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2011.01.07

マスターアップしました

「レジデント初期研修用資料 医療とコミュニケーションについて」 という本を、昨年後半頃からずっと作っていたのですが、 おかげさまで無事マスターアップしました。忙しい中、原稿のレビューをお願いした方々、入稿当日まで原稿の改訂につきあって下さったオーム社開発部の皆様、 まずは本当にありがとうございました。

原稿をオーム社様に持ち込んだのが昨年の9月頃、メーリングリストの開設が2010年の10月4日、 マスターアップまで3ヶ月間の工程でしたが、出版社とやりとりしたメールの総数は513通、 原稿の修正回数は367回に及び、期間こそ比較的短かったものの、作業の密度は前回以上に高いものになりました。

穏やかに会話する技術

この本は、「穏やかな雰囲気で無難な会話をする」ための技術を解説した本です。

「コミュニケーション」、あるいは「交渉」 を扱った本はたくさん出版されています。

知らない相手と一瞬で親しくなる技術、議論で絶対に負けない技術、氷の国で暮らす人でも、思わず冷蔵庫を購入してしまうような巧みな話術、 出版されている各種の「交渉術」が目指しているものは、どれも素晴らしい技術ばかりで、そんなきらびやかな目標に比べると、 この本が目指した「穏やかで無難な会話」というものは、いかにも地味ですが、サービスの現場にあって、そうした地味な空気を 切実に求めている人というのは、一定数いるのではないかと思います。

内容について

この本の内容は、今まで書きためてきたblog の中から、主に コミュニケーション に関して書いた記事を編集し、まとめたものです。blog の過去記事を読んでいただいた方が本書を読むと、「ああ、あれか」と思うところがたくさんあると思います。

コミュニケーションには、様々な側面があります。

自分で書いたり、調べたりして、もっとも「面白い」ものはといえば、やはりPR 会社の人たちが得意とする説得の技術であったり、 あるいは経済学方面の人たちが得意とする、人の振る舞いに合理的な解説を加えたような記事なのですが、 今回製作した本には、こうした記事をとり入れることはありませんでした。

そうした記事は、それを書いた当の本人が読み返しても、たしかにそれなりに面白く、また比較的いい評判をもらったものではあるのですが、 ならば自分が、日常臨床でそうしたやりかたを行っているか、あるいは記事を書いたとして、それをこれから診療にとり入れていけるのかといえば、 やっぱり「ノー」でした。

「普段やっていることをまとめる。できれば似たような境遇の人に役に立つ形で」というものが、マニュアル本を作るときの心構えであって、 本書もまた、「できれば役に立つ」を目指して、解説している「交渉術」というものは、どちらかというと地味な、 複雑で回りくどいやりかたを徹底して、得られるものは「穏やかな空気」だけ、といったものになっています。

劣ったものにも意味がある

コミュニケーションが「上手な」人は、たぶん本書が解説しているような胡乱な手続きを踏まなくても、 穏やかな空気を簡単に作り出すことができます。

あるいはまた、コミュニケーションがそれほど上手でない人であっても、普段生活していく中で、 誰かからいきなり怒鳴られたり、ドアを開けたらいきなり剣呑な空気に包まれたりといった経験は、 それほど多く体験することはないのではないかと思います。

「穏やかな空気」というものは、もっとシンプルな、誠意に基づいたやりかたでも比較的容易に達成できる ものなのですが、そうしたやりかたは、その場から上手な人がいなくなってしまったり、 あるいは想定以上の外乱が生じた際には、状況の維持ができなくなってしまう可能性があります。

本書で解説している、低い目標を、より複雑で、遠回りなやりかたで達成するための交渉技術というものは、 その代わりに再現が比較的容易であって、シンプルなやりかたに比べて、外乱に対してより強力に、 「穏やかな空気」というものを維持できるのではないかと考えています。

出版自体はもう少し先になりますが、機会がありましたら、手にとっていただければ幸いです。

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