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ERでの治療

65才の男性が、夜に横になったとたんに動悸を自覚、救急外来を受診した。

動悸以外に自覚症状はなく、バイタルも正常。心電図は心房細動で、脈拍は160であった。

この人にとくに心疾患の既往がない場合、どういった処置が適切だろうか。

ERで心房細動が問題となるケースは、患者さんが発作性心房細動を生じたか、あるいは我慢できない動悸を自覚したときであろう。

対処法としては、以下の順に行う。

  1. 脈拍のコントロールを行う。
  2. 心房細動が発生した、あるいは増悪した原因を考える。
  3. 薬物による、あるいは直流徐細動の適応を考える。

脈拍のコントロール

患者は発汗著明で、来院時の血圧は90台と若干低下。まずは症状を抑えたいが、何を用いればいいだろうか。

患者に心疾患や、狭心症があった場合はどうだろうか。

もっとも普通に用いられるのは、ワソランの静注である。患者に重篤な心不全、あるいは低血圧がないことを確認後、ラクテックでラインをキープしてからワソランを用いる。

1Aを大体2分かけて、静注する。大体5分前後で効いてくる。その後、血圧が下がりすぎていないことを確認し、 ワソラン2T/2Xを内服してもらう。

静注薬は半減期が短いため、内服を追加しないと効果は30分前後しか続かない。

急性期に用いることができる静注薬としては、他にもヘルベッサー、インデラル、ジゴシンなどがある。

ワソランは、これらの中で最も使いやすく、また禁忌となる患者が少ない。 さらに、直流除細動を行う際、ワソランを内服しているとその後の洞調律の維持がしやすいといった報告もあり、 ここでは第一選択に勧めておく。

ヘルベッサーは、ワソランに比べて心筋抑制が少ないのが特徴であるが、 1Aあたりの量が50mgと大きく、急性期発作のコントロールに少しだけ用いるには使いにくい。

インデラルは$ \beta $遮断薬であるが、ワソランと同様に効く。しかし筆者の使用経験が少ないこと、 気管支攣縮の可能性が否定しきれないこと、心筋抑制の問題等があり、急性期の患者には使いにくいと思う。

ジゴシンは、かつては心房細動治療の基本的な薬剤であった。 しかし、静注薬を打ってから、効果が出るまで1時間近くかかる点、 交感神経緊張時の発作を抑えることができない点などがあり、現在は第一選択として勧められることはない。

一方、低血圧がある患者や、もしくは重篤な心不全がある患者ではジゴシンが第一選択となる。 ワソランのみではコントロールの難しい心房細動のコントロールに、ジゴシンの静注、内服を併用しても良い。

原因を考える

今回ではヘルベッサーの静注が選択され、一時脈拍は70台に落ち着いてきた。 しかしその後再び脈拍が上昇、15分ほどでまた120台に上昇してしまった。

心房細動のコントロールを難しくしている原因は、なんだろうか。

急性期心房細動の治療手段としては、ヘルベッサー静注だけでよかっただろうか。

心房細動が頻脈になったり、あるいは発作性心房細動の発作のコントロールが難しいときには、 何らかの交感神経の緊張があるケースが多い。

交感神経の緊張を生じる原因としては、心不全、脱水、発熱、痛み、甲状腺機能亢進症、低酸素血症などが考えられる。

脈拍コントロールが難しいときは、これらが基礎疾患として存在していないかどうかを考えなくてはならない。

発作性心房細動の原因は、

とに分かれる。これらの情報は、外来で洞調律の維持に用いる薬剤選択の助けになる。

薬物による除細動

心房細動でERを受診した患者が、翌日外来受診。動悸はおさまったものの脈が乱れており、気持ちが悪いので戻してほしいという。

外来は忙しく、ERも手一杯でみられないとのこと。

こういった場合、どういった方法が考えられるだろうか。また、除細動を試みる前に行っておくべき検査にはどういったものがあるか。

発作性心房細動で外来にきた患者は、2/3は何もしなくても24時間以内に洞調律に復帰する。

この割合は時間とともに低下し、7日間を過ぎると自然に洞調律に復帰することはまれになる。

除細動の方法には、直流通電によるものと、薬物によるものとがある。発症48時間以内のAfであれば、除細動を行う際に抗凝固療法は不要とされる。救急外来にAfの患者がきた場合、心不全や弁膜症などの合併症のない患者であれば、 薬物による除細動を試みても良い。

経口で簡単に行うことができるのは、

の内服である。どちらも1回の経口投与で、24時間以内に70%前後の患者で除細動が生じる。

循環器疾患に慣れているならば、上記の薬剤をERで服用してもらい、30分前後の安静の後に帰宅してもらってよい。 プロノンは頻脈を生じることは少ないが、脈拍コントロールをする薬、たとえばワソランを併用してもよい。

心不全や陳旧性心筋梗塞、弁膜症のある患者の場合は話が違ってくる。これらの抗不整脈薬は催不整脈性も持っているため、 ほかの薬を用いたほうが良い(後述)。上級医へのコンサルトも必要であろう。

救急外来で、Afの患者に直流除細動をかける機会は少ない。適応は慢性期心房細動の患者や、 心不全患者の洞調律の維持であるが、どちらも最低14日間の抗凝固、または経食道心エコーによる血栓の有無の確認が必要となる。


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admin 平成14年12月31日