敗血症で亡くなった患者では、リンパ球と消化管上皮細胞の2種類の細胞しか死滅していない。 このことは、細胞のアポトーシスの加速、免疫応答の低下を裏づけてはいるものの、敗血症患者がよく生じる 多臓器不全の状態を説明できない。
例えば、生前に重篤な心機能不全に陥っていた患者であっても、敗血症で亡くなったあとに解剖してみると 心筋細胞の壊死はほとんど生じていない。
実際の解剖のスタディでは、敗血症による多臓器不全で亡くなった患者では、肝臓の部分的な壊死があった人が 20人中7人、心筋細胞の部分的な壊死があった人が20人中3人であったという [#!Sepsis:12!#]。
同様に、敗血症患者では高率に腎不全を合併するが、このときの病理所見で実際に腎の壊死を生じている人は少なく、 敗血症から回復した患者の多くは正常な腎機能にまで回復する。
これらの所見は、敗血症に陥った患者の臓器は、ちょうど虚血性心疾患における心筋のハイバネーションの状態になっている ためと説明されている。敗血症により、臓器への微小循環が障害された結果、細胞が自分の身を守るためにその活動を停止し、 臓器機能が低下するために多臓器不全の状態になるという。
現在のところ、剖検所見からは、なぜ敗血症で患者が死亡するのかを説明することは出来ない。
もちろん、多くの患者は心不全状態に陥り、治療抵抗性のショックになったり、あるいはARDSなどの重篤な呼吸不全の状態 になったりするが、それだけでは患者死亡の原因にはなりえない。
腎不全、肝不全もよく合併するものではあるが、これらも代替療法が確立しており、患者の死期を決めるものではない。
現在のところ、患者の死期を決めているのは患者の家族および医師の"あきらめた"時であるといわざるを得ない。