細胞内にはCaイオン濃度を制御している数多くの分子が存在するが、 拡張障害を呈した心不全患者においては、その中でも筋小胞体(SR)/滑面小胞体のカルシウムATPases(SERCA) の活性が低下している。
高血圧性の心筋肥大の患者では、SERCAの活性は低下し、またその制御タンパクであるホスホランバンの活性が 上昇している。この結果、細胞質からのCaの排泄が遅れ、心筋の弛緩速度が低下し、拡張障害の状態となる。
また、交感神経刺激により上昇したcAMPの濃度の上昇はSERCAの活性低下をもたらし、心拡張障害を悪化させる。
SERCAの働きはエネルギー依存性のため、虚血に陥った心筋では、心筋の弛緩が障害される。
さらに、甲状腺機能低下症の患者では、SERCAの活性が低下しており、拡張障害を生じる。 逆に、甲状腺機能亢進症の患者においては、心臓の拡張能が亢進している。
心筋の弛緩に加え、心臓は血流により、受動的に拡張する。 心筋の繊維化などで、心筋のコンプライアンスが低下しても、やはり拡張障害は悪化する。
アミロイドーシスのような、何らかの物質の沈着による心筋障害の患者では、 心筋コンプライアンスの低下により、拡張障害型の心不全を生じている。
アンギオテンシンI I、エンドセリンの両者はともに、血中濃度が上昇すると心筋肥大を招く。