従来は、他の感染症治療と同じく、肺炎治療も以下のような手続きを踏んでいた。
最近、肺炎治療のガイドラインがいくつか発表され、肺炎の治療戦略自体が変化しつつある。
新しく提案されている、肺炎治療の戦略は以下のとおりである。
こうした方法が提案された背景は、いくつかある。
発熱後6時間というと、一見十分な時間があるように見える。しかし、外来で1時間待ち、いろいろな検査を施行して、 結果を待っている間にさらに1時間は経過する。
入院を決め、病棟で喀痰を採取、グラム染色が完了し、結果が出てから抗生剤の皮内反応、結局、抗生剤が患者の体内に入るのは、 順調に行っても5時間近くはたってしまう。
全ての患者に対して、抗生物質投与を6時間以内、できれば3時間以内に行うためには、 従来の肺炎治療の考え方を変えなくてはならない。
教科書的には、非定型肺炎と普通の肺炎とは、症状、胸部単純写真の所見などが異なる、とされてきたが、 いくつかの臨床試験の結果からは、病歴聴取や胸部単純写真所見だけで、この両者を区別することはできなかった。
また、マイコプラズマ、クラミジアといった、非定型肺炎の起炎菌に対する血清学的な診断が進歩した結果、 統計によっては3割近くの患者で、細菌性肺炎と、非定型肺炎との重複感染を生じている可能性が示された。
臨床試験の結果からも、肺炎の治療を行うにあたって、典型的肺炎、非定型肺炎の両方を治療できる抗生物質と、 典型的な肺炎のみを治療できる抗生物質との比較では、前者のほうが予後がよかった 1。
これらの結果からは、肺炎の初期治療に用いる抗生物質は典型的な肺炎、非定型肺炎の起炎菌、全てをカバーする必要がある。 こうした、より広範囲の起炎菌をカバーする抗生剤の選択は、結果としてグラム染色や、詳細な症状聴取といった、 起炎菌を予想する手技を無意味にする。
2000年のガイドラインでも、血液培養の意義は評価されているが、喀痰培養を全肺炎患者に施行する意義については、 疑問が投げかけられている。
結局、今まで我々が"頭を使って"診断してきた部分は、論文上は"無意味な努力であった"とみなされたわけで、 今回発表されたガイドラインも、医師の頭を極力使わない、マニュアル化されたものになっている。