測定し、しっかり効かせる方が良い。いわゆる”甘め”の用い方は効果がない。
文献によりまちまちであるが、最低限効果があるといわれている値は、INRで1.6以上である。目標値は2〜3でコントロールする。
近医で心臓が悪いといわれ、ジゴシンの内服が行われていた56歳の男性。
来院した時は心房細動だったが無症状であり、今までに除細動を受けた記憶はないという。
心エコー上はEF45%と軽度低下。弁には大きな異常はなかった。この人に除細動を行う適応はあるだろうか。
左房径が45mm以下の症例であれば、いちどは除細動を試みてもよい。
発症48時間以上たった症例では、ワーファリンを用い、最低3週間のワーファリゼーションの後に除細動を試みる。
経食道心エコーが行えるなら、これで左房内を確認し、血栓の陰影がないことを確認した上で除細動を行えば、 抗凝固療法は行わなくても安全であったという報告がある。
どちらの場合でも、除細動後は3週間はワーファリンを続け、その後洞調律が保たれていることを確認し、中止を考慮する。
直流除細動を行う際のエネルギーについても諸説あるが、近年はその値は高くなり、200J程度より開始することが増えている。
直流除細動を行う際、アミオダロン以外のクラスVの抗不整脈薬、またはプロカインアミドを併用すると、 除細動閾値が下がるといわれている。