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2009.10.26

働きかたが多様化している

今うちの施設に来てくれている内視鏡の先生は、普段は別の県で仕事をしていて、 週に1回、200km近く離れたその場所から、内視鏡検査のためだけに、車を飛ばして 病院に来る。もっと近くにだって、たぶん内視鏡医を必要としている場所は あるんだろうけれど、車が好きなんだという。

当直だけを代行してくれる、という働きかたが増えているらしい。

リクルートを経由して、最近何人か、夜間の当直だけを担当したい、という 仕事の依頼が入ってくるんだという。昔はこういうのは、医局の若手が アルバイト代わりに病院を泊まり歩いて、大学の安月給を補ったり、 あるいは部活の「先輩後輩」つながりで、他の大きな病院に勤める傍ら、 小さな施設に、当直だけ来てもらったり。

外来だけとか、あるいは検診だけ、内視鏡だけ、当直だけなんて、 今までだったらあり得なかったような勤務形態が、ここに来て、田舎の病院にも増えてきている気がする。

伝統的な医師のありかた

これから来てくれるかもしれない当直代行の先生は、東京都内でホテル暮らしをしているらしくて、 決まった住所を持っていないんだという。陸の上で「船医さん」みたいな暮らしかたをしていて、 いろんな病院を、いわば泊まり歩くような仕事のしかたをしていて、気ままに過ごしているんだという。

大学でも最近は、医療以外のことに、人生の軸足を移す人が増えてきていて、 医局を離れて、リクルートを頼って、県内の病院に、外来だけの非常勤医として 勤めたりする例が出てきているんだという。

「医局出身」の医師というのは、基本的には外来と病棟と、最低限度の当直と、全部一通りできて、 初めて「○○大学」を名乗ることが許されて、医局から派遣されてきた医師は、 だからある程度の「規格」に沿った、いわば使いやすい形で派遣されるのが 当たり前だったんだけれど、その代わり、多用なやりかたは許されなかった。

当直専業の医師なんて、医局出身の医師のありかたからすればこれは「規格外」であって、 医局に「こうしたい」なんて相談したところで、もちろんそれは許されなかったし、 仮にどこかの病院で、そうした勤務形態に需要があったところで、医局という場所は、 そこまで細かい対応をしてくれなかった。

人と人とをつなぐやりかた

今はたぶん、リクルートに代表されるような、医師を派遣する会社、 人字の需要と供給を代行するプロ集団が自分たちの業界に入ってきて、 流れがずいぶん変わりつつある。

うちの業界に一番欠けていた、あるいは今でも欠けているものというのは、 「人と人とのつなぎかた」であったのだと思う。

医局はたしかに、医師の配分に貢献してきた組織だと思うんだけれど、 「つなげる」ことには徹底的に不得手であって、だから医局は、 あたかもレンガを量産するみたいに、一つの決まった規格に沿った「勤務医」を 生み出して、規格に外れた人は、「開業医」になるしかなかった。

派遣される医師と、医師を受ける病院側には、本来は様々な勤務需要と、仕事の需要とがあって、 そうした中間地帯には、必ずしも「レンガ」の規格がぴったり来ない場所がたくさんあったはずなんだけれど、 「つながり形成」のプロであるリクルートみたいな会社が入ってくることで、そうした間隙にも、 医師が入っていけるようになったのだと思う。

「若手医師はどこに消えた?」論議というのは、たぶん大学病院と市中病院との衝突ではなくて、 むしろ流通形態の衝突であったのだと思う。

勤務医という、一つの規格に沿った勤務形態を大量に提供する、大学病院という流通形態と、 医師個人の需要と、受け入れ病院の仕事需要とを対応させて、全国区で需要のすりあわせを試みる、 リクルートみたいな会社のやりかたと、こういうのはたぶん、新聞メディアがネットに駆逐されつつあるのと 同じく、技術の進歩に乗り遅れた側が、一方的に敗北していくのを見てる気がする。

「カタログ映えするラベル」の時代が来る気がする

「○○大学医局」のブランドで、一定の規格に沿って養成された医師を迎える時代から、 これからはたぶん、「こういう勤務形態で働いてくれる人がほしい」なんてどこかの会社に発注したら、 「人間のカタログ」が届いて、「この人」なんて指定できるようになるんだと思う。

需要に最適な人間を、全国区で選択できるようになったなら、「人柄」とか「信頼」みたいな、 カタログに載せにくいパラメーターは、意味を持たなくなる。たぶん「いい医師を目指す」とか、 これから先は、止めたほうがいいんだと思う。

カタログの時代、大切になるのはやっぱり、専門医を持っているとか、 学会認定の資格を持っているとか、 カタログ映えするラベルを自分にたくさん貼り付けることであって、大学医局の役割もまた、 人材派遣に敗北して、これから先は「ラベルの印刷」と「ラベルの販売」へと 移行していくような気がする。

漠然とした「良さ」を目指して、カタログ映えするラベルの獲得を怠ってきた自分みたいなのは、 これから先、どう考えてもいい目を見る可能性がなさそうなんだけれど、 次どうしようかなとか、けっこう考える。

Comment & Trackback

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はじめまして とある片田舎の大学病院で働いている者です。
今年10年目になります。先生のブログは病棟マニュアル含め良く拝見しております。

「カタログの時代、大切になるのはやっぱり、専門医を持っているとか、 学会認定の資格を持っているとか、 カタログ映えするラベルを自分にたくさん貼り付けることであって、大学医局の役割もまた、 人材派遣に敗北して、これから先は「ラベルの印刷」と「ラベルの販売」へと 移行していくような気がする。」
これは病院が医者を雇ったりするときに重視するんでしょうか。でも日頃接している患者さんからすると、どちらかというと資格云々などはあまり効力ないような感じがしますが・・・・。また資格を多く持っているという人ほど、あまり患者の方を向いてない感じもします。

「漠然とした「良さ」を目指して、カタログ映えするラベルの獲得を怠ってきた自分みたいなのは、 これから先、どう考えてもいい目を見る可能性がなさそうなんだけれど、 次どうしようかなとか、けっこう考える。」
私もまったく先生と同じ所を目指していまして、「無印良品」で行こうと思ってたんですけど、やっぱりとれるもんは取ったがいいのかなぁ・・・

大学医局中心のメンバーはインパクトファクターのある英文誌に何本載せたか、国際学会で何回発表したかで御互い1次元価値でスケーリングしあうセミクローズドなサークルになり(のままであり)、学会長になったり厚生労働省班研究の班長になったりが楽しい。武士で言うなら石高より冠位。
何枚看板持ってるか、幾臓器摘出ったか、何本つめたか、何本拡張させたか、何枚縫ったか的な看板を目指す若人たちとはベン図で重なりが無くなっている(いく)んでしょうな。宮本武蔵を目指して上がりは幕府の師範か子供に剣道を教える町道場のオジさんか。
(英文が全くでない医局は違う文化かな?)

アカデミー系で偉くなる人は結局一点張りなわけで(○○エコーの中のこれ、骨粗鬆症のうちのそれ、○○受容体のココ・・・)
売りになる専門性=代替不可能性

何でも出来るが売りはないのと・・・

人生の時間は有限とはいえ、肺結核の手術だけなら得意です、というのに賭けるようなのはハイリスク過ぎて・・・
「一つのカゴにすべてのタマゴを盛るな」ということわざもありますし・・・

学校の先生と塾(予備校)の先生みたいですね。
http://sun.ap.teacup.com/kodamac/684.html
フリーランスだと「英語の授業」か「数学の授業」+「進路相談」+アルファで間違ってもこどもの引率なんていう仕事はないのに正規職員だと無限残業というかホワイトプランというか
”「授業する人」+「クラブ顧問する人」+「担任する人」+「掃除の指示する人」+「保護者との連絡する人」+「進路相談する人」+「カウンセリングする人」+「校務運営の会議する人」+「会議の資料つくる人」+「プリント印刷する人」+「試験問題つくる人」+「採点して集計する人」+「試合の引率して審判する人」+「京都や近畿の役員する人」+・・・・”(医師でいうと日勤+残業+夜勤のほか、看護師への教育とか、地域医師会や救命救急士との”勉強会”とか)

銀行や大企業の「年功賃金」とされるものは実際は社内でのこまごました講習+試験による資格-等級による給与制みたいで(具体的に知ってるわけじゃないですが知人はそんな感じ)非正規雇用の一般化・雇用の流動化に伴い、イントラ企業でない、インター企業(業界内横断的)な資格が求められている(行政・制度的な意味でも実際の労働する者にとっても)みたいな。

そういえば当直医学のコメント欄トラックバックが凍結されてますね。
炎上するようなエントリでもないように思えるので、スパムでしょうか?

 未来がどうなるかは誰にも分かりません。。「王道」はあるんでしょうか。

 どう転んでも良いように備えしておくしかないんでしょうねほどほど金とウリになる技術と肩書を身につけて、どういう職場でも働けるような対人スキルを身につけて、不動産は持たず身軽にし。。

 必勝の確信をもってライブドア株を全財産で買って、紙くずになってから救済を求めて訴訟を起こすのは、結果はどうあれみっともないものです。

カタログから「この人」と選ぶ側の立場になったとしてみたら、どんなラベルがある人を選びたいか(直近では病院が、将来的にはもしかしたら患者が)を考えてみると、望ましい方向はラベルの多様化なのでしょうね。
例えば「人柄」とか「信頼」をどうラベル化するか。
もしかしたら、食べログみたいな形に進化するかも知れません。

労働者派遣法?

それでも「えらくなりそうな人とたくさん友達になっておく」というのは、生存手段として有効かなと思ったり。その時になって「君なんて知らないよ」と言われればそれまでですが。

コメント欄については、エントリー上げてから4日ぐらいすると、自動的に閉じる仕様になってるみたいです。。

国試以上の合格率を誇る産婦人科専門医の立場は…。

トキやニホンオオカミは、血統書なしでも珍重されるのと、同じようなもんじゃないでしょうか。。

専門の資格が医局に所属しないととりにくくなっているように思います。学会の偉い人は基本的にみんな医局の偉い人なので、今後は「ラベル」が欲しかったら医局に所属しなさいということになるのでしょうか?
内科とかはまた状況が違うのかもしれませんが。

専門医は必須で学位はあまり意味無くなるんですかね。
ただしパートタイマーについてはカタログ化しても常勤医については「人柄」とか「信頼」の評判は重要かと思います。
医局からの派遣のときは「とんでもさん」が来たら、「チェンジ!!」って言えましたが今はそうもいかないので。
うちは業界が狭いので探りをいれますねえ、お互いに。

他県での収入は確定申告で申告漏れてもわかりにくい、と聞いたことがあります。

>専門の資格が医局に所属しないととりにくくなっているように
がん治療専門医とか、途中からとろうと思うと大変ですよね…
マニアックな外科系やIVR系のは大きな病院にいないととれないかもしれませんね

http://hearthospital.jp/
http://www.seiwa.or.jp/COMIC_registrar.htm
こういうのとか、大学医局とは別にリクルート/トレーニングする
機運もあるのかもないのかも

土谷健先生みたいな
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200909/512153.html
http://fcm-news.blog.so-net.ne.jp/2009-09-18

人に誰もがなれるわけではないですが

盛り上がっていますね。

私の分野でも専門医は家元制に移行しつつあり、事実上、大学医局に所属しないと取れません。
とはいえ、専門医を取った若い先生は医局をやめることに躊躇いもあまりないようで・・・盃も軽くなったものです。

まあ、そっちの方がまともな感覚ともいえます。

自分も含めて、特に「売り」のない中年医師がどのように世間を渡っていくか、それが問題です。

あまり興味のないラベルを取るために、貴重な人生の残り時間を使うのも辛いような気がします。

今来て下さっている当直専業の先生がたは、みんな50代で、リクルートの依頼にも、若い人はほとんどいないのが不気味というか、何を意味してるのか、よく分からないんですよね。。