文献でリコメンドされているのは、以下のとおり。
どれを用いてもかまわないが、待機的に直流除細動を考えている場合、DCの前後3日間ずつワソランを内服させることで、3ヶ月後の洞調律の維持率が高くなったというデータがある。Ca拮抗薬が、心房細動による電気的なリモデリングを抑えるからといわれている。
ただしこの報告には反論も多く、Afの発症直後にワソランを飲ませた場合は効果があるが、慢性期心房細動に同じことを試みた場合、かえって洞調律の維持は悪くなったという報告もある。
また、急性期の脈拍コントロールについては、ヘルベッサー単独と比較して、ジゴシンを併用したほうがよりすばやい脈拍低下が見られ、一方過剰な徐脈の発生はヘルベッサー単独と同程度であったという報告が出ている。
ジギタリスは、迷走神経緊張を介して房室伝導を遅らせ、心房細動の脈拍を抑える。心房細動発作時は交感神経支配が優位の状態にあるため、理論上はジギタリスは効果を発揮することはできない。
また、慢性期の心房細動でも、運動したときの頻拍は交感神経緊張によるもののため、ジギタリスはそれを抑える効果がない。
慢性期の脈拍コントロールについてもジギタリスは頻用されるが、運動耐容能や労作時の頻拍を抑える効果は、β遮断薬やCaブロッカーに比べて劣る。
さらに、ジギタリスは発作性心房細動の患者においては心房細動になっている時間を延長し、発作時の脈拍を抑える効果もない。
これらのことはいずれも臨床で実証されており、急性期の頻拍にジギタリスを第一選択にすることは少なくなっている。ジギタリスは現在、日中でも動くことの少ない高齢者の心房細動のコントロールや、ほかの薬剤では脈拍のコントロールが不充分な症例への併用、低血圧が問題となっている症例での使用など、用途は限定されてきている。
体に薬剤を入れないという点で、最も安全なのは電気的除細動である。
ただ、セデーションの必要、手技的に煩雑などの理由で、発症初期のAfの治療には、薬剤による除細動も好まれる。
理論的にはIa群、Ic群、I I I 群の抗不整脈薬はすべて除細動効果がある。これらの中で、合併症のない心不全についてはプロパフェノン、フレカイニドが除細動効果も高く、経口でも静注と同じ効果があり、また副作用が少ない点で好まれる。
プロカインアミドはこれらに比べて効果はやや落ちるが、代謝物がV群と同じ作用を持つ。このため電気的除細動を試みる際には除細動閾値を下げる働きがあり、電気的除細動が不成功に終わった場合に用いられる。
以上の使い方を示す。
これらの薬剤の次に除細動効果が高いのがソタロール、アミオダロンであるが、両者とも使用には注意がいる。効果が出てくるのもほかの薬剤に比べて遅く、ERでレジデントが気軽に出す薬ではない。
一方、心臓血管系に合併症のある患者の心房細動については、使用する薬剤が限られてくる。T群の薬剤は、慢性期投与では心筋梗塞、心不全の予後を悪くすることがわかっているため、こうした患者では直流除細動を考慮するか、病院にキープした上で、モニター下で薬剤による除細動を考慮すべきだろう。
洞調律を維持する際にも、前に上げた薬剤は効果がある。
一回だけ生じた発作性心房細動で、繰り返す可能性が低い場合には抗不整脈薬を用いないか、またはCa拮抗薬と抗不整脈薬を頓用で持たせる方法がある。
また、発作性心房細動で誘因がある場合、それに応じた治療もできる。具体的には食後に生じる心房細動や、夜間に生じる心房細動ではリスモダンのような抗コリン作用の強い薬剤を眠前のみ服用させる、といった手段がある。
また、運動、カフェイン、ストレスなどで誘発される心房細動に対しては、 遮断薬が効果がある。
こうした誘因のはっきりしない心房細動や、慢性の心房細動を除細動した後などは、抗不整脈薬の適応となる。
この場合も合併症のない心臓では、副作用の少なさからプロパフェノン、タンボコールが推薦されている。
一方虚血性心疾患の患者では、こうした薬は心室性不整脈の可能性を増してしまう。この場合、洞調律の維持にはβ遮断作用のあるソタロールか、アミオダロンを用いる。
さらに、心不全と診断されている患者においては、生命予後に悪影響を与えず、日本で入手可能なのはアミオダロンだけである。
こうしたリコメンドされている薬とは別に、遮断薬自体が抗心房細動効果がある、という話題がある。これは、除細動後にメトプロロール200mg/日を服用してもらったっトライアルで、6ヶ月後の洞調律の維持率は、プラセボに比べて有意に高かったという。β遮断薬の効果はほかの薬剤に比べると少ないものの、服用可能であるならば適応を選ばず、虚血や心不全の予後についても好ましいという点で、ほかの薬剤よりも有利である。
心臓に合併症を持つ患者の場合、抗不整脈薬よりも先に、β遮断薬を考慮するのもいいだろう。
使用法を以下に示す。
T群の抗不整脈薬や、アミオダロンを内服している患者にDCをかけた場合、除細動の閾値は何もしない場合に比べて上昇するという。
一方、アミオダロン以外のI I I 群薬では、除細動の閾値は下がる。このため欧米では、DCによる除細動不成功例にイブチリド、ソタロール、ドフェチリドなどを静注してから再度除細動を行う。これらの薬剤は、すべて日本では手に入らない。
このため、I群薬ではあるものの、体内での代謝物がI I I 群作用を持つプロカインアミドが、この目的に使われることがある。
アミサリン 100mgを5分ごとに静注し、600mg程度用いて洞調律に復帰しなければ、直流徐細動を行う。
心房細動に直流除細動を行う際、従来は100J程度の低いエネルギーが用いられた。
しかし近年、除細動の成功率は用いたエネルギーに比例することがわかり、初期エネルギーを100、200、360Jとした3グループで比較すると、洞調律に復帰するまでに要するエネルギーは100J群で最も多く、360J群で最も少なかった。
また、直流除細動が心臓に与える影響についても、使用エネルギー量と心筋障害とは必ずしも比例しないこともわかってきており、初期エネルギーは徐々に高くなる(200J程度)傾向にある。
外来でAfの患者を診た場合、左房の径が45mm以内であれば洞調律に戻せる可能性がある。
この際、DCをかけるべきなのか、このままレートコントロールのみで見ていくべきなのかは迷うところである。
大きなトライアルは2つ出ており、心不全症例に繰り返しDCをかけた群と、レートコントロールのみ行った群との比較では、心不全の悪化を防止する効果は無いという結果になった。
また、合併症のないAfの患者を同様に1年フォローしたスタディでは、運動耐容能は除細動群でより高かったもののQOLのスコアには差は無く、除細動を繰り返した分だけ除細動群のほうが入院日数は長いという結果になっている。
まだ、塞栓症予防効果に対する大きなスタディは行われておらず、この予防のためにDCをかけるべきなのかどうかは、まだ明らかになってはいない。
結局のところ、洞調律に戻すかどうかはここの判断にゆだねられるべき問題になってしまうが、若年者の初発のAfについては、洞調律の維持を考慮してもいいとおもう。
最近になり、AFFIRMというトライアルの結果が発表された。主な結果は以下のとおり
この結果からは、除細動を行って洞調律の維持を行う、という治療戦略には、生命予後については 大きなメリットが無く、むしろ死亡率が上昇すること、洞調律が維持されている群であっても、 ワーファリンの継続を行ったほうがよさそうであることなどが示されている。
一応、New England Journalに掲載された論文でもあり、今後心房細動の治療のガイドラインは変わってくる可能性がある。
現時点でこの結果をどう解釈するべきなのかは、職場の循環器のドクターと相談してください。