2008.06.11
運用解決と構造解決
1974年のパリ上空、トルコ航空のDC-10 が墜落して、乗客346人が全員死亡した。 飛行中に貨物扉が吹き飛んで、機体が制御できなくなったらしい。
この飛行機は、貨物扉が「半ドア」のままでもロックできてしまう問題を以前から指摘されてて、 改善が勧告されていたけれど、航空会社はドアに「のぞき窓」をもうけて、ロックがきちんと為されているよう、 整備担当の人に確認させることで、問題は「解決」されたことにしていた。
ごく最近、世界一高い航空機、B-2 爆撃機がグアムで墜落した。
原因はセンサーが湿気によって誤作動したことで、湿気の高いグアムの基地では、 始動前にセンサーを熱して、内部の湿気を蒸発させるという「技」が、 一部のパイロットや整備士らによって非公式に行なわれていたのだという。
島根県の診療所で、血糖測定用の針が使い回されて、肝炎ウィルスが拡散した。
採血の機械は6 回続けて使用可能で、本体には、赤い字で「複数患者使用不可」という シールが貼ってあったらしい。
時代も状況もバラバラだけれど、問題の根っこはよく似ている。
「運用」は解決にならない
DC-10 の貨物扉は金具がヤワで、たとえ半ドアになっていても、ハンドルに体重をかけて回してしまうと、 金具がゆがんで「ロック」されたことになってしまうのが問題だった。
提案された改善案は2つ。「のぞき窓」をもうけることで、整備士に確認を促すやりかたと、 金具に補強板を取り付けることで、そもそも半ドアのままロックを行うことを不可能にするやりかたと。
補強板の価格自体、決して高価なわけではないはずだけれど、「確認すれば大丈夫」なことも 間違いなかったから、補強板は取り付けられなくて、航空機は墜落した。
B-2爆撃機の事例なんかも、恐らくはこれから検証が為されるんだろうけれど、 もしかしたら湿気の問題は最初から報告されていて、誰かが途中で情報を止めたのかもしれないし、 あるいは現場の工夫はそこで「解決」したことになってしまって、そもそも情報が上に伝わらなかったのかもしれない。
今回トラブルを起こした採血用具も、「複数患者使用不可」なんて赤字シールを貼ってたぐらいだから、 あれを作ったメーカーの人達は、きっと問題を正確に認識していたはず。潤ってた昔だったら、 「危ないよ」なんて誰かが声出せば、あの製品は、即日全品回収がかかったんだろうけれど。
その改良に意味はあるのか
改良の方向には「性能が向上する代わりに、使用者にも一定のレベルを要求する」方向と、 「性能は変わらないけれど、どんな人にでも使える」方向とがあって、安全を志向する道具の場合、 前者を目指してはいけないんだと思う。
血糖測定用の針は、昔はただの針だった。細い注射針をそのまま使って、 患者さんの指先傷つけて、血液一滴もらって検査に回す。 それだと痛いから、バネ仕掛けで使って勢いよく針を飛ばせるようにしたのが、 血糖測定用の採血用具。
銃の進歩にちょっと似ていて、最初の頃は「単発」。針をセットするには本体を分解しないといけなくて、 分解して針を装着して、バネをセットして、ようやく利用できる。面倒だけれど、一度使ったら、 また分解しないとバネのセットができなかったから、「使い回し」の問題は発生しにくかった。
実物を見たことがないけれど、問題になった採血用具は「連発式」。バネのセットさえすれば 何回でも連射可能だけれど、使い回しを回避するためには、利用する人が何回撃ったのか、 覚えていないといけない。
「使い回し禁止」なんてシールを貼ることで、その問題は、 「運用」で解決されたことになっていたけれど、事故は起きた。
同じ改良品でも、絶対使い回しできない針と いうものも発売されている。
最初から針とバネがセットされてて、ボタン一発で動作して、一回使ったら針が隠れて、もう二度と使えない。 単発で、捨てる部品が多くてもったいないけれど、原理的には「針刺し」の事故は絶対起きないし、 患者さんまたいだ使い回しの問題も起きない。
問題の発生を避けられない構造を改めないで、シール一枚で「解決」したことにする。
あれを作った人のセンスも、その危なさを指摘できなかったユーザーのセンスも、 同じようにとがめられるべきだけれど、そもそもこういう問題は、昔みたいに メーカーも現場も潤ってた頃ならば、何も考えなくても起きなかったんだと思う。
製品の回収に伴うコストと、「シール」印刷するコスト、安全対策が為された道具を使うコストと、 そもそもが個人使用向けの製品を、病院で使うコストと。現場が潤ってる昔なら、 最初から考えもしなかったことが、今は天秤にかけられる。バランス取るのにはセンスが必要で、 センスに欠けた人もバランスを考えざるを得ないから、舵取り間違えて、事故が発生する。
安全をお金に換える仕組みを作らないと、こういう問題はなくならないと思う。
勤務医の先生がたには、思いつかない解決法も、メーカーのほうでは用意されてて、たとえば、経口エアウエイ、あれって、1年か2年前くらいから、500個か1000個単位でなければ、購入できなくなった、って知ってました?(^^;
それだけたくさん買えば、ディスポの使い回しはされなくなるでしょう、って当局からの指導の賜物。だから、血糖測定器具も、これから大量まとめ買いしかできなくなるんじゃないかな。
Posted at 2008.06.11 7:56 PM by moto
実は就職してから一度も使ったことなかったり>経口エアウェイ。
ところで「文字サイズ」は直ってるでしょうか。。いちおうFireFoxでは、文字サイズ変更はできてるようなのですが。。
Posted at 2008.06.11 8:02 PM by medtoolz
あ、チャットになりましたね、光栄です(笑。
explorerからも読みやすいですよ。つい書き込んじゃいました。
Posted at 2008.06.11 8:07 PM by moto
仕事の際にも運用でミスを減らす様に智恵を絞ってしまう事が多いので耳が痛いです。
安全性とか確実性のためには手間とコストがかかるものを受け入れて下手に効率化しない法が良いっていう指摘は面白い。
Posted at 2008.06.11 9:53 PM by jabwck
あの「6連射」の理由がよく分からないんですよね。。Ⅰ型糖尿病の患者さん向けの製品だとして、マーケットがあまりにも小さいですし。。
Posted at 2008.06.12 12:24 PM by medtoolz
標題と直接関係ない話題で恐縮ですが、
以前medtoolz様がエントリされた
http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2008/03/post_620.html
を地で行くような事がおきましたね。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/12/news036.html
さて、数億円の根拠をどうやって出すんだろうw
Posted at 2008.06.12 2:08 PM by 通りすがり
同意です。
「ミステイクが無いように運用する」ではなく、「そもそもミステイクが発生しないように設計する」という発想がシステムには必要かと。
人間は間違えるように出来てますから。
また前者は運用手順や確認箇所が複雑になり、効率・品質があがりませんよね。
どの業界も同じなんだなと感じました。
Posted at 2008.06.12 5:47 PM by 酔兎
通りすがりさん
予告.in、まさにmedtoolzさんのエントリとシンクロする発想のサイトですね。数億円の内大部分は誰かさんの懐に入るんだろうな。きっと予告.inの存在は無視され「数億円かけて」ソフトが開発されることでしょう。
あ、medtoolzさん、「研修医を傷つける・・・」の頃から拝見しております。当院の研修医も先生の作られたマニュアルをみんな活用しているようです。
Posted at 2008.06.13 1:46 AM by 通りすがり2
リスク対応のコストを思い切り下げられるのならば、今度は逆に、進歩を思考できるのですが。。一時期の医療はきっとそうだったのでしょうし。
Posted at 2008.06.13 1:27 PM by medtoolz
ミステイクをカバーするシステムが停電などで使えなくなってしまえば、
緊急時などに人間側の高度な運用技術を求めることもあります。
危機管理としては、
どちらに偏ることなく双方からの努力を行う必要がありますね。
Posted at 2008.06.15 3:03 AM by aA