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1 はじめに

1.0.0.1 肺炎の治療方針が変わってきている

従来は、他の感染症治療と同じく、肺炎治療も以下のような手続きを踏んでいた。

  1. 病歴、臨床症状による熱源の特定
  2. グラム染色による起炎菌の予想
  3. それぞれの起炎菌に対応した抗生物質の投与

最近、肺炎治療のガイドラインがいくつか発表され、肺炎の治療戦略自体が変化しつつある。

新しく提案されている、肺炎治療の戦略は以下のとおりである。

  1. 肺炎の重症度、患者の既往歴から、患者をいくつかのグループに分類
  2. それぞれのグループに対応した抗生物質を、一刻も早く投与
  3. グラム染色による起炎菌の予想は、行わない
  4. 喀痰培養も、ほとんどの場合は行わない

こうした方法が提案された背景は、いくつかある。

1.0.0.2 抗生物質は一刻も早く投与しなくてはならない

抗生物質の投与を急ぐのは、好中球減少の患者では3時間、一般の患者では6時間を境に、 発熱を生じてから、抗生剤が投与されるまでの時間に遅延があると、予後が悪化することが報告されたからである。

発熱後6時間というと、一見十分な時間があるように見える。しかし、外来で1時間待ち、いろいろな検査を施行して、 結果を待っている間にさらに1時間は経過する。

入院を決め、病棟で喀痰を採取、グラム染色が完了し、結果が出てから抗生剤の皮内反応、結局、抗生剤が患者の体内に入るのは、 順調に行っても5時間近くはたってしまう。

全ての患者に対して、抗生物質投与を6時間以内、できれば3時間以内に行うためには、 従来の肺炎治療の考え方を変えなくてはならない。

1.0.0.3 非定型肺炎と典型的な肺炎を区別することは不可能

従来、肺炎は大きく、非定型肺炎と、典型的な肺炎に分けられてきた。前者にはマクロライド系が、 後者にはセフェム系の抗生物質が用いられてきたが、病歴、症状などからこの両者を分けるのは不可能である。

教科書的には、非定型肺炎と普通の肺炎とは、症状、胸部単純写真の所見などが異なる、とされてきたが、 いくつかの臨床試験の結果からは、病歴聴取や胸部単純写真所見だけで、この両者を区別することはできなかった。

また、マイコプラズマ、クラミジアといった、非定型肺炎の起炎菌に対する血清学的な診断が進歩した結果、 統計によっては3割近くの患者で、細菌性肺炎と、非定型肺炎との重複感染を生じている可能性が示された。

臨床試験の結果からも、肺炎の治療を行うにあたって、典型的肺炎、非定型肺炎の両方を治療できる抗生物質と、 典型的な肺炎のみを治療できる抗生物質との比較では、前者のほうが予後がよかった 1

これらの結果からは、肺炎の初期治療に用いる抗生物質は典型的な肺炎、非定型肺炎の起炎菌、全てをカバーする必要がある。 こうした、より広範囲の起炎菌をカバーする抗生剤の選択は、結果としてグラム染色や、詳細な症状聴取といった、 起炎菌を予想する手技を無意味にする。

1.0.0.4 喀痰培養の結果には意味がないかもしれない

また、グラム染色や喀痰培養といった、従来は肺炎治療の要であった検査も、こうした検査の結果得られた起炎菌と、 気管支鏡を用いて、病巣から採取された起炎菌とがほとんど一致しなかった、 といった観察結果などからその意義が否定されつつある。

2000年のガイドラインでも、血液培養の意義は評価されているが、喀痰培養を全肺炎患者に施行する意義については、 疑問が投げかけられている。

結局、今まで我々が"頭を使って"診断してきた部分は、論文上は"無意味な努力であった"とみなされたわけで、 今回発表されたガイドラインも、医師の頭を極力使わない、マニュアル化されたものになっている。


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admin 平成16年11月12日